Cookie 不要のターゲティングに備える、ワシントン・ポスト

ワシントン・ポスト(The Washington Post)が、ゼウス・インサイツ(Zeus Insights)という名前のファーストパーティデータの広告ターゲティングツールを開発した。同ツールはマーケター向けに詳細なコンテクストに沿ったターゲティング機能と、ユーザーの意図の予測機能が搭載されている。サードパーティのCookieに依存せず、より厳格なデータプライバシーの遵守を実現しながら結果を出す、より洗練された広告ターゲティングツールをマーケターに提供することが、このツールの目的だ。

ゼウスのプラットフォームは個人のコンテクストデータを監視する。たとえばどの記事を閲覧したか、どこまでページをスクロールしたか、どこからURLにたどり着いたか、何をクリックしたかなどだ。ワシントン・ポストはこのデータを、4年かけて蓄積してきたオーディエンスのデータプールと照らし合わせてユーザーがどのような意図を持っているかを推測する。この技術では機械学習によるパターン解読も行われる。

だが、同社の戦略的目標は、サードパーティのCookieを使用しない広告ターゲティング機能をクライアントの広告主に提供するだけではない。ほかのパブリッシャーが、大手テック系プラットフォームと競合できるようにすることだ。

ワシントン・ポストは、ゼウスをアーク(Arc)技術プラットフォームに組み込んで米国内外のパブリッシャーに使用許可を与える予定だ。同社は2016年からパブリッシャー各社にアークの使用許可を与えており、同社によるとユニークユーザー数は世界で合わせて7億5000万人にも達する。これはFacebookやGoogleがもたらす規模やデータターゲティングに対し、パブリッシャーがより競い合えるようにすることを目的としている。

より良いエコシステムを

ワシントン・ポストの商業技術開発部門でバイスプレジデントを務めるジャロード・ディッカー氏はこれについて「明日のメディア企業を形作るための取り組み」と定義している。「パブリッシャー各社が、よりパブリッシャーネットワークの一員としての意識を持てるようになる。FacebookやGoogleに本当の意味で挑戦できるようになるし、各プラットフォームでチャンスが生まれて閉塞感を打破できる」。

ディッカー氏は、FacebookとGoogleがディスプレイ広告市場の大半を占めるなか、広告収益を増やそうともがくパブリッシャーにかかる重圧は大きく、成長計画の達成は困難だと指摘する。重圧はそれだけではない。一般データ保護規則(General Data Protection Regulation: 以下GDPR)やカリフォルニア消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act: 以下CCPA)をはじめとするデータ保護法について、パブリッシャーの多くはいまでもチャンスではなく脅威と捉えている。

「現在、多くのパブリッシャーが考えているのはいかに成長するかではなく、いかに現状を維持し生き残るかだ」と、ディッカー氏は語る。「ゼウス・インサイツで成長を促したい。将来に向けた価値と消費者のプライバシーを尊重した体験を実現し、自分たちにとって居心地の良い、より良いエコシステムを広告業界に生み出したい」。

広告主とパブリッシャーを支援

Cookieを用いないターゲティング広告が主流となっていくなかで、広告主とパブリッシャーの準備を支援するというのも戦略上の目的のひとつだ。だがディッカー氏によると、ワシントン・ポストはCookieベースのターゲティングを完全に排除するつもりはないという。

同ツールはディスプレイ広告、動画、ネイティブアドの直接契約またはプログラマティックで使用できるが、追加料金で追加の広告ターゲティング機能も提供する予定だという(具体額についてディッカー氏は明かさなかった)。

ユーザーの意図の推測や、コンテクストターゲティング機能などを有する供給の少ないインベントリーについては、メディアバイヤーもより高額を支払うようになりつつある。また、GDPRやCCPAを遵守しつつ新しい広告ターゲティングによる業績の向上を積極的に追求しているメディアバイヤーも多い。

エージェンシーの見解

ピュブリシス・グループ(Publicis Groupe)の子会社スパークファウンドリー(Spark Foundry)とブルー449(Blue 449)で最高デジタル責任者を務めるリチャード・ダンス氏は「今後数カ月で、商用データはますます手に入りづらくなっていく。広告関連のコンテクストや環境などがデータとしてより重視されるようになるだろう」と、指摘する。「中間業者以上にパブリッシャーに資金が向かうようになれば、メディアのエコシステム全体として、より健全なのではないか」。

だが、ダンス氏は高品質で数が少ないインベントリーの料金が高騰するなか、業績にせよ、CPAベースにせよ、エージェンシーは高い料金を支払うことで、メディアのパフォーマンス向上の機会を奪わないか注視すべきだと語る。

ゼウス・インサイツは世界中の広告主に向けて提供されているが、市場展開前に米国内の少数のクライアントで試験運用を行っている。ワシントン・ポストは米国内のカスタマーについては大量かつ高品質のサブスクリプションデータを有している一方で、国外オーディエンスの数は少ないため、米国以外のデータについてある程度の公表を行う可能性がある。「ユーザー数についてある程度公表し、使用するデータの粒度に関する不安を取り除くべきかもしれない」と、ダンス氏は語る。これについて、社内ではおおむね前向きな意見が多いとのことだ。

「これは、正しい一歩だ」

AppleやFirefoxのブラウザはアンチトラッキングを導入しており、Googleも小規模ながら同機能を導入している。こうしたアンチトラッキングによる不利益を解消しうる新たなターゲティング手法をプレミアムパブリッシャーが開発すれば、エージェンシーが喜ぶのも当然といえるだろう。

「サードパーティのCookieが使えなくなりCookieの数自体が減少していくなかで、こうしたツールの重要性は増していくだろう」と指摘するのが、メディアエージェンシーのエッセンス(Essence)でEMEA地域のメディアアクティベーション責任者とシニアバイスプレジデントを務めるライアン・スターラー氏だ。「Cookieを用いないユーザーデータの活用は、個人情報を重視した精密なマーケティングの実現に向けた、正しい一歩だ」。

Jessica Davies(原文 / 訳:SI Japan)