コロナ禍に苦しむパブリッシャー業界。BBCの商業部門であるBBCグローバルニュース(BBC Global News)もまた苦戦を強いられている。退任が決まった同社のCEO、ジム・イーガン氏に、今ビジネスチャンスはどこにあるのか、そしてパブリッシャーとプラットフォームの関係はどう変化しているかを尋ねた。
コロナ禍に苦しむパブリッシャー業界。BBCの商業部門であるBBCグローバルニュース(BBC Global News)もまた苦戦を強いられており、同社のオンライン広告事業は過去半年で2桁の減収となった。
コムスコア(Comscore)によると、同社も3月における月間ユニーク訪問者数は1億1530万人という記録的なトラフィックを記録したが、それでも例年のような収益を得られていない。だが8月になると、それまで抑圧されていた需要や延期されてきたキャンペーンの実施によって、オンライン広告収益は前年同期比で増加している。
現在はプログラマティック広告が反転しており、退任が決まった同社のCEO、ジム・イーガン氏は、広告収益がベースとなっているニュースの見通しは楽観的だと述べている。本稿では、今ビジネスチャンスはどこにあるのか、そしてパブリッシャーとプラットフォームの関係はどう変化しているかをイーガン氏に尋ねた。なお、以下のインタビューは内容を明瞭にするため若干の編集とまとめを行っている。
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――第4四半期の見通しはどうか?
それは地域や部門ごとに異なる。だが、全体的には下半期の見通しは依然かなり厳しい状況だ。3月頃には、さほど時間を置かずに状況が好転すると期待していたが、そう簡単にはいかないだろう。とはいえ、需要は膨らんでおり、キャンペーンなどを再開したい企業が増えているのもまた事実だ。だが、ワクチン提供の見通しが立ち、人々が安心して仕事に復帰できるようになるまでは市場への資金流入は減少したままだろう。
当社の場合、カナダと米国市場はかなり堅調だ。また、BBCの新規クライアントも出てきており、既存クライアントからも大型案件が増えている。とりわけホームエンターテイメント、技術、企業向けソフトウェアといった分野での案件が多い。こういった案件に助けられている部分が今年はかなり大きい。
――マーケターの支出を促すための取り組みは?
大きな困難にさらされている今、クライアントに対してこれまでとは異なるサービスを提供している。事業モデルに対する根本的な脅威と、大手広告主の多くが直面している課題を認め、できる限り忍耐強く、対応力を高めていく必要があるだろう。
――対応力という面で言えば、今後を予測する能力は向上しているだろうか?
これはどこでも同じだろうが、短期的な課題に追われ続けている。
さらに3月以降、毎日が前代未聞の環境のなか、「この瞬間を乗り切る」という危機感が薄れているのも感じている。これは人間とコミュニティ、そして企業の適応性の裏返しでもある。不確実性が減ったわけではない。不確実性に慣れてきたのだ。
――BBCグローバルニュースの収益構造はどう変わった?
これまで有料放送を主体としていた配信収益に対し、シンジケーションやオンライン提携の増加に伴うライセンス収益は相対的に増加しており、重要な収益だ。
オンライン広告の今後については、収益割合で短期的な変化はあったが、長期的なトレンドとしては変わっておらず、楽観的な見方をしている。
(ニューヨーク・タイムズの前CEO)マーク・トンプソン氏は、読者収益とサブスクリプション収益の重要性について非常に興味深い分析を行っている。とはいえ、広告収益が重要でなくなったというわけではない。これについては、社内で重点的に検討を進めている。オーディエンスをサブスクリプション収益のファネルにかけ、ファーストパーティデータを収集するというのは広告の見通しにおいても役立つ。オーディエンスとファーストパーティデータの結びつきというのは、コロナ禍だけの話ではない。危機がおさまった後も続く、長期的な傾向だ。
――Appleの最近の発表がBBCグローバルニュースに及ぼした影響は?
当社に及ぼした影響は大きくない。もちろん注視はしている。オーディエンスデータの収集源やプロファイル構築については、当社の所有するウェブサイトからの情報に基づいて、非常に慎重に行っている。データの可用性については、広告主のターゲティングをより正確にサポートするゼロパーティやファーストパーティを重視している。ユーザーデータのプライバシーを守り、懸念に対応するための取り組みにも他社以上に力を入れている。また、依存度を下げ、移行リスクも抑えている。
――プラットフォームとの関係性はどう変わった?
FacebookやGoogleで起きていることを注視している。非常に厳しい規制が現実味を帯びつつあり、規制を先取りするような新規パブリッシャーとの取引条件を考えるか、規制に対応する試みが必要だ。
――オーストラリアで起きていることについての見解を伺いたい
Facebookがあれほどすぐに、ニュース共有機能の停止という脅しに踏み切ったのには驚いた。商業面で、ニュースはさほど重要ではないというのは確かにそうかもしれない。だが、評判という面を考えれば、ニュースサービスやニュース系パブリッシャーとの健全な関係を築くことはかなり大切だ。特に政治関連において、ニュース業界とうまく付き合って行けなければ、事態は非常にややこしく、大変なことになりかねない。
プラットフォームとニュース系パブリッシャーが、適切な規制と枠組みのなかで連携できることを皆は期待している。もしそれが達成できれば、FacebookやGoogleが熱心に取り組んでいると主張するニュース分野のエコシステムの維持にも役立つだろう。これほど初期の段階で、Facebookがああいった敵対的な姿勢を見せたことは決してポジティブには捉えられない。
今回のことは、金銭面における、非常に重要な規制の取り組みの第一歩だ。これは規制下における媒体料率の案としては初で、意図しない不条理な結果を招かないように、公正な条件を求めるためのものだ。規制当局にとって非常に大変なタスクだろう。
商業的に資金供給を受けたジャーナリズムとパブリッシャーの、オーディエンスと広告主、SNSをめぐる関係は非常に複雑だ。だが、優れたジャーナリズムであれば、需要はかならずある。信頼できるニュースの需要はいつの時代でもあるのだ。だからこそ私は、当社の将来について根本的に楽観視している。
[原文:‘We’re getting more used to the uncertainty’ BBC Global News chief on ad-funded news]
LUCINDA SOUTHERN(翻訳:SI Japan、編集:長田真)