米現地時間の3月3日、Googleは、自社のプロパティの外部で、サイト横断的に個人の行動を追跡し、広告のターゲティングを行う技術の使用を停止すると発表した。デジタルパブリッシャーたちは、この新たな方針が自分たちの広告事業に与える影響について、いまだ見極められずにいる。
米現地時間の3月3日、Googleは、自社のプロパティの外部で、サイト横断的に個人の行動を追跡し、広告のターゲティングを行う技術の使用を停止すると発表した。デジタルパブリッシャーたちは、この新たな方針が自分たちの広告事業に与える影響について、いまだ見極められずにいる。
だが、パブリッシャーの広告事業に果たすGoogleの役割の大きさを考えれば、何らかの影響が及ぶことは必至である。とりわけ、オープンなプログラマティック広告市場に依存し、十分なファーストパーティデータを持たないパブリッシャーは、最大の打撃を覚悟しなければならない。
デジタルメディアのサロン(Salon)で収益の最高責任者(CRO)を務めるジャスティン・ウォール氏は、Googleが同社の広告販売に与える影響は甚大だと明かす。サロンは独自の広告販売部門を持たず、また広告在庫の運用にプライベートマーケットプレイス(PMP)を活用していないため、Googleへの依存度は大きくならざるをえない。ウォール氏によると、過去1カ月の広告収入のうち、Google経由の販売が30%を占めていたという。
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この方針転換により、Googleのアドエクスチェンジにおけるターゲティング機能は、オーディエンスのコホート化という比較的未検証の手法に制限される。この手法は、ユーザーを行動ベースのグループ(コホート)に分類して追跡するもので、個人を対象とするターゲティングではない。ターゲティング機能の制限を受けて、パブリッシャーたちは打撃の大きさを予想しつつ、プログラマティック広告の売上予測を修正している。ウォール氏によると、「大幅な下方修正は避けられない」という。
この方針転換の詳細をめぐる混乱はもとより、プログラマティック広告市場自体が非常に複雑で、しかも不透明な部分が大きいため、広告収入への影響を正確に見定めることができないパブリッシャーもいる。たとえば、ランカー(Ranker)はポップカルチャーのあらゆる側面をランク付けして、リスト化するパブリッシャーだが、同社のクラーク・ベンソン最高経営責任者(CEO)は、「我々のウェブサイトの場合、アドテクベンダー経由で配信される第三者の広告のうち、いったいどのくらいの部分が影響を受けるのか、我々からはほとんど見えないのが実情だ」と述べている。
Googleが新しく打ち出した方針の要は、ファーストパーティデータの活用だ。米DIGIDAYが本稿の執筆に際して取材した複数のパブリッシャーや広告主によると、彼らが持つファーストパーティデータを活用して、コホート単位のターゲティングに必要なオーディエンスセグメントを作成するという。
ファーストパーティデータへの方針転換
Googleの方針転換は、ファーストパーティデータの重要性という周知の事実を改めて強調したにすぎない。AppleやGoogleのウェブブラウザでサードパーティCookieが使用できないなら、ファーストパーティデータを最大限に活用する強力なプログラムを開発して、自社の利益を守るしかない。「AppleやGoogleが新しい方針を打ち出したことで、ファーストパーティデータのソリューションを持たない我々は、すでに収入の50%が損失の危機にさらされている」。あるオンラインマガジンのパブリッシャーは、匿名を条件にそう明かした。さらに、サイト訪問者の認証プロセスの不在も、懸念材料のひとつだという。
サロンのウォール氏によると、ゆくゆくはオープンマーケットで使う入札データを、ファーストパーティデータでエンリッチ化する計画で、そのためのデータを現在構築しているという。
しかし、サロンにとって、ユーザー認証の導入は、簡単に決められることではない。これまで、同社はユーザーが匿名でサイトに来ることを許容してきた。ユーザーの身元を確認して、独自のデータベースを構築するなら、アカウントの登録を求める必要が生じる。
「ファーストパーティデータを集めるには、本人確認のプロセスが不可欠だが、サロンはその導入に消極的だ」とウォール氏は述べている。「『みなさん、我々はみなさんを大々的に追跡したいと思います』というのは、非常に大きな方向転換だ」。
匿名を求める別のパブリッシャー幹部によると、彼らのウェブサイトでは、ファーストパーティデータを活用するプログラムを3年前から推進してきたという。そのため、Google以外のアドエクスチェンジに対しては、広告在庫とともにこのファーストパーティデータを送信できるようになっている。Googleが提案するコホートベースの手法よりも、精度の高いターゲティングを提供できるという。
アイデンティティ技術をめぐる動向
ハッシュ化した個人データや電子メールから、サードパーティCookieに代わる「代替識別子」を構築し、これを活用して広告のターゲティングを行うという議論について、Googleは自社が扱うインベントリーではこれを認めないとした。では、Google以外のDSPでは、将来的に、このような代替識別子の運用は可能となるのか。米DIGIDAYが取材したパブリッシャーのなかには、そう思案するものもいた。
一部のパブリッシャーは、ライブランプ(LiveRamp)やID5などが提供するCookieの代替技術を複数テスト運用しており、サロンもそのひとつに含まれる。
一方、BuzzFeedのように、様子見のパブリッシャーもいる。アイデンティティ技術に関して、何らかの意思決定を迫る要因があるとすれば、それはGoogleの方針転換ではなく、むしろ広告主の意向だろう。BuzzFeedで広告戦略担当のバイスプレジデントを務めるケン・ブロム氏は、こう述べている。「私の見解を述べるなら、このようなソリューションの導入は広告主次第だ。ひとつの技術に絞って導入するパブリッシャーはいないだろう」。
GoogleはChromeブラウザ環境では、今後も代替識別子のサポートを継続する。また、パブリッシャーがGoogleのアドテク製品を広告管理目的で活用することについては、これを妨げないという。米DIGIDAYの取材に応えたパブリッシャーたちは、代替識別子を添付したインベントリーを販売する場合は、ほかのDSPパートナーを探すことになると述べている。
コホートベースに好意的なパブリッシャーも
Googleが提案するコホートターゲティングに批判的なパブリッシャーが一部に存在し、そのパフォーマンスを疑問視する一方で、今回取材したパブリッシャーのなかには、Googleが提唱するFLoC(Federated Learning of Cohorts:コホートの連合学習)という手法に前向きなものたちもいた。
ある匿名希望のパブリッシャーは、「Googleから獲得するオープンエクスチェンジの広告収入に関しては、いずれ何かしらのFLoC識別子が使われるので、とくに問題ない」と話す。
つい先ごろ、ライトハウス(Lighthouse)というオーディエンスデータプラットフォームを公開したBuzzFeedは、Googleのアプローチを強く支持しており、ブロム氏は「同じような手法で、広告主のカスタムコホートを作成したい」と述べている。
だが、Googleとパブリッシャーのあいだには常に緊張関係が存在している。ブロム氏によると、BuzzFeedでは、Googleのコホートと連携して、同社所有のオーディエンスデータを活用したいようだが、コホートの仕組みについては、まだ不明な部分が多い。
ブロム氏の言葉を借りるなら、「まるでブラックボックスのようだ」という。
KATE KAYE(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)