1年間で広告売上を2倍にするほど好調な、英タブロイド紙「デイリーメール(Daily Mail)」のオンラインメディア「デイリーメールコム米国版」。
その原動力となったデイリーメール北米CEOのジョン・スタインバーグ氏の年内退任が決まり、今後の行く末に注目が集まっている。同氏は、かつてBuzzFeedにも在籍し、大きな功績を残した「メディアマネタイズ請負人」ともいえる存在だ。
英紙「ガーディアン」によると、全世界の「デイリーメール」が集めるユニークユーザーの総数2億1200万人のうち、スタインバーグ氏が率いる米国版は最大の40%を占める。また、売上高成長率も、2015年9月時点で前年同月比38%を記録した。さらに、直近の2カ月間において、広告売上は68%増と、急速な伸びを見せているという。
1年間で広告売上を2倍にするほど好調な、英タブロイド紙「デイリーメール(Daily Mail)」のオンラインメディア「デイリーメールコム米国版」。
その原動力となったデイリーメール北米CEOジョン・スタインバーグ氏の年内退任が決まり、今後の行く先に注目が集まっている。同氏は、かつてBuzzFeedにも在籍し、大きな功績を残した「メディアマネタイズ請負人」ともいえる存在だ。
英紙「ガーディアン」によると、全世界の「デイリーメール」が集めるユニークユーザーの総数2億1200万人のうち、スタインバーグ氏が率いる米国版は最大の40%を占める。また、売上高成長率も、2015年9月時点で前年同月比38%を記録した。さらに、直近の2カ月間において、広告売上は68%増と、急速な伸びを見せているという。
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大衆タブロイド紙をベースにした、センセーショナルなトップ画面。人種間の緊張を高めているシカゴの白人警察官が、黒人の少年を射殺した2014年の事件をめぐり、「(正当な執行に基づかず)警官が黒人少年を追いかけ、16回の銃撃を浴びせた」疑惑を扱っている。
スタインバーグ氏の快進撃
デイリーメールの財務担当取締役ステファン・ディンティス氏は「(スタインバーグ氏が舵を取る)米国版の成長速度は、ずば抜けている。昨年期(同社は9月決算)を通じて、米国版の広告取引におけるポジションと広告代理店におけるポジションを引き上げる努力が行われた。英国本社が見込んだよりもずっと多く、米国版がテレビに取り上げられたことにより、メディアエージェンシーと、メディアバイイングのスケジュールにおいて関心が寄せられるようになった。米国のオーディエンスが報酬をもたらし始めたのだ」と説明している。
ほかにディンティス氏は、メッセージングアプリ「Snapchat」とのタイアップ、eコマースの収益も米国版の好調に貢献したと話した。メールオンラインは広告売上のうち66%を英国で稼いでいるが、オーディエンスは40%が米国からもたらされており、メディアエージェンシーの評価の高まりにより、今後米国版の売上比率が拡大していくとみられる。
これらの快進撃を演出したのが、デイリーメール北米CEOのスタインバーグ氏だ。その成功を実現するまでに、38歳の若きCEOが要したのは、2014年6月の就任からわずか1年5カ月だった。
スタインバーグ氏は、就任時の米4大ネットワーク「CNBC」のインタビューで、テレビやさまざまな媒体に向けられる広告予算を獲得したいと語っていた。「ネイティブはモバイルでもっとも効果的だ」と、モバイル戦略に力を注ぐことを明言していた。
メディアマネタイズの達人
かつてスタインバーグ氏は、BuzzFeedでCOO、プレジデントとして辣腕を振るった人物でもある。同社の事業の肝であるネイティブアドの商品開発、ソーシャルでの記事配信体制を構築した。ちなみに、大学卒業後には、商業不動産管理ソフトウェア企業を起業。その後、Googleでマネージャーなどを経験した経歴をもつ。
BuzzFeedではキャリア最長の4年間を務め、従業員が15人から500人に増えるほどの急速な成長に寄与。ソーシャル拡散によりリーチを稼ぐネイティブアドの開発を進め黒字化したともいわれる同社のビジネスに、大きな貢献をしたひとりといっても過言ではない。
しかし、創業者・CEOのジョナ・ペレッティ氏と確執を抱えるようになり、デイリーメール北米のトップに引き抜かれた。スタインバーグ氏は「CNBC」のニュース番組に定期的に出演。スクエアの新規株式公開などテクノロジー関連のニュースのコントリビューターを務め、メディアの認知を広めたほか、前述のように米国版の広告枠の価値を高めた。
タテ型動画の普及に注力
在任期間にスタインバーグ氏が注力していたのはタテ型動画広告の市場だった。デイリーメールは2015年6月、メッセージングアプリ「Snapchat」、広告世界最大手WPPとの共同出資で、タテ型動画の制作にフォーカスを当てた広告制作会社トラフル・ピッグ(Truffle Pig)を開設。同会社で制作した広告をデイリーメールと「Snapchat」の媒体上でテストし、各メディアへの浸透を図る目論見だ。
同氏はタテ型動画が、ヨコ型にくらべ9倍の視聴完了率があるなどとキャンペーンをしており、タテ型広告市場の開拓に意欲を燃やしていた。スタインバーグ氏は「今回設立するクリエイティブ・スタジオは3社で運営し、『タテ型動画』を制作することに集中する。我々は『タテ型動画』の未来に賭けた。将来的にモバイル動画は『タテ型』が主流になるだろう」と自信を示していた。
「Snapchat」のディスカバリーに、「デイリーメールコム米国版」が提供するコンテンツ。米国版はこのチャンネルからトラフィックを稼いでおり、「Snapchat」との広告制作代理店設立の足がかりになった。
しかし、スタインバーグ氏は2015年末で退任する。在任期間は、同氏のキャリアのなかでは決して短くない1年半になる。広告メディア「Adweek」によると、スタインバーグ氏は自身の業績を振り返って「米国版にとって、素晴らしい成長期間になった」とは述べたものの、今後の行き先には触れていない。
デイリー・メール本社のマーティン・クラークCEOはスタインバーグ氏の功績を讃えたが、同社北米のナンバー2は2015年11月に7カ月の在任の後に退社しており、トップのスタインバーグ氏よりも期間が短かった。
Written by 吉田拓史
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