デジタルライフスタイルメディア企業、スリリスト(Thrillist)のCEO、ベン・レーラー氏は2016年7月、米DIGIDAYのポッドキャストで、「1年以内にテレビビジネスに進出する」と宣言。同氏のこの発言は、米のメディア大手から1億ドル(約100億円)の資金提供を受け、信憑性の高いものになった。
デジタルライフスタイルメディア企業、スリリスト(Thrillist)のCEO、ベン・レーラー氏は2016年7月、米DIGIDAYのポッドキャストプログラムで、「1年以内にテレビビジネスに進出する」(日本語版記事)と宣言。同氏のこの発言は、米のメディア大手ディスカバリー・コミュニケーションズ(Discovery Communications)から1億ドル(約100億円)の資金提供を受けたことにより、はるかに信憑性の高いものになった。
2016年10月13日(米時間)、ディスカバリー・コミュニケーションズのデジタルネットワーク「スィーカー(Seeker)」は、レーラー氏の父親が共同創業者の「ナウディス・ニュース(NowThis News)」と同じくレーラー氏の姉が創設したバイラルサイトの「ザ・ドードー(The Dodo)」とともに、持ち株会社としてグループ・ナイン・メディア(Group Nine Media)を設立すると発表。ディスカバリーは1億ドル(約100億円)分の少数株を持ち、2番目に保有数が多い株主はドイツの新聞最大手アクセル・シュプリンガーとなる。同社は、スリリストとナウディス、両方の株式も保有している。
レーラー氏は、グループ・ナイン・メディアを動画大手企業にしたいと考えており、数字からみても、同社は幸先のよいスタートを切った。グループ・ナインのメディア資産は、ソーシャルWeb全体で毎月35億ビューを獲得しており、これは現在のデジタル動画企業のトップ5に入る規模だ。世界最大のケーブルネットワークのひとつであるディスカバリーと直接的なつながりもあるので、グループ・ナインがテレビ広告で売上を出せるお膳立てはできている。
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ただしそうなる前に、グループ・ナインは、注目を集めるようなコンテンツを大量に制作する体制を大急ぎで整える必要がある。広告販売チームを強化し、いままでのようにひとつではなく、新たに4つの資産を通じて広告を販売できるようにしなくてはいけないし、バイヤーや消費者、特にグループ・ナインの各サイトが懸命にリーチしようとしているミレニアル世代が求めるコンテンツについて学ぶ必要がある。
こうした課題にどう取り組んでいくのかを知るために、米DIGIDAYは新たにグループ・ナインCEOとなったレーラー氏に取材を行った。これから紹介する内容には、簡潔かつ明瞭に要点を伝えるため、一部に編集を加えている。
――従業員に知らせたばかりだが、どんな反応だったか?
白状すると、僕は涙がこみ上げてしまった。まるで7歳の子どものように。自分の感情を抑えきれなかったことを除けば、何もかもとても上手くいったと思う。みんな、本当に興奮している。その興奮には当然理由がある。
――グループ・ナインは巨大企業ではないものの、いままでと比べればリーチもスケールもはるかに拡大した。それによってどんなことが可能になるのか?
メディアはいま、整理統合の時代に移りつつあるという基本信念がある。歴史を学べば、大きな破壊的創造のあとには必ず、整理統合がやって来る。
特にケーブルテレビのビジネスを振り返るとよくわかる。ケーブルネットワークの多くは1970年~80年代にスタートアップとして誕生し、当時の市場で優勢を占めていた普通のテレビ放送とパイプをもつことでその地位を固めていった。時間が経つにつれて、だんだんとグループ化が進み、いまのようなメディア複合企業、バイアコムやタイム・ワーナー、ディスカバリーが出来上がった。
こうした持ち株会社は、深くて、幅の広い、多様な資産を所有していた。深いというのは、特定のオーディエンスや特定の論調、専門分野をもっているという意味だ。幅広いというのは、ネットワーク全体を通じてそれを販売でき、集団の力を利用して市場でより重要なプレイヤーとなり、違う種類の話ができるようになるということを意味する。
デジタルの世界でも、いま同じことが起こっている。バイアコム、タイム・ワーナー、ディスカバリーがやったことを、我々はデジタル界でやろうとしている。
――グループ・ナインというブランドのすべてで長編の動画コンテンツ制作を目指しているようだが、その準備はできているのか?
巨大なテレビビジネスを支えるすべてのカテゴリーが揃っている。動物を扱うものとしては「アニマル・プラネット」や「ナショナルジオグラフィック」、ニュースではナウディス、グルメや旅行ならスリリスト、科学やテクノロジーはシーカーという具合に、該当分野で成功を収めている巨大な従来型のケーブルネットワークがすでに存在している。
準備の段階にもいろいろある。体制がもっとも整っているのはシーカーだ。シーカーはディスカバリーの一員だからだ。プロセスにはまだ先があるが、我々は独立したブランドでは作り得ないインフラストラクチャーを構築できるだろう。
――1億ドルの注入資金の使い道として、バーティカルを新たに拡大することがあると思うが、そうした拡大に向けて、一番成熟させる部分は何だと考えるか?
いくつかの事項を確認していく必要がある。消費者の視点と広告の視点から、従来のテレビネットワークで持続的に成功していて、ケーブルテレビの世界でも成長しているカテゴリーでなければならない。
だが、それと同じくらいに重要なのはブランドだ。現在作られているコンテンツの多くは、最大多数の人々に向けた、レベルの低いクリックベイト(釣り記事)だ。
そうではなくて、もし明日この世から消えたら人々が気づくような、それか、そのメディアがなくなると人々が寂しがるようなブランドを作るという発想が必要だ。それには、その分野での深い専門性が欠かせない。
――現代のコアオーディエンスは前の世代ほどテレビを観ないので、バイアコムのような企業でも苦しい闘いを強いられている。従来のテレビ放送に対するミレニアル世代の関心は高くはない現状で、なぜテレビ放送事業に参入するのか?
とてもいい質問だ。世間がテレビを観ないのに、どうしてテレビ番組を作ろうとするのか? その理由は、テレビを観る人が世の中にひとりもいないわけではないからだ。
冗談ではない。広告業者はテレビ広告をあきらめたようには見えない。これは巨大なビジネスなのだ。テレビがこれまで、見切りを付けられて次のモデルへと移行していかなかった理由は、収入源が2つあることだ。これは素晴らしいことだ。我々は、広告業者にコンテンツを売るが、コンテンツを作ることでも収入が得られる。
私は、どこに行っても消費者が出会うブランドになってほしいと願っている。これに関しては、デジタルメディアグループのVice Mediaがどこよりも上手くやっている。バイスが存在しない大手プラットフォームなんてひとつもない。それなしにはやっていけない地位を確立している。そんな風になりたい、といったら、世間知らずの若造の戯言のように聞こえるだろう。
だが我々には、我々のブランドを愛してくれるオーディエンスがいる。強い声を持ったブランド、動画作りを知り尽くしたブランドがある。1~2分の動画を作ることと、2分の番組を作ることは似ているが違うことを、我々はこれからたくさん学んでいくことになるだろうが、我々は重要なブランドを持っている。
Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)