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なぜ日本の CPM は低いのか?:人口減少時代に CPM を上げるために

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本記事は、zonari合同会社代表執行役社長/電通総研パートナー・プロデューサーの有園雄一氏による寄稿コラムとなります。

日本経済は、グロスの数字から脱却しなければならない。「国内総生産(Gross Domestic Product:GDP)」ではなく、「一人当たりの生産性(たとえば、一人当たりのGDP:GDP per Capita)」を高める必要がある。一人当たりの生産性が上昇すれば、平均賃金とも正の相関があるため、給与も上昇しやすい。

これを、メディアや広告業界の視点で考えれば、媒体のCPM(Cost per Mille:1000回インプレッション当たりの広告費)を引き上げるのが鍵だ、と私は考えている。

もちろん、CPC(Cost per Click:1クリック当たりの広告費)と言ってもいいが、どちらにしても、グロスの媒体費ではなくて、広告の単位コストを高くしていくことが重要な時代に入ってきた。

よく言われることだが、人口減少時代において、国全体のGDPを伸ばすのは難しい。でも、一人ひとりの生活の質や豊かさに焦点を当てて、「一人当たりのGDP」を高めていくことはできるはずで、おそらく、私が言わなくても、多くの人が分かっていると思う。

この一人当たりのGDPは、OECDの2020年の数字で、世界30位。いまや日本は、シンガポールや香港、韓国よりも低い、かつ、OECDの平均以下だ(参照)。

つまり、「失われた30年」を経て、日本の順位は大きく低下し、我々はキャッチアップする立場になった。逆にいえば、改革・成長の余地がたくさんある。もちろん、これから、少子高齢化で人口が減少し、生産年齢人口も減っていく見込みだ。でも、だからこそ、グロスのGDPではなくて、一人当たりのGDPを高めるしか選択肢がないはずだ。

このような認識は、すでに多くの人に共通していると思う。その共通認識をベースに戦略を構築できれば、生産性を高めることは可能だ。それに、キャッチアップは我々の得意分野だ。戦後の日本は、敗戦の荒廃から立ち上がってきた経験がある。当時は、欧米に追いつけ・追い越せでやってきた。

といっても、私がここで、日本の国家全体の成長戦略を論じるつもりはない。私は、その適任者ではない。だが、メディア・広告業界にスコープを限定すれば、私の経験から、戦略の糸口を書いてもいいのではないか? 広告代理店・媒体社・広告主・生活者にとってメリットがあり、かつ、CPMを上げていくことができればいいと考えている。

カギは媒体のCPMにある

先ほども書いたが、メディア・広告業界の場合、そのカギは媒体のCPMにある、と考えている。メディア・広告業界でも日本経済全体と同じように、GDPのようなグロスの数字ではなくて、一人当たりの生産性に意識を向け、給与水準を上げていく時代だと思う。

そのために何をするべきか。その戦略が業界で共有できれば、業界内の一人当たりのGDPを押し上げて、各個人の給与水準を、引き上げることができるはずだ。

特に、総合広告代理店と新聞社・テレビ局などの伝統的な媒体社にとって、とても重要なことだと思っている。なぜなら、日本経済のGDPが伸びないとき、グロスのマス広告の媒体費も伸びない(傾向がある)からだ。だから、新聞社・テレビ局のネット媒体でも、将来に向けてネット広告の単位コストを少しでも高くしていったほうがいい。もちろん、そのためには、それに見合う効果がなければならない。それが仮に、ブランディング目的だったとしてもだ。

業界では常識だとは思うが、日本のCPMはかなり低い。アメリカの知人によれば、ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)や フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)は、CPMが200ドル(約2万円超)ぐらい。一方、日本では、CPMが数百円というケースも珍しくない。経済紙など専門媒体でも、高くて2000円程度だ。

