トランプ政権後の低迷、あるいは購読マニアのバブル崩壊とでも言うべきか。ニュースパブリッシャーは近頃、トラフィックの減少と、それに伴うサブスクリプション登録の鈍化を感じ始め、実際にそれを目の当たりにしているようだ。しかし、読者はニュース以外のバーティカル、趣味や特に興味を持つ事柄に対して時間を割くようになった。
トランプ政権後の低迷、あるいは購読マニアのバブル崩壊とでも言うべきか。ニュースパブリッシャーは近頃、トラフィックの減少と、それに伴うサブスクリプション登録の鈍化を感じ始め、実際にそれを目の当たりにしているようだ。
しかし、トラフィックがニュース速報から離れるなかで、読者はニュース以外のバーティカル、趣味や特に興味を持つ事柄に対して時間を割くようになった。
「2020年にもっとも購読数を伸ばしたストーリーと2021年にもっとも購読数を伸ばしたストーリーを比較すると、2020年には政治や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が多かったのに対し、2021年はライフスタイルや一般的な関心を引くストーリーが多くなっている」と、アトランティック(The Atlantic)の最高経営責任者(CEO)、ニック・トンプソン氏は述べる。
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ガネット(Gannett)、サロン(Salon)、アトランティックなどのパブリッシャーは、こうした変化に気づいただけでなく、読者の衝動をうまく利用して、自社サイトのほかのエリアにトラフィックを誘導し、ロイヤルティを高めて、これらの読者を有料購読者にしようとし始めている。彼らが行っていることには、コンテンツに特化したランディングページの作成、それらのテーマに関するより多くの記事を作成するための投資、また、どのような読者がそれらのカテゴリーに戻ってきたかの綿密なトラッキングなどがある。
「隔離が始まった当初、人々は新型コロナウイルス感染症の情報を得るためにサロンを訪れていた。そして、それらの記事が消費されたあと、人々は心地よいと思える何かをクリックする可能性が高いようだと気づいた」と、サロンの最高収益責任者(CRO)、ジャスティン・ウォール氏は話す。
サロンは「フード」
2021年初頭、ウォール氏のチームは、まだ初期段階にあった、主にライセンスされたコンテンツを掲載していたフードコンテンツのバーティカルを、サイト内でより確立されたパートに変えることを決定した。その後、5月にはアシュリー・ダニエル・スティーブンス氏がフードおよびカルチャー担当のライターからフード部門の副エディターに昇格し、フード関連記事に全面的に注力することになった。そして、サロンのマネージングエディターであるジョセフ・ニース氏が、このバーティカルを成長させ、バーティカルのために週4本程度の記事を管理・掲載する任務を負っている、とウォール氏は語る。CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)では、レシピをフォーマット化するための特定のウィジェットも作成された。
ウォール氏は、「任意の1カ月の読者の回帰(リターン)率が増えることは、我々にとって成功の指標であり、編集者とともに毎月注目して見ている」と述べる。
平均して、2021年にサロンに回帰してきた読者の11%がフードコンテンツから直接ナビゲートされており、全ページビューの20%がフードコンテンツからのものだったとウォール氏は話す。売上の観点からは、フードコンテンツのRPM(1000ページビューあたりの売上)はサイト平均より15%高く、ニュースや政治報道より30%高いと、ウォール氏は付け加える。
このように回帰してくる読者は、ウォール氏のチームにとって二次的な目標であるサブスクリプションの販売先として、非常に魅力的な候補者となる。読者からの1ユーザーあたりの売上は、広告からの1ユーザーあたりの売上をはるかに上回るとウォール氏はいうが、RPU(ユーザーあたりの売上)がどれだけ増加するかについては、正確な数字の共有はしなかった。現在、サロンは総売上のほぼ100%をプログラマティック広告に頼っている。ウォール氏は、サブスクリプションが売上の15%以上に成長することはないと考えているが、サブスクリプション売上が、サロンが毎年第1四半期に直面するプログラマティック広告購入額の落ち込みを相殺するのに役立つと述べた。
