英経済誌「エコノミスト(The Economist)」のソーシャルメディアチームは、プラットフォームの成熟度が高まるにつれて、投稿量を競うのをやめ、質を高める方向へ向かっている。
1年前には、公開した記事1本につき15種類もの異なるツイートを投稿していた(1日に公開される記事の数は、たいてい5本から10本)。だが、ブログプラットフォーム「Medium(ミディアム)」に投稿された7月25日付のエッセイによると、現在は記事1本あたりのツイート回数を3~5回にしているという。
英経済誌「エコノミスト(The Economist)」のソーシャルメディアチームは、プラットフォームの成熟度が高まるにつれて、投稿量を競うのをやめ、質を高める方向へ向かっている。
1年前には、公開した記事1本につき15種類もの異なるツイートを投稿していた(1日に公開される記事の数は、たいてい5本から10本)。だが、ブログプラットフォーム「Medium(ミディアム)」に投稿された7月25日付のエッセイによると、現在は記事1本あたりのツイート回数を3~5回にしているという。
むやみに増えた投稿数
「ツイートを大量生産することに無駄な時間を費やしているような気がしていた」と、「エコノミスト」のコミュニティエディターを務めるデニス・ロー氏は、米DIGIDAYに語る。
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「エコノミスト」が使っているTwitterアカウントは十数個。「EconEurope」「EconAsia」「EconBizFin」「EconSciTech」のように地域やトピック別に分かれている。なかにはほとんどフォロワーがいないアカウントもあるが、メインアカウントのフォロワー数は1500万人を超えた。「数年前にソーシャルメディアへの取り組みをはじめたときには、Twitterが流行っていたため、もっぱら供給側の都合でアカウントの数は増えていった」と、ロー氏。
ところが、2016年3月に行った調査では、メインアカウント以外に全労力の半分以上を割いているというのに、それらの投稿がリーチやトラフィックをほとんど生み出していないことがわかった。ロー氏は、「無駄を省くこと、効率的であること、そして高品質であることのバランスを考える必要がある。これは1本の記事に15種類ものツイートを発信している状態では不可能なことだ」と述べ、いまではスタッフがツイートの文章をチェックする回数を増やし、以前より多くのチェックリストが使われるようになったと説明した。
効果的にリソースを再配分
それ以来、ツイートの投稿に使われていたリソースは、ほかのもっと効果の高いプラットフォームに向けられるようになった。たとえば、2009年からアカウントを運営している、「EconAsia」というTwitterアカウントは、3万3000人のフォロワーがいる(この数は、わずか700人のフォロワーしかいない「EconChina」アカウントに比べればかなり多い)。だが、メッセージアプリの「LINE」でアカウントを開設したところ、そのフォロワー数は半年も経たないうちに30万人を超えた(もっとも、BBCのようなさらに大手のパブリッシャーは、150万人近いフォロワーを抱えるまでに成長している)。
また、タンブラー(Tumblr)やピンタレスト(Pinterest)への投稿は、大した牽引力をもたらさなかった。そのため、これらに費やしていた時間を、いまではFacebook、Twitter、LINE、リンクトイン(LinkedIn)、YouTubeへ当てているという。
こうした対応が組織の再編成にもつながった。1年で2名から10名に拡大したソーシャルメディアチームは、ワシントンDCと香港にいる特派員以外は、ほとんどが英国のオフィスを拠点としているが、現在はプラットフォーム別と地域別に編成されている。そのため、2人のソーシャルメディアライターがLinkedInを、4人のライターがLINEを担当している状態だ。
大切なのは視点を失わないこと
「あらゆる場所に顔を出すことはできない。目的は規模ではないのだ。ただし、分散させることが必要なことも承知している」と、ロー氏は語る。さらに、ほかのプラットフォームに進出する計画もあるというが、そのプラットフォーム名は明かしてはくれなかった。
ソーシャルメディアでブランドアカウントの評判を維持するためには、クリックベイト(釣り投稿)にならないように注意する必要がある。かつ、同メディアの知的な側面を表現するため、投稿文は精査して一定の水準を保つようにしてきた。
「エコノミスト」では、同メディアがもつ「視点」を通して、コンテンツを構成することが重視される。たとえ、マスカルチャーに関する話題であっても、その取り上げ方には必ず「エコノミスト」的な視点が込められる。芸能人やくだらないテレビ番組を取り上げたクリックベイト的な投稿をするのではなく、たとえばドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の世界を支えるような経済システムを分析した、知的でウィットに富んだ投稿を行ってきた。
ジョージ・R・R・マーティンは、自身のファンタジー世界で描かれる経済の話しについても、徹底的に考察する人物だ。ストーリー上でのサーセイの苦境は、彼女が国際的信用の本質について理解を欠いていたことが主な原因としている。「ゲーム・オブ・スローンズ」の債務危機は、デナーリスのドラゴンよりもはるかに危険だ。王妃サーセイは経済顧問を雇う必要がある。しかも、今すぐに。
ソーシャルメディアに投稿するテキストは、よりグローバルな観点で報道する「エコノミスト」の「視点」を反映したものでなければならない。つまり、ローカルな話題もより広いコンテクストで捉える「エコノミスト」ならではの「視点」をソーシャル上でも忘れないということだ。「この記事が、米国内のある工場が苦境に陥っているという話しだとすれば、我々は、その苦境が中国によるものであるという理由と紐付けようとするだろう」と、ロー氏は語る。
新規獲得までには至らない
エージェンシーのウィー・アー・ソーシャル(We Are Social)で編集主幹を務めるチャーリー・コットレル氏は、ソーシャルメディアにおける「エコノミスト」の成功は驚くに値しないと考えている。その理由は、ソーシャルでの成功に必要なスキルがパブリッシャーのスキルと非常によく似ているからだという。
「この成功は、彼らが作り上げる記事に自信をもっていることを示している。彼らはソーシャルでトレンドやニュースを追いかけるようなことはしない。組織が変化すれば実際に進歩できることを、この成功は示しているのだ」と、コットレル氏は語った。
問題は、こうした取り組みを購読に結び付けられるかどうかにある。デジタル版購読者は前年比で31%増えているが、購読者の獲得をソーシャルメディアに頼ることは、まだ難しい。「我々の仕事は間口を広げ、報道記事に関心がある人を世界中からできる限り多く集めることだ。その後、『彼らを(購読者に)変える』のはマーケティングの仕事になる」と、ロー氏は最後に付け加えた。
Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)