アドテクベンダーとパブリッシャーの関係がかつてないほど緊張状態にある。この5年間で、プログラマティック取引は、パブリッシャーにとって、ディスプレイ広告のインベントリー(在庫)をマネタイズするために利用する程度の存在から、多くの目的で利用する重要な存在へと変わった。だが、いつしかこのバランスが崩れ、その状態が定着してしまった。
アドテクベンダーとパブリッシャーの関係がかつてないほど緊張状態にある。
この5年間で、プログラマティック取引は、パブリッシャーにとって、ディスプレイ広告のインベントリー(在庫)をマネタイズするために利用する程度の存在から、多くの目的で利用する重要な存在へと変わった。英国における2015年のデジタル広告支出額は30億ポンド(約3800億円)だったが、その60%以上がプログラマティックで取引されたと、英国の業界団体「インターネット広告協議会(IAB:Internet Advertising Bureau)」は報告している。
だが、この活気に湧く業界が、一部のパブリッシャーにとってはメリットだけでなくトラブルをもたらす存在となっている。その火種は数多くある。
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影響力を強める怪物
ベンダーのマージンとなるいわゆる「アドテク税」は長く続く苦しみをもたらす存在だ。英紙「ガーディアン(The Guardian)」が現地時間10月4日に報じたところでは、広告主がプログラマティック広告に支払う費用のうち、パブリッシャーが得られる金額は1ポンドにつきわずか0.3ポンドだという。
ビューアビリティ(可視性)などの点で基準が存在しないことも、かなり頭の痛い問題だ。また、自社のアドテクの仕組みについて十分に情報を公開しないベンダーの存在も、パブリッシャーを苛立たせている。そのため、良好なパートナーシップを築いている例がある一方で、両者の関係がきわめて悪化しているケースも見られるのだ。
「かつては小規模な(取引上の)提携先だった企業が、いまや完全に我々を顧客から引き離し、広告の選択と配信をコントロールする権利を奪っている」と、英国の全国紙でプログラマティックディレクターを務める匿名希望の人物は述べている。「我々は怪物を作り出した。そしていまや、その怪物が我々より大きな影響力を擁している」。
英DIGIDAYでは、さまざまな全国紙や雑誌のパブリッシャーに、彼らがもっとも懸念していることを尋ねた。すべての人には匿名を条件に語ってもらっている。彼らから出た主な意見をこれから紹介しよう。
失われゆく信頼関係
パブリッシャーは、大規模なところもごく小規模なところも、さまざまな理由から、アドテクが設定する「アジェンダ」を以前よりも疑いの目で見るようになった。なかでも重要なのは、力関係の変化だ。
「プログラマティックが登場しはじめたころ、パブリッシャーは、提携を深め、コントロールを拡大し、ビジネスの価値を高められると期待して、アドテクに参入のきっかけを与えた」とある全国紙のプログラマティック責任者はいう。これはたしかにうまくいった。パブリッシャーは、アドテクとの提携による直接的な成果として、ノドから手が出るほど欲しかった追加収入を得られるようになったのだ。
この幹部は、そのころの提携関係を「ワニとワニチドリ(ワニの歯につまった食べかすをついばんでキレイにする習性で知られている)」の関係になぞらえた。両者が互いにメリットを享受し、幸せに共存共栄できたからだ。
だが、いつしかこのバランスが崩れ、その状態が定着してしまった。「パブリッシャーとアドテク企業にとって、不合理な状況が拡大していった。まるで、血を吸うヒルのカラダがどんどん膨らみ、血を吸っていた相手の体より大きくなったかのようにだ」と、この幹部は語る。
「その結果、我々はアドテクのアジェンダを大いに疑うようになった。彼らのアジェンダは、短期的なビジネス上の利益をひたすら追い求めることが目的となっていることに、我々は気づいたのだ」。
不正行為?