社内指標によると、サロンの月間ユニークユーザー数は平均1000万人で、そのうち有料購読者は1%未満だが、今後数年間でこの数字を3~4%に引き上げることが目標だと付け加えた。
アトランティックは「ライフスタイル」
一方、アトランティックは、ライフスタイルや一般的な関心事を扱うコンテンツ、特に現在進行中の「ハピネス(happiness)」バーティカルの記事が、購読者のコンバージョン(転換)に特に成功していることに気づいたとトンプソン氏は語る(このコンテンツのコンバージョン指標は明らかにしていない)。また、この傾向は確認できているものの、購読ビジネスを推進するための意図的な戦略にはしていないという。
トンプソン氏によると、アトランティックが行ったのは、サイトの再循環アルゴリズム、つまり、サイドバーや記事の下に、読者が次にクリックすべき記事を提案する方式のテストだという。データ上では、複数のバーティカルサイトにアクセスする読者は、購読に至る可能性が高いからだ。
ひとつのテストでインパクトのある結果を出すことに成功した例はないが、これはアトランティックが今後も実験を続けていく分野だ、とトンプソン氏は付け加えた。
ガネットは「特集記事」
ガネットのUSAトゥデイ・ネットワーク(USA Today Network)は2022年、特集記事にも力を入れ、たとえば、犯罪ドキュメンタリーやヘルス、ウェルネスなど、トピック別のランディングページを制作することにしている。あるトピックやカテゴリーに関する数十年分のコンテンツをまとめて、読者が閲覧できるようにするという。これらのコンテンツにはすべての読者に無料で提供されるものもあるが、ガネットの最高マーケティング責任者(CMO)であるマユール・グプタ氏は、その多くは、興味を持ったときに読者を購読者に変換することを目的としたペイウォールコンテンツになるだろうと述べる。
「我々は、保存期間が非常に短いニュース報道とは異なり、保存期間を問わないコンテンツの膨大なポートフォリオを持っている」とグプタ氏はいう。そのため、ニュースだけでなく、自社のコンテンツのバーティカルやカバーする領域へのリーチと認知度を高めるために、「時代を超えた関連性の高いトピックをユーザーが発見しやすくすること」が大きな焦点になっている。
ガネットの2021年第3四半期の決算報告書によると、同四半期の売上はデジタルのみの購読料が2570万ドル(約29億5000万円)を占め、2020年第3四半期から前年同期比27%増となっている。また、最新の決算報告書によると、同社は2021年9月をデジタルのみの購読数約150万で終えているが、年末の目標は170万を超える数字を達成することだった。
ガネットはさらに、「USA トゥデイ・スポーツ+(USA Today Sports+)」のコンテンツとアプリ(月額4.99ドル)やクロスワードパズル(月額2.99ドル)など、ニッチな購読者限定のバーティカルサイトも立ち上げ、特集記事に関するコンテンツにお金を払ってもいいと思う読者をターゲットにしている。これらの購読は各バーティカルと結びつけられており、たとえばUSAトゥデイのすべてに及ぶわけではない。同社は、スポーツ+とクロスワードの購読者数の合計を明らかにしていない。
この方針は、最終的には、USA トゥデイ・ネットワークが提供するすべてのコンテンツをカバーするアンブレラ・サブスクリプションを導入し、特定の関心を持つ読者とニュースだけを読む読者のギャップを埋め、パブリッシャーが持つすべてのコンテンツの利用を促すというものだ。
ニューヨーク・タイムズは「スポーツ」
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は2月初め、2021年通年の決算発表において同様の計画を発表、新たに買収したスポーツブランド「アスレティック(The Athletic)」とニューヨーク・タイムズとのバンドルに言及した。これにより、スポーツ記事の読者をニューヨーク・タイムズのエコシステムに取り込むだけでなく、ニュースサイクルが緩やかなときやスポーツのオフシーズンにも読者を維持できる可能性が出てくる。
[原文:Why news publishers are using non-news content to hook readers and turn them into subscribers]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:黒田千聖)
Illustration by IVY LIU