先日、日本経済新聞社の知人と議論したのだが、日経の傘下にあるフィナンシャル・タイムズのCPMは、たしかに、そのぐらいの数字になっているとのことだった。

「なぜ、日本と欧米のCPMは、そんなに差があるのか?」。ウォールストリート・ジャーナルやフィナンシャル・タイムズは英語圏の広告主が対象になるため、ある意味でグローバルに需要があって優良な広告主数も多い。また、両媒体ともに、そのブランドはグローバルに浸透している。そのため、日本語圏だけを対象にする日本の媒体社とは「比較にならない」。

だが、一方で、「たしかに、仮にそうだとしても、10倍、20倍の差があるのはおかしい。日本経済の規模を考えると、そんなに大きな差が出るのか? そこには、何かほかに、原因があるはずだ」と。

なぜ日本のCPMは低いのか?

日本のCPMが低い原因はどこにあるのか? 90年代に米国で働いていた私は、ネット広告が日本に導入されたころ、コミッション制(手数料制)とフィー制(作業報酬制)のどちらにするべきかをアメリカ人と議論した経験がある。

アメリカ人は、日本のコミッション制は広告代理店に有利であり、媒体社や広告主には不利だと主張した。「コミッション制では、CPMも、CVRも、上がらない」と。

だが、そのフィー制では、当時の電通・博報堂の理解が得られなかった。そのため、アメリカ人も仕方なく、コミッション制を飲まされた。

アメリカ人曰く、「フィー制にしないと、適切にマーケターの能力が評価されない。それでは、広告効果が改善しない。その結果、CPMは上がらない。ついでにいえば、広告代理店の営業スタッフが重視されて、デジタルに強い有能なマーケティング人材が育たない」と。正直に言うと、当時の私は、その意味があまりよく分かっていなかった。

当時の電通や博報堂の言い分は、こうだ。「日本には日本の商習慣がある。テレビCMのように媒体費の30%など手数料を受け取る。その結果、ネット広告を売るインセンティブが働くので大量に売ることができる。また、日本にはメディアレップという組織があって、その手数料で煩雑な出稿管理業務を一手に引き受ける」と。

CPAの計算式が頭に入っている人にはすぐにわかるはずだが、CPAを改善するには、CPCやCPMなど単位コストを下げるか、CVRを高くする必要がある。あるいは、CPAを一定に維持してCVRを高くすると、CPCやCPMなどのコストが高くなっても許容できる。

当時のアメリカ人の言い分は、こんな感じだった。「フィー制にすることで、一人ひとりの能力や工数に応じて単価を設定し、個人の能力を評価できる。個人の能力をベースにして、効率改善や効果向上を正当に評価していくことで、結果的に、CVRが上昇し、CPMも高くなっていく。CVRの上昇は広告主にとってプラスであり、高いCPMは媒体社にとってプラス。生活者視点では、無駄な広告が減っていくので、広告を煩わしいと感じることが少なくなる。なぜなら、効率化は効果が低い広告を削減していくからだ」と。

当時の力関係で、ネット広告の外資系企業が日本市場に参入して生き残るには、電通・博報堂を中心とした商習慣を受け入れるしか、選択肢はなかった。私の視点からは、そのような理由で、歴史的に、コミッション制がデフォルトになった。

コミッション制を選んだ結果

もちろん、実際の業務では、広告主の要望に応じて(特に外資系の広告主の場合などは)、フィー制を導入しているケースもある。その場合は、媒体費が増えても減っても、作業にかかった工数分を人件費として広告代理店は請求する。たとえば、上流のマーケティング戦略の設計やキャンペーンのディレクション料やクリエイティブ制作料、コピー作成料、メルマガ作成料、入札戦略設計料、広告運用管理・データ管理料などの作業費や人件費だ。