まともなパブリッシャーは、不正なトラフィックや人間ではないトラフィックを望んだりしない。だが、そのようなトラフィックを一掃するという点に関して、パブリッシャーは矛盾を体験している。
ある雑誌社の広告運用担当ディレクターによれば、本来アドテクパートナーがブロックすべき不正なトラフィックが、自社の複数のサイトで思いがけず突発的に増加することがあるという。あるときには、不正なトラフィックがひとつのサイトで40%増加した。
「アドテクのパートナーにアドバイスを求めたところ、彼らの取った対応は、『アルゴリズムの調整』という外部からはよくわからないものだったが、不正なトラフィックは5%未満という通常の割合に戻り、とりあえず除去できた」と、この幹部はいう。
この不正なトラフィックがあれば広告インプレッション数は増えただろうが、ロボットに広告キャンペーンを提供するような事態は、パブリッシャーよりエージェンシーのほうがはるかに嫌がる。また、アドテクは独自の広告パフォーマンス監視ツールを使っているため、そのようなトラフィックの増加があればすぐに気づいただろう。
「当社のエージェンシーは苦情を訴え、リベートやキャンペーンの延長を求めていただろう。どうやら、我々が使っていたプラットフォームにトラブルが発生し、実際には不正なトラフィックの増加など起こっていなかったようだ。だが、彼らはこのことを認めようとしなかった」と、この幹部は付け加えた。
無駄になる広告インプレッション
購入側が自前の分析ツールを利用するのは当然のことだ。だが、分析ツールに基準というものはない。そして、そのことが、ある有料サイトのパブリッシャーに問題をもたらした。
よく知られていない不正トラフィック測定ベンダーが、一部の非常にニッチなサイトですべての広告インプレッションの半分をブロックしているという。これらのサイトは有料であるため、ボットによるトラフィックはほとんどないと考えられるにもかかわらずだ。「彼らは単に用心しすぎているのかもしれないが、多く(のインプレッション)を無駄にしている」と、このパブリッシャーの幹部は述べた。
また、回答をもらえても、満足できない内容であることが多い。「先方に連絡をして、そちらのテクノロジーが適切ではないと思っていることを伝える。すると、先方のアカウントマネージャーから連絡が来て、登録ユーザーの使っているツールバーが、彼らが昼食で席を離れている間に偽のインプレッションを生成していた可能性があるなどと答えるのだ。だが、なぜそのトラフィックが、詐欺サーバではなく我々の広告サーバを経由するのかと尋ねても、答えは返ってこない」と、この幹部は話す。
「我々がいまやらなくてはならないことは、信用のおけるベンダーの支援を得て、こうした問題を検証することだ。つまり、我々はアドテクが作り出した問題の解決にお金を費やしているわけだ」。
何よりも必要なのは、基準
ある一般向け雑誌のプログラマティックディレクターは、アドテクパートナーのあらゆる取り組みを精査しているところだと語った。「彼らはたいてい、正確なパフォーマンスデータを開示しない。とりわけ、自分たちの技術がページの読み込み時間に及ぼす影響に関するデータは明かそうとしない」と、この幹部はいう。また、最初の契約が成立すると、サポートがなくなるという声もよく聞かれる。
もちろん、良好な提携関係も見受けられる。また、パブリッシャーは、問題のあるベンダーを見つけることが徐々にうまくなっている。「私が注意しているのは、ビジネス畑の人間ではなく、技術屋がCEOを務めているアドテクベンダーだ。彼らにビジネス的な感覚がないと、こちらのビジネス上の問題を理解できない」とあるパブリッシャーの上級幹部は述べている。
アドテク市場がコモディティ化するなかで、多くのベンダーが自社の技術の仕組みを隠そうとしている。だが、パブリッシャーは透明性を高めることを強く望んでいる。
また、新しいベンダーが毎日のように生まれているが、問題の本質は変わらないままだ。「私がもっとも苛立ちを感じるのは、アドテク市場はあまりに多くのプロバイダーであふれており、いまだに基準が存在しないことだ」と、この幹部は付け加えた。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)
Image via Yusuke Umezawa(Creativecommons)