Business Insider(ビジネスインサイダー)は9月第3週、シンガポールで新たな報道支局の立ち上げると発表した。同支局は、記者4名と営業担当者でスタートし、英語のコンテンツを配信予定だ。同社はニューヨーク以外に、2014年にロンドン支局を開設。現在100人以上のスタッフを抱えている。
コロナ禍により、グローバル展開を控えるパブリッシャーが大半を占めるなか、インサイダー(Insider Inc.,)は逆のスタンスを取っている。
同社が運営するWebメディア、Business Insider(ビジネスインサイダー)は9月第3週、シンガポールで新たな報道支局の立ち上げを発表。記者4名と営業担当者でスタートし、グローバルハブとして英語のコンテンツを配信予定だ。なお、同社はニューヨーク本社以外に、2014年にロンドン支局を開設し、現在100人以上のスタッフを抱えている。
技術やビジネス関連ニュースの拡充を目指すBusiness Insiderは、以前からAPACに注目してきた。シンガポール支局はもともと、上半期の開設を予定していたが、コロナ禍により日程がずれこんだのだ。現時点で、同社のオーディエンスのおよそ10%はAPACのユーザーで、月間アクティブユーザーは2200万人近くになるという。
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インサイダーで欧州、中東、アフリカ、APAC担当SVP、および地域管理ディレクターを務めるジュリアン・チャイルズ氏は「年中無休の継続的な報道は、グローバルニュースメディアとして、より規模を拡大するために重要だ」と語る。「そのためにも、我々はジャーナリストの雇用を進めていく。成長エンジンを止めることは最悪のことであり、そんなことでは変化が著しい昨今、生き残ることはできない。今回のシンガポール支局立ち上げの決断は、我々のこうしたスタンスをより強化した」。
同社が同じく重視しているのが、成長が見込まれるAPACのプログラマティック広告分野だ。ボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group)の2018年の調査によると、APACではオンライン広告の約36%をプログラマティック広告が占めるという。調査会社のeマーケター(5月にビジネスインサイダー・インテリジェンス[Business Insider Intelligence]と合併し、現在はインサイダーインテリジェンス[Insider Intelligence])によると、米国ではこの数字は88%近い。
インサイダーは5月からAPACでプログラマティック広告のキャンペーンを展開しており、8月の同地域のプログラマティック広告収益は前年比で2倍を記録している(具体的な数字は未公開)。
シンガポール支局設立の意図
インサイダーの収益の大半は米国が占めている。しかし現在、そのほかの地域における広告収益も成長を続けており、実際、APACでのプログラマティック広告の直販キャンペーンは2桁成長を記録した。これは、金融(インサイダーはDBS銀行[DBS Bank Limited]や、スタンダード・チャーテッド銀行[Standard Chartered Bank]といった世界的な広告主と仕事をしている)、金融サービス、企業向け技術、消費者向け技術、消費者向けパッケージ商品といった分野が調子を取り戻してきていることが背景にある。
現在インサイダーは、世界で10社を超える企業とライセンス契約を結んでおり、APAC地域のメディアベンチャー企業との契約も多い。たとえばインドではタイムズ・インターネット・リミテッド(Times Internet Limited)と提携しており、今回のシンガポール支局は、こういった提携関係の強化にも役立つ。
また、シンガポール支局は、金融サービス企業のING(ING Groep N.V.)との実施が予定されている、今後複数年に渡るグローバルキャンペーンの開始と同時期に設立される。このキャンペーンは、毎年恒例の特集記事である「世界のビジネスを変革した100人」を、INGがスポンサードするというもの。アジア、米国、欧州向けに、技術面とビジネス面におけるゲームチェンジャーを特集する。シンガポールのハブでも、こうしたグローバルキャンペーンを、さらにローカライズした形で展開することが増えるだろうと、インサイダーは考えている(同社はINGへの請求額については明かしていない)。
課題はプレミアムパブリッシャー不足
しかし、シンガポールにはプレミアムパブリッシャーが不足している。eマーケターのアンケートでは、プログラマティック広告の成長にとっての最大の課題は「適切なオーディエンスへのターゲティング」がもっとも多い67%で、次いで62%が「プレミアムパブリッシャーの不足」を挙げている。この課題を解決するため、インサイダーはサードパーティCookieの廃止に先立ち、ファーストパーティデータプラットフォームであるサーガ(Sága)の強化に取り組んでいる。
エージェンシーのエッセンス(Essence)で、APAC地域におけるプログラマティック広告、およびデータ戦略担当 アソシエイトバイスプレジデントを務めるビンセント・ニオウ氏は、サーガはインサイダーの魅力を高めるプラットフォームだと語る。また、続けて同氏は、エージェンシーや広告主にとって、地域に特化した報道を行うパブリッシャーは魅力的だと指摘する。
「APACのプログラマティック広告市場は細分化されているが、最近はインサイダーやCNNのような、世界規模のパブリッシャーが存在感を示している」とニオウ氏は語る。「大半のマーケターは、APACと中国を切り離して考えている」。
また、エッセンスが手がけるキャンペーンのおよそ8割が、ローカルパブリッシャーを通じ、その地域の言語で展開されている。残りは、地域をまたぐパブリッシャーが担当することが多い。こうしたキャンペーンは数が少なく、世界規模の広告主によるものが多く、価格も高くなるという。
加えてニオウ氏によると、APACでは高品質なキャンペーンに対する需要も存在するが、その度合いは広告主によって異なる。CPMが比較的低い地域で、コストパフォーマンスに優れたリーチ方法を探している広告主もいるという。
アジア市場は回復が早い
コロナ禍による最悪の危機を乗り越えるため、多くのパブリッシャーはビジネスの無駄を削ぎ落とし、洗練させることに成功している。インサイダーは解雇という手段を取らず、代わりに成長を続ける分野に、人員を再配置した。また、3月以降、同社は世界で120名を新たに雇用。そのうちの15%はロンドンとシンガポールに配属された。この2カ月、パブリッシャー間で世界的にプログラマティック広告人材の採用数は増加している。
「もちろん状況の変化には注意を払っているが、基本的にはいまの状況を楽観視している」と、前出のチャイルズ氏は語る。「いくつかの地域では、一部の事業がパンデミック前の水準に戻りつつある。特にアジアは、欧州より回復が早く、良い兆候が見られている。実際中国では、プログラマティック広告が伸び続けている。こうした傾向は、ほかの地域の市場を刺激することになるだろう。次の四半期には、米国でもその流れが生まれると考えている」。
[原文:‘We’re about hiring journalists’ Insider Inc. launches third global news hub in Singapore]
LUCINDA SOUTHERN(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)