サードパーティCookieが恐竜と同じ道を歩むとき、News UKは決してチャンスを逃さないつもりだ。同社はファーストパーティCookieから収集したオーディエンスのデータをプライバシーに配慮した方法で直接扱う手段として、広告主に独自開発したデータプラットフォーム「Nucleus」を売り込んでいる。
サードパーティCookieが恐竜と同じ道を歩むとき、ニュースUK(News UK)は決してチャンスを逃さないだろう。
多くの同業他社がそうであるように、このパブリッシャーもデータの価値、そして、それに伴う商業的な野心は、Cookieの運命と密接に関連すると考えている。Cookieが少なくなればなるほど、ニュースUKのようなパブリッシャーが所有するデータの価値は高まる。これは本質的に次善策であり、パブリッシャーはそのことを広告主に覚えてもらうため全力を尽くしている。
「ユニークなインサイトをもたらす」
ニュースUKはそのために、タイムズ(The Times)、サン(The Sun)、トークスポーツ(TalkSport)、タイムズ・ラジオ(Times Radio)を含む全タイトルのオーディエンスデータを独自のファーストパーティデータプラットフォームであるニュークレアス(Nucleus)を介して収集、分類、収益化する方法を見直した。そして、ニュースUKがログイン、登録、ファーストパーティCookieから収集した独自データをプライバシーに配慮した方法で直接扱う手段として、広告主にニュークレアスを売り込んでいる。
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ニュークレアスを使用すれば、広告主自身のターゲットセグメントからデータセットをモデル化したり、ニュースUK独自の嗜好(しこう)、意見、感情シグナルに基づいて修正したりできる。2021年夏に提供を開始し、すでに最大級のスポンサー契約すべてに、広告主が推奨オーディエンスを確認する手段としてニュークレアスのデータが含まれている。
ニュースUKのパブリッシング担当コマーシャルディレクター、ベン・ウォームスリー氏は「広告主と話をするときは、私たちはオーディエンスについて何を知っているのか、ユニークなインサイトをもたらすセグメントをつくり、データを提供できるかが問われる」と話す。「それはサードパーティのデータセットやCookieを介して誰でも自由に容易に購入できるデータから得られるものではない」。
ニュークレアスはニュースUK自身の広告ビジネスを強化するだけでなく、サイト全体でコンテンツをパーソナライズする方法を磨き上げようとしている。ニュークレアスのデータを利用し、eコマースやコンテンツをオーディエンスに合わせてパーソナライズすることも可能だ。「現在、特定の記事の下には、推奨コンテンツまたはリサーキュレーション(再循環)ユニットが表示されているが、それを実現しているのがニュークレアスだ」とウォームスリー氏は説明する。
そうしたレコメンドはこれまで、アドテクベンダーによって提供されていた。「今もいくつかのベンダーと提携しているが、その手段や提供方法は、私たちがオーディエンスについて何を知っているかに基づいている」。
パブリッシャーが持つデータの価値
ニュークレアスは典型的なデータ管理プラットフォーム(DMP)のようにみえるかもしれないが、DMPと異なり、その機能はパブリッシャーのデータのみに限定されている。実際、このデータが直接的な影響を及ぼす範囲は直販、プログラマティックギャランティード、PMP取引のみだ。全体的な目的は、購入タイプを問わずニュースUKのプロパティへの支出を増やすことだ。
「パブリッシャーのデータがかなりの部分でサードパーティデータに取って代わる世界になると考えている。マーケターのファネル中間部から上部に影響を与えるため、ほかの大手パブリッシャーブランドと提携してきたプレミアム市場ではなおさらだ」とウォームスリー氏は話す。
このような支出の変化は、いずれ訪れるサードパーティCookieの死によって促進されているが、測定に関する根深い問題も拍車を掛けている。これまで、パフォーマンスの測定はプレミアムパブリッシャーの独壇場だった。それが今、変わろうとしている。パブリッシャーはどのようにファネル中間部やブランドリフトの目標を達成するかによって評価されるようになっている。
「その効果を証明するのはパブリッシャーの仕事であり、それがうまくできるようになれば、プレミアムパブリッシャーへの(支出の)回帰が進むだろう。広告主やエージェンシーは、パフォーマンス指標により多くの金額を投じても、キャンペーンの効果を正しく理解する助けにならないと認識しているためだ」。
ニュースUKのようなパブリッシャーが、サードパーティCookieのない世界での成功を目指していることは決して意外ではない。サードパーティCookieはオーディエンスデータから利益を得る方法をコントロールするのに限界があった。オーディエンスデータの大部分を他社も使用していたためだ。
いかに広告主に売り込むか
フューチャー(Future PLC)の例を紹介しよう。専門パブリッシャーであるフューチャーは、パブリッシャーのデータこそがサードパーティCookieの拡張可能な代替手段になると考え、独自のデータ管理技術を開発した。多くの意味で、サードパーティCookieの死が遅れていることはニュースUK、フューチャーのようなパブリッシャーに、より多くのデータをより多くの広告主に購入してもらう方法を考える準備期間を与えたと言える。しかし、それを実現するのは容易ではない。
「(GoogleがCookie廃止の期限を延長するという)発表以降、明らかに緊急度が低くなっている」とウォームスリー氏は話す。しかし、あまりに多くの広告主が当初の期限に不安を感じていたことを考えると、これは十分あり得たことだ。ウォームスリー氏の考えでは、廃止の延期によって得られた時間は、ニュースUKにとって差し引きプラスに働いているという。「ニュークレアスへの投資は、(サードパーティCookieに依存した)オンライン広告の現状を再現するためのものではないと考えている。私たちはすべてのプロパティを結び付け、すべてのプラットフォームのオーディエンスを真の意味で理解しようとしている」。
Googleの当初の期限である2022年にCookieが消滅することを想定し、十分な備えができていた者はいなかったため、期限の延長はほぼ間違いなく、パブリッシャーを含む業界にとって良いことだ。しかし、パブリッシャーにとっては、同意の下、オーディエンスデータを適切に収集し、そのオーディエンスデータをベースにしたコラボレーションを実現する適切な枠組みを構築しなければならないことを意味する。
細分化が進むからといって、広告主はやみくもに進むしかなくなるわけではない。プライバシーを保護する安全な方法でデータを結び付けるための、新しいインフラが必要になるだけだ。
デジタル広告初期に戻っただけ?
データ接続プラットフォーム、オプタブル(Optable)の共同創業者兼CPO、ブラッド・ステシン氏は「現在、私たちが目にしているのは広告ネットワークモデルの復活であり、ファーストパーティデータに傾倒するパブリッシャーにとっては理にかなっている」と話す。
パブリッシャーは長いあいだサードパーティデータ企業やアドテクベンダーなどの第三者に頼り、どうにか自社のインベントリーの価値を把握してきた。それがいまや、先進的な企業は新世代のウォールドガーデンを構築している。そこでは同意と透明性が真剣に受け止められており、ファーストパーティデータの収集はプライバシーに配慮しながら、広告主に本物の成果をもたらすものでなければならない。
オンライン広告の初期に逆戻りしただけだと言う者もいるが、広告主が質と量の両方を得ることを切望する状況においては、それは必ずしも悪いことではない。
SEB JOSEPH(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島翔平)