オーディエンス開発の狙いは、Facebook流入から収益貢献へ

パブリッシャーがいかに読者にリーチするか、という判断において、オーディエンス開発のプロたちは昔から非常に重要な役割を担ってきた。しかし、最近では一層、収益こそがもっとも重要と、彼らは捉えるようになっている。人々がメンバー登録をしてくれる、サブスクリプションに登録してくれる、もしくはイベントのチケットを購入をしてくれる、といった期待のもと、ユーザーがサイトを訪れてくれるよう取り組んでいるのだ。

各社のオーディエンス開発

テッククランチ(TechCrunch)のオーディエンス開発ディレクターであるトラビス・バーナード氏は、広告ブロッキング対策や、ニュースレター登録を呼びかけるメッセージの記事への追記、そしてチケット販売をしているイベントのプロモーションに時間の大半を費やしている。オーディエンスがサイトを訪問して、何らかの形でお金を支払ってくれることが狙いだ。

「最初にオーディエンス開発に関わったときは、とにかくFacebookがすべてだった。それが必ずしもベストのアプローチだったとは思わない。そこに費やされていた作業と時間の多くを、複数の異なる分野に振り分けることに時間を割いている」と、バーナード氏は言う。

ボストン・グローブ(The Boston Glove)の新企画部門ディレクターであるマット・キャロリアン氏は、サブスクリプション関連のポップアップメッセージの文章を校正したり、サブスクライバー限定のニュースレターを確認することに多くの時間を割いている。ニュースレターへのコンバージョンはどう起きているか、サブスクリプション数はどうか、といった点に注目しており、FacebookやTwitterからのグロースはそれよりも優先度が低いようだ。

「長いあいだ、多くの人がグロースを気にしていた。いまでもそういったことは重要だ。しかし、その多くは、いまでは機械化されている。ファネル上部は獲得された状態で、いまは真ん中、そしてファネル下部に取り組んでいる」と、キャロリアン氏は言う。

仕事内容における変化

オーディエンス開発の仕事内容が変化している要因は3つある。トラフィック源としてのFacebookの衰退ビデオへの転向をしたパブリッシャーたちが、期待していたほどの収益を生まないと気づいたこと、そして読者からの収益への圧力だ。これらすべてが組み合わさって変化を生んでいる。ロイター・インスティチュート(Reuters Institute)の調査によると、デジタル・サブスクリプションは2018年、パブリッシング業界のエグゼクティブにとってはもっとも重要な収益源となっている。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やエコノミスト(The Economist)といったパブリッシャーでは、サブスクリプションは収益源として広告を抜いている。

Apple News、Google、Facebookとサブスクリプションを売れる場所は以前よりも増えている。そのことはオーディエンス開発をさらに複雑な仕事にしている。またコマースやイベントと、パブリッシャーが読者から収益を得る方法も増えている。

MITテクノロジー・レビュー(MIT Technology Review)のオーディエンス部門ディレクターであるローズマリー・ケリー氏は、コール・トゥ・アクションをカスタマイズするといった作業に時間を費やしている。特定のトピックに関する記事をたくさん読むリーダーを対象に、トピック関連のイベントのチケットをプロモーションするメッセージを表示する、といった具合のカスタマイズだ。

「オーディエンス開発の役割は、エディトリアル部門というよりビジネス部門のひとつとして、シフトしつつある」と、バーナード氏は言う。

給与構造も変わった

オーディエンス開発の性質が変わってきたことで、役職に対する給与構造も変わったケースもある。バーナード氏の場合、彼の役職上のゴールは常にトラフィックの増加と結びついていた。「10%増えているのか、15%増えているのか、といった具合だ。いまでは私のゴールはより収益やエンゲージメントと結びついている」と、彼は言う。

ソーシャル・メディア・マネージャーと呼ばれ、エディトリアルのスタッフからはしばしば誤解されていた人にとっては、このシフトは歓迎されているようだ。

「ビジネスやパブリケーションの存続により直接的に貢献できる方法が増え、面白くなっている」と語ったのは、スレート(Slate)のオーディエンス・エンゲージメント・エディターであるジェニー・チャング氏だ。スレートが抱えるメンバーシップ・プログラムであるスレート・プラス(Slate Plus)のためのプロモーション・モジュールをプッシュしたり、ライブチャットを主催するといった作業に彼女のチームは取り組む。それによって読者のロイヤルティと収益を拡大するというゴールを支援しているわけだ。「オーディエンス関連の多くの事柄が不明瞭だ。エンゲージメントが何につながるのか? 有料メンバーシップやサブスクリプションといったことに関わるより、ダイレクトなルートを持つようになり、スタッフはモチベーションがあがっているように思う」。

この転向の落とし穴

この転向には落とし穴が潜んでいないわけではない。パブリッシャーはこれまで、長いあいだ縦割りで仕事を運営してきた。それは変わりつつはあるものの、ひとつの部署が別の部署へと入り込もうとすると、縄張り争いが起きる可能性はある。トラフィック全体を増やすのではなく、収益のゴールを達成するという課題は、責任が重くなっている。読者収益を求める慌ただしさのなかで、取り組みがファネル下部に集中し過ぎる可能性も潜んでいる。読者が生み出す収益という点でのみ、読者に価値があると思ってしまうリスクがあるのだ。

読者のロイヤルティや収益にシフトしたことで、パブリッシャーたちはFacebook上でお金を払って、実際のターゲットに適していないオーディエンスにリーチするといった悪い慣習を止めるかもしれないと、パブリッシング・プラットフォームのレベルマウス(RebelMouse)のCEOでありファウンダーのアンドレア・ブレアナ氏は言う。しかし、Facebookが嫌いだからと言って、Facebookを完全に捨ててしまうべきではない。

「我々のクライアントのためにバランスを取ろうとしている。何かひとつの方向だけにあまりに速く進んでしまわないということが大事だ。やらないといけないことはふたつある。リーチとロイヤルティだ。ロイヤルティを持たないリーチを生み出しても成果は大きくない。だからといってFacebookが消えてしまったわけではない。何もお金を使わずに、2000万ユニーク数を増やしたクライアントもいる」と、彼女は述べた。

Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)