PUBLISHING IN THE PLATFORM ERA

講談社は、いかに 自社広告プラットフォーム を開発したか? :「 OTAKAD 」開発秘話

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デジタルプロダクトの「開発力」がないーーこれは、日本のパブリッシャーが慢性的に抱える、大きな課題のひとつだ。しかし、やりようによっては、開発力がなくとも、独自プロダクトをリリースできる。講談社は、それを証明してみせた。

「OTAKAD(オタカド)」は、いまから約2年前の2019年10月、講談社がリリースした「独自開発」のインターネット広告プラットフォームだ。当時のプレスリリースによると、この「読者のオタク的要素に着目した」広告プラットフォームは、AIによって閲覧記事の傾向から趣味趣向を指数化し、リアルタイムで読者属性に合致した広告配信をするという。

「OTAKADとは、DSPとアドネットワークのあいだみたいなプロダクトと、考えてもらうとわかりやすいと思う」と、このプラットフォームの開発を担当した、講談社 第一事業局 コミュニケーション事業第一部 プランナー、山崎瑛記氏は語る。「当時は、開発者が社内にいなかったので、外部ベンダーの協力のもと、社内リソースは自分ひとりで開発した。すべての構築が完了したあとでは遅かったので、根幹となる機械学習の構築と最低限のログ収集が完成した段階で、ベータ版という形でリリースした。広告ログの収集さえ『初案件が決まってから』構築しようという勢いだった」。

しかし、それでも自社開発にこだわって、プロジェクトに着手した。GoogleやFacebookに頼ったメディア運営というのは、限界に達しつつあるという実感があったからだ。その先には、「先細りしかないように思う」と、山崎氏は懸念を語る。「そうならないように、たとえ小規模なものでも、自分たちの手で道を作っていくことが、非常に大事だ」。

DIGIDAY[日本版]が3月25日にザ・リッツ・カールトン東京で開催した、パブリッシャーエグゼクティブのためのイベント「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT 2021」。本記事では、そのイベントで山崎氏が登壇したセッション「OTAKAD開発秘話〜立ちはだかる3つの壁をどう乗り越えたか〜」の内容をサマリーにしてお届けする。

「自分たちの手で道を作っていくことが、非常に大事」と語る、講談社・山崎氏

「売り上げを伸ばしていくために」

講談社といえば、言わずとしれた日本を代表するトラディッショナルなパブリッシャーのひとつだ。新文化によると、2020年のコロナ禍においても同社は、前年比6.7%増の1449億円を売り上げた。しかも、この年にはじめて、デジタル・版権分野を中心とした「事業収入」が、紙媒体の「製品」売上げを上回っている。

そんな講談社だからこそ、このOTAKADにも、開発には多くのリソースが投入されただろうと思いがちだが、さにあらず。プロジェクトが発足した2019年、先述したとおり開発メンバーは山崎氏しかいない状態だったという。「社内を見回してみても、広告プロダクト専門のエンジニアだけでなく、エンジニアそのものがいない。それどころか、雇う予定もなく、広告プロダクトを一から自社開発するリソースがない状態からのスタートだった」。

そんななか、山崎氏がまず着手したのが、外部リソースを頼ることを前提に、メリット・デメリットを分析することだ。たとえば、外部リソースを利用すれば、「スピード・コスト」の面では「○」。しかし、データ接続がプラットフォームに依存してしまうので、利用できないデータも出てくる。そのため、「パッケージ性」は「△」。さらに、プラットフォームを利用すれば、そこのルールの範囲内でしか戦えなくなるので、「独自性」は「☓」という具合だ。

「売り上げを伸ばしていくためには、『独自性』が一番鍵になると考えた。とはいえ、スピードも出して行きたい。スピードと独自性を両立させるため、データ設計の部分は自社開発。広告配信面やレポート、サードパーティデータのような部分は、積極的に外部プロダクトを利用するというハイブリッドな形で、チャレンジをはじめた」。

立ちはだかった「3つの壁」

しかし、見切り発車したのはいいものの、そうそうに3つの壁に突き当たったと、山崎氏は述懐する。1つ目は、「開発力」という壁。2つ目は、「意思決定のスピード」という壁。そして、3つ目は、「クライアントニーズ」という壁である。

見切り発車で、一番大きな煽りを食ったのが、1つ目の壁「開発力」だ。第1段のリリースへ間に合わせでこじつけたところ、思いのほかたくさんの要望があり、1人+外部リソースでは到底対応しきれない状況に陥ったという。だが、そこは組織に恵まれた。反響の大きさも手伝ってか、開発人員をすぐに補充してもらえたのだ。また、走れば走るほど、チームの技術力は上がっていき、なんとかなったという。「開発において、スピード感で、まだまだ納得いかない部分はある。課題も残る。だが、一番大事なのは根気だった」。

2つ目の「意思決定のスピード」は、大企業ならよくある話だ。ただでさえ、アドテクのトレンドは、日々定まることなく、常に移ろいゆく。そんななか、会社が承認するスピードが付いて来ず、開発を止めざるを得ないときもあった。それに対して現場ができる努力は、どうしても時間がかかる部分を極力最小化することだ。つまり、大局を左右しない小さな変更については現場判断で実行できる体制を整え、インパクトの大きいタスクだけを社内承認を得るようにした。ひと言でまとめると「優先順位が低いタスクを切り捨てる勇気」をもったということだ。

そして、紆余曲折する市場において正解が見えぬなか、売上にコミットする必要性を説いて回った。あわせて、市場への対応力も求められるいま、社内へ「スピード感と危機感の共有」も行ったという。もちろん、説得に関して社内を飛び回ってくれたチームリーダーや関係部署の理解の早さに助けられた部分も少なからずある。そのうえで、「正解がないなかで決断する勇気と、やり切る根気」は大事だったと、山崎氏は振り返った。

そして、いまは3つ目の「クライアントニーズ」という壁の攻略に取り組んでいる。これまでも対応フォーマットや課金体系、媒体単位のタイアップ記事やマンガ制作のような独自パッケージなどを用意して、クライアントニーズに応えてきた。しかし、それだけではまだまだ足りない。「(近い将来)企画から制作、配信、レポートまですべてワンストップで、OTAKADにて対応できる状況を作り出したい」と、山崎氏は野望を語る。

「道は自分たちで作るしかない」

こうした経緯を踏まえながら、OTAKADはコロナの影響を受けながらも、いまのところ非常に順調に売り上げを伸ばしているという。サッポロやユニクロ、楽天など多種多様なクライアントを獲得してきた。その甲斐あってか、具体的な数値の明言は避けていたが、2021年2月は昨年同期比で約8倍の売り上げを達成したという。

「もちろん、これが正解だとは、思っていない。自分たちでも力が及ばないことは多々ある」と、山崎氏はセッションを締めくくる。「だからこそ、パブリッシャー同士で手を取り合いながら、この業界を盛り上げていきたい。道は自分たちで作るしかないのだから」。

Written by 長田真
Photo by 渡部幸和