私自身は独立してデジタルマーケティングのコンサルティングを10年以上してきたが、フィーとして自分の価格を自分で設定し請求してきた。無限に時間があって無限に仕事をこなせる訳ではないため、コスト効率を改善して広告効果を高めて広告主の満足度を上げること(そうじゃないと契約を切られる)、および、自分自身の単位時間当たりの付加価値(値段)を高めることにフォーカスしてきた(広告主が満足してくれると、単価が上がることもある)。

一方で、コミッション制では、媒体費を上げることが重要になる。なぜなら、媒体費に連動した料率で代理店手数料が決まるからだ。そのため、当然のことだが、コスト効率を改善しようというインセンティブが働きにくい。

CVRを改善すると媒体費が減ってしまうこともあり得るため、その場合は、せっかくCVRを改善しても代理店は損をする。たとえば、これまで100万円で100件のコンバージョンが獲得できていたとしたら、改善の結果、50万円で100件のコンバージョンが獲得できた、というケースもあり得る。それでは、媒体費が半分になってしまう。広告主は嬉しいが、代理店は損をするのだ。

私の現場業務の経験では、電通や博報堂で、CVRを改善したマーケターや広告運用者が、高く評価されるケースをみたことがない(もちろん、私の知らないところで評価されているかもしれないが)。おそらく、業界構造的にもビジネスモデル的にも、CVRやCPMの改善率、CV数の増加率などの広告効果の改善指標で、従業員の業績評価を実施してはいないだろう。なぜなら、コミッション制では、広告の効率改善や効果向上は、広告代理店の売上低下に繋がってしまう懸念があるからだ。

コミッション制は、テレビCMのように電通・博報堂の寡占市場ならまだ良かったのだが、ネットはオープンな市場で多くのネット代理店との競争になった。結果的に、手数料の値下げ競争に陥って、コミッション制であっても、マス広告に比べて利益率が悪くなった。

つまり、振り返ると、90年代当初の電通・博報堂の目論見通りにはならなかった。

プラットフォーマー側の戦略

さらに、Googleなどのプラットフォーマー側にいた私たちは、1990年代にコミッション制を飲まされた訳だが、今度は逆に、2003年ごろから、そのコミッション制を利用し、そこに便乗する戦略をとったのだ。

アメリカ人曰く、「日本の広告代理店は、媒体費連動のコミッションで働いてくれる。だから、それを利用する戦略を構築しよう。グロスの売上目標で釣って少しだけキックバックしながら、表彰制度なども使って広告代理店同士を競争させるのだ」と。

もう時効だと思うので正直に告白すると、「アメとムチ」戦略を実行した。失礼な言葉なのは承知しているが、実際に、プラットフォーマーの社内では勢い余って、そういう不適切な表現をすることもあった(本当にごめんなさい)。

私の感覚では、2005年ごろから徐々に力関係が変化して、プラットフォーマー側は強気になっていった。たとえば、電通や博報堂、サイバーエージェントなどの広告代理店別に階段状の売上目標テーブルを用意して、その売上目標を代理店が達成したら、1%、2%など若干多めのキックバックをした。

もちろん、代理店とも契約で合意の上だし、きちんとキックバックを払っていたが、その結果として、それぞれの代理店の現場の方々に無理を強いたのだ。

広告代理店を競わせて、プラットフォーマーの売上拡大に協力してもらう。一方で、優秀な人材を総合広告代理店からヘッドハンティングして、テレビや新聞などのマス広告予算をプラットフォーマー側に振り替えてもらう。そんな戦略を構築し、ナショナルクライアントに直営業をしていた。

媒体費のグロス金額に連動するモデル(コミッション制)の場合、GDPが右肩上がりで上昇し、かつ、コミッションの値下げ競争に陥らない状況なら、利益確保が容易だった。つまり、高度経済成長時代で、かつ、テレビCMのように限られた広告枠を、限られた代理店だけが扱っている市場であれば、電通も博報堂も安定的に利益の確保ができた。

