ここ数カ月でサブスクリプション形式のニュースレター・プラットフォーム、サブスタックが配信するニュースレターのページに広告が入り込んでいる。広告費対応で、オーディエンスの分析も難しいにも関わらず、広告主はなぜサブスタックに惹かれるのか。それは、リーチしたいオーディエンスを引きつけるクリエイターがいるからだ。
映画『ジュラシック・パーク』でジェフ・ゴールドブラム演じるイアン・マルコム博士は、「生命は、必ず道を見つける」という名台詞を残した。下手を承知でもじらせてもらうと、「広告は、必ず道を見つける」と言えるのではないか。
ここ数カ月の間に、サブスクリプション形式のニュースレター・プラットフォーム、サブスタック(Substack)が配信するニュースレターのページに広告が忍び込み始めた。先月、ノンアルコールビールブランドのアスレティック・ブルーイング・カンパニー(Athletic Brewing Company)は、スポーツビジネス分野の著名ライターでポッドキャストも主宰するのジョー・ポンプリアーノ氏とのスポンサー契約をもとに、スポーツ業界関連のニュースレターであるハドルアップ(Huddle Up)を含むいくつかのニュースレターのスポンサーを開始した。
意欲的なニュースレターパブリッシャーであるハッスル(The Hustle)は、同社の市場調査に関するサブスクリプション商品「トレンド(Trend)」を宣伝するために、今年に入ってエー・メディア・オペレーター(A Media Operator)やノット・ボーリング(Not Boring)といったサブスタックで配信されている複数のニュースレターで広告を購入している。また、メディア情報を伝えるニュースレター、ディーズ・リンクス(Deez Links)とスタディ・ホール(Study Hall)はそれぞれのページの末尾に案内広告を表示するビジネスを展開している。
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関心を抱く広告主たち
サブスタックを利用するクリエイターのなかには、自ら市場に出て独自の広告パートナーシップを獲得している人もいる。だが、サブスタックの人気ライターたちは、暗号通貨のスタートアップからメディアブランドまで、あらゆる企業からの広告掲載のリクエストを常に受け取っているという。
広告主からの関心も十分に強く、すでにクリエイターの一部はサブスタック配信のニュースレター広告を主な収入源にしている。
「半年前はこれが私のフルタイムの仕事になるとは思ってもいなかった」とノット・ボーリングの創設者、パッキー・マコーミック氏は語る。マコーミック氏は今年前半にニュースレターをサブスクリプション課金ベースから広告ベースへと移行させた。「ここ数カ月で、広告収入によって家賃を支払えることに気づいた。もし私の購読者が今のペースで成長し続けるなら、(広告)はもっと多くなるだろう」と彼は述べた。
マコーミック氏は、週に2回発行されるニュースレターにさまざまな形式の広告を掲載している。その回ごとのスポンサー広告、ニュースレターの末尾の広告 (週2回の配信いずれにも掲載) 、そしてより深く企業を紹介する「ディープダイブ(deep dives)」広告だ。ディープダイブは決まった配信スケジュールがあるわけではないが、ほかのふたつのタイプに関しては今年の8月31日以降完売しており、同氏は残りの在庫について料金を引き上げた。スポンサー広告とニュースレター末尾の広告両方を配信することで、マコーミック氏はニュースレターを2回発行する週は6000ドル(約63万円)以上を稼いでいる。
広告に不向きなサブスタック
広告がデジタルコンテンツの周辺から、徐々に内部へと入り込むことは新しい現象ではない。しかし、サブスタックの創業者たちが広告による収益化には関心が無いと公に述べており、サブスタック自体も広告組み込みが難しいデザインになっているにも関わらず、広告が入り込んでいることは注目に値する。サブスタックのクリエイターにとっては、読者に関する基本的な情報はおろか、そもそも読者がニュースレターに掲載されている広告を読んだかどうかを知ることさえ難しい。マコーミック氏の場合、広告獲得用の資料を作るため、自身の読者を対象に大規模なアンケートをおこなった。
「当社は100%サブスクリプションに重点を置いている」とサブスタックの共同創業者、クリス・ベスト氏は米DIGIDAYのメールに対して回答した。「一部のパブリッシャーは独自の広告を実験的に実施しているが、我々はそれをサポートするテクノロジーを構築するつもりはない。我々にとって、サブスクリプションのほうが(広告よりも)探究するうえで興味深い分野であり、私たちは同分野での機会に一番期待を抱いている」。
このような制約があっても、サブスタックのクリエイターにお金を払っている広告主は、結果に満足しているという。「私たちが(サブスタックで)広告を購入するのは、それが利益を生むからだ」とハッスルのCEO、サム・パール氏は言う。「可能であれば何百万ドル(数億円)という額をそこに費やすだろう」。
「(サブスタック)は広告購入を難しくしている」とパール氏は付け加え、サブスタック上での広告購入プロセスの大部分がとても面倒だと述べた。ハッスルでは、人気の高いニュースレターのリストを念入りに調べ、クリエイターが使いやすい測定基準を用いて小さなテストを複数回実施し、広告掲載可能なニュースレターを見つけている。パール氏によると、クリエイターたちとは送信1000件あたりのコストやコンバージョンあたりのコスト、あるいは定額料金でキャンペーンをおこなっているという。
今後は広告対応も?
このような限られた測定基準にもかかわらず、多くの広告主がサブスタックでのニュースレター「実験」を厭わないのは、広告主がリーチしたいオーディエンスを引きつけるクリエイターをサブスタックが集めているからだ。
アスレティック・ブルーイングのマーケティング・ディレクター、ロザリー・ケネディ氏は先述のポンプリアーノ氏のニュースレター広告購入に関して「彼個人に、そして彼が世に出している表現に賭けた」と形容した。ポンプリアーノ氏の広告の可能性に小さな額(1万ドル[約100万円]以下)を賭けた、と彼女は言う。同氏は「まだ(結論を下すには)早いけれども、現時点で費やした金額に対して得られた利益という点では、非常に満足している」と語った。
人気クリエイターと広告主が小額スポンサー契約を試しているなかで、メディア業界を注意深く観察している人々は、クリエイターたちにより多くの収益をもたらすというサブスタックが掲げた大きな公約を期待を持って見ている。しかし、サブスタックが成熟するにつれ、より広告に対応した形に進化するだろうと予想する人もいる。
「『広告はしない』と言っていた人が、ほかにもいたのを知ってるか? ラリー・ペイジだ」と、パール氏は述べた。
[原文:‘We do it because it’s profitable’: Ads improbably sprout on ad averse Substack]
MAX WILLENS(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)