多くのローカルニュースパブリッシャーがデジタル広告のめまぐるしい変化に左右されるなか、ローカル・メディア・コンソーシアム(LMC)は2月10日、「ニュースパスID」のテスト結果を公開。パブリッシャーたちにとって、サードパーティCookieの廃止と新たなビジネスモデルの形成に対応できる可能性が開かれた。
米国のローカルニュースパブリッシャーの多くは、ここ数年のデジタル広告の変化について行くことができていない。そのため、広告そのものへの依存度を下げようと考えているパブリッシャーもあるほどだ。しかし、最近行われたあるテストの結果は、ローカルニュースパブリッシャーが、サードパーティCookieの廃止と新たなビジネスモデルの形成について行くことができるかもしれないことを示唆している。
勇気づけられた第一歩
ローカル・メディア・コンソーシアム(Local Media Consortium:以下、LMC)は2月10日、2021年春に発表した識別子、ニュースパスID(NewsPassID)のテスト結果を公開した。このテストにはLMCのメンバーであるマクラッチー(McClatchy)、リー・エンタープライジズ(Lee Enterprises)、E・W・スクリップス(E.W. Scripps)、テグナ(Tegna)が参加。オープンプログラマティックオークションでニュースパスIDを使用することで、販売されたインベントリー(在庫)のCPMだけでなくインベントリーの販売率が高くなるなど、パブリッシャーにとって著しく良い結果が得られると証明された。このテストには各パブリッシャーのインベントリーのごく一部が含まれていた。
当然ながら、最大の効果が得られたのはSafari、AMPなどのCookieレス環境で、ニュースパスIDのインプレッションは対照群より90%高いCPMで販売された。LMCによると、Cookieがまだ受け入れられている環境でも、ニュースパスIDのインプレッションの価値は45%高かったという。さらに、ニュースパスIDを使っているインベントリーは、ニュースパスIDを使っていない同じパブリッシャーのインベントリーと比べて、最大で25%多く販売された。
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しかし、ニュースパスIDがローカルニュースパブリッシャーに好まれる識別子になるには、導入規模の拡大やベンダーとの競争など、まだまだ大きなハードルを越えなければならない。それでも、LMCのCEOであるフラン・ウィルズ氏は、デジタル革命への対応に苦労してきたパブリッシャー集団の第一歩としては「勇気づけられた」と述べている。
「いまやすべてが量より質」
LMCがニュースパスIDの構築を決断した理由のひとつは、プログラマティック広告の二の舞を避けたかったためだ。プログラマティック広告では現在、広告バイヤーが行動ターゲティングを使い、オーディエンスとのあいだに存在するパブリッシャーを排除しようとしている。
LMCによる別のイニシアチブ、ニュースネクスト(NewsNext)が招集したワーキンググループは、既存のサードパーティ識別子をいくつかテストし、オーディエンスデータのコントロールを放棄することを正当化できるほど価値をもたらすものはないと判断した。ウィルズ氏はテストした識別子について「よく名前が挙がるもの」と表現し、具体的な名前は明かさなかった。チャタムハウスルール(Chatham House rules)、つまり「得られた情報を利用できるが、その情報の出所、参加者の所属などに関しては明らかにしない義務を負うというルール」に従って、テストを行ったと述べている。
LMCはインベントリーにIDを付けるだけでなく、そのインベントリーがどのように市場に出るかをコントロールしようとした。たとえば、2021年に成功を収めたパブリッシャー広告アライアンスのオゾン・プロジェクト(The Ozone Project)と連携し、ニュースパスIDのインベントリーを見るデマンドソースを絞ることで、入札者の数を最大化するのではなく、それらのパブリッシャーから購入したことがあるデマンドソースに利用してもらうことを重視した。
そのようなアプローチは、現在は一般的ではないが、プログラマティック広告の広範な変化を象徴していると、プログラマティックとデジタルメディアを専門とするコンサルタントのロブ・ウェザーヘッド氏は説明する。
「従来の考え方は『可能な限り多くの需要を供給にもたらし、オークションを高騰させる』というものだった」とウェザーヘッド氏。「しかし、いまやすべてが量より質の方向を目指しており、それは(プログラマティック)サプライチェーンのあらゆる点に当てはまる」。
懸念されるのは事業規模
しかし、そのような変化はある程度の規模を前提としており、現在のニュースパスIDはまだ、広告主が魅力を感じるような規模には程遠い。コムスコア(Comscore)によれば、米国のインターネットユーザーは1億9200万人超で、LMCのメンバーはその大部分にリーチしているが、そのオーディエンスはひとつの大きなグループ全体に分散しており、メンバー全体にニュースパスIDを導入するのは大変な作業になるだろう。パイロットプログラムに参加した4つのパブリッシャーは、このようなテストに必要な開発リソースと専門知識を持っているが、LMCのメンバーの多くははるかに規模が小さく、技術的にもはるかに劣っている。
「我々は現実的な期待値を設定しようとしている」とウィルズ氏は話す。「あと2年で終わらせることができたら、目的を達成したと実感できるだろう」。
LMCはパブリッシャーの追加を続けており、ニュースパスIDがサポートするインベントリーの種類を拡大することも検討している。現在、積極的に探っているのは、メンバーのCTV(コネクテッドTV)のインベントリーを組み込む方法だ。地方のパブリッシャーにより大きな規模をもたらすためでもあり、ニュースパスIDとネットワークが引き付けようとしている全米規模の広告主のニーズを満たすためでもある。
ニュースパスIDのテスト結果に関する報告書を執筆したコンサルタントのスコット・カニンガム氏は「CTVがなければ、キュレートされたマーケットプレイスのセット販売を考えることすらできない」と話す。「(2月7~10日に開催された)IAB(インタラクティブ広告協会)の年次リーダーシップミーティング(ALM)では、皆がクロスデバイス測定について話していた。測定とアトリビューションの観点から、マーケターは(デバイス間で)どのように物事が起きるかを知りたがっている」。
そのような体験が加われば、ニュースパスIDは広告主にとってはるかに魅力的なものになる。ただし、規模が拡大すればの話だ。「(ローカルニュースパブリッシャーは)間違いなく利益を得られる」と、ウェザーヘッド氏はいう。「ある程度の規模を持つものができればの話だが」。
[原文:‘We’re encouraged’: NewsPassID passes its pilot phase, seeks further scale]
MAX WILLENS(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:小玉明依)