だが、ネット広告市場では、多数の代理店が競争し、コミッション率低下の圧力が働く。それがわかっていたので、プラットフォーマー側はそこを狙って、インセンティブターゲットを設定した。1%でもいいから、料率を高くしたいという動機が代理店側にある。さらに、代理店同士は当然、自ずと競争するわけで、その流れに便乗した。

その結果、ネット広告の現場業務を広告代理店側で担う人々に皺寄せが生じ、もちろん、誰にも悪意はないのだが、広告代理店の現場に大きな負荷がかかっていたはずだ。

結果的に、現場のネット広告担当者が、CVRを改善するとか、クリエイティブ変更して効果を高めるとか、そのような一人ひとり担当者の能力やパフォーマンスを評価するという文化は醸成されず、およそ30年を経て、CPMは低いままになっている。

RPMを中核に据えて考える

このCPMだが、GoogleやYahoo! などのプラットフォーマー側も媒体社でもあるので、もちろん、常にトラッキングしていた。それぞれ、彼らからの立ち位置からすれば収益なので、RPM(Revenue per Mille:1000回インプレッション当たりの売上)、Search RPM(Search Revenue per Mille:検索1000回当たりの売上)、RPS(Rvenue per Search:1検索当たりの売上)などを使っていたが、基本のコンセプトはみんな、CPMと同じだ。

RPM、そのビジネスの中心」という記事でも書いているが、たとえば、検索連動型広告のSerach RPMは、以下の式で表現される。

Search RPM = (Revenue/Queries)×1000

この数式を分解していき、最終的に、Price(価格)、Quantity(量)、Quality(質)の要素に分けて、営業戦略を構築していた。

つまり、RPMを伸ばす戦略は、「Price戦略」「Quantity戦略」「Quality戦略」の3つから構成される。そして、このRPMは単位売上なので、検索の場合ならGoogle Japan全体の検索数の数値を伸ばす戦略と、このRPMを伸ばす戦略の両方を意識していた。私自身が営業戦略担当だったこともあって、これらの数値をトラッキングして、Google Japanの戦略構築に活用していた。

私は、1990年代にシリコンバレーで就職し、外資系プラットフォーマー企業を合計4社経験している。その4社すべてがこのRPM(あるいは、CPM)をトラッキングしていたし、RPMを中核に据えて、アルゴリズムやシステムを戦略的に改善していたと思う。

そして、やはり、Googleがもっとも緻密だった。営業戦略でもRPMを活用し、かつ、システム開発も24時間365日止まらない感覚だった。いわゆるアジャイル開発の理想形だと思うが、毎日、ちょこちょことアップデートしてる感じだった。

そのひとつひとつのアップデートの目的が、私の感覚では、基本的に、RPMを意識しつつ、インプレッションや検索数を伸ばすこと、そして、UXを改善することだったと感じてる。

つまり、Googleを中心に米国では、RPM(あるいは、CPM)を高めるために、営業戦略を作ったり、システム開発をしているということだ。

コミッション制からフィー制へ

逆に、日本のネット媒体社が、RPM(あるいは、CPM)を意識して営業戦略を構築したり、システム開発をしているという話は、この業界に約25年ほどいるが、私の知る限り、耳にしたことがない。これは、日本の広告業界では、コミッション制が基本になっているために、広告の単位コスト(CPM)ではなくて、グロスの媒体費を優先してきたからだろう。

これからの人口減少時代にはまず、コミッション制からフィー制に移行することが大事だと考えている。そして、RPM(あるいは、CPM)を意識した戦略を、日本の媒体社も構築できるはずだ。おそらく、電通・博報堂などの代理店も、CPMを押し上げる戦略を構築すれば、現場の担当者の業務が効率効果の改善にフォーカスしやすくなる。その結果、広告の単位コストであるCPMの向上が、業界全体の一人当たりの人件費(給与)の上昇にも、徐々に反映される好循環を生み出せるのではないか? と思っている。

Written by 有園雄一
Illustration by IVY LIU