2019年のパブリッシャーが合併によって救われるとは、誰も思っていない。それでも、合併の波が押し寄せつつある。誰もが、自分たちにとって不利なように思える広告市場からの脱却を図っているのだ。【※本記事は、一般読者の方にもnoteにて個別販売中(480円)です!】
2019年のパブリッシャーが合併によって救われるとは、誰も思っていない。
それでも、合併の波が押し寄せつつある。デジタルメディア大手は、自分たちを伝統ある大手企業にとって、より魅力的な買収対象にしたいと考えている。プリントメディアを手がけるレガシーパブリッシャーは、さらにコストを減らす方法を探し求めている。誰もが、自分たちにとって不利なように思える広告市場からの脱却を図っているのだ。
BuzzFeedのCEOの提案
BuzzFeedのCEOのジョナ・ペレッティ氏が11月に、ベンチャーキャピタル(VC)の支援を受ける大手デジタルパブリッシャー5社が合併すれば、状況を改善できる可能性があると語ったのも、その流れだ(ここでいう5社とは、Vice Media、Vox Media、グループ・ナイン・メディア(Group Nine Media)、リファイナリー29(Refinery29)、そしてBuzzFeed)。しかし、合併しても状況はよくならないという意見が、すぐに大勢を占めることになった。
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合併しても十分な規模を獲得できず、コスト削減も事業多角化も不十分に終わるというのが、批判的な人たちの意見だ。彼らを支援してきたVCも納得しないだろう。かつて大いに注目されたデジタルメディアビジネスにVCが注ぎ込んだ資金は、合わせて数億ドルに上るのだ。
「経営幹部と社員をまとめて売却しなければならないが、最後に投資が行われた価値で買う者は現れないだろう」と、ある中規模パブリッシャーの幹部は述べている。
大規模リストラ時代に?
しかし、そのような理屈で合併案を否定したところで、市場の現実が変わるわけでもない。広告費を巡る競争は厳しくなるばかりだ。そして投資家は、メディア企業に投資する余裕をとっくに失い、損失を減らすことに躍起になっている。
「5500万ドル(約60億円)を調達したのに、収益が1300万ドル(約14億円)だったなら、その企業は破滅的な状況にある」と、VCの支援を受けたあるデジタルパブリッシャーの幹部はいう。「市場の中心にいる企業が、何千万ドルもの資金調達したのに、それに見合う規模のビジネスを構築できていない。そのため市場全体が収縮し、厳しい状況になりつつあるのだ」。
この2年、多くのパブリッシャーが、規模の縮小で苦痛を和らげようと努力してきた。
2018年には、パブリッシャーによるレイオフの発表が相次いだため、大規模リストラ時代になりつつあるという雰囲気が生まれはじめた。また、大規模なレイオフが続いた1年前の余韻がまだ残っていた。ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)によれば、2017年はじめの段階で、デジタル専門ニュースメディアの4分の1近く、そして新聞社の3分の1がレイオフを実施していた。
売れ残る大企業たち
だが、最終的にはどのパブリッシャーも、そうした戦略に限界があることに気づくことになる。「できるところまで人員を削減する以外に方法がない」と、コンデナスト(Condé Nast)で最高ビジネス責任者を務めていたジム・ノートン氏はいう。「そして一部の企業は、限界に達したことに気づくのだ」。
BuzzFeedのペレッティ氏が、同社をデジタルメディアのスタートアップ数社と合併させることに関して観測気球を上げた理由も、おそらくここにある。
2019年には、売却リストに名を連ねるパブリッシャーが増えるだろう。だが、大手企業の名前がリストに残っているのを見ると、ほとんど知名度のないブランドが、買収を検討する企業にとって重要になるかもしれない。
テレビネットワークのユニビジョン(Univision)は、2018年の夏頃からフュージョン・メディア・グループ(Fusion Media Group)の売却をちらつかせたが、秋になっても買い手が見つかっていない。タイム(Time)社にとっていまも残る最大の資産である、スポーツ・イラストレイテッド(Sports Illustrated)も、2017年に同社が古くからのライバルであるメレディス(Meredith)に買収されたあと、また売りに出されている。トリビューン・パブリッシング(Tribune Publishing)は、ライバルのマクラッチー(McClatchy)やアクティブ・インベスト・メディア(Active Interest Media)といった企業からの買収提案など、さまざまな案を検討しているところだ。
ブランドサービス展開
実際のところ、ある企業が売られるかどうかは、その企業の資産が買収元企業のビジネスの多角化につながるかどうかという点にかかっている。「メディアにますます注力するより、収益源の多角化を目指すほうが賢明だと思う」と、ある中規模パブリッシャーの営業責任者は述べている。
自社を買ってほしいと考えるパブリッシャーは、ビジネスの多角化を目指す競争相手が、ほかの企業の獲得にお金を使ってしまわないことを願うしかないかもしれない。
「私が資金を活用するとしたら、新しいコンテンツブランドの買収にそのお金を使うことはない」と、ノートン氏はいう。「大手雑誌グループを運営しているなら、クリエイティブエージェンシー、インサイトやアナリティクス関連企業、データ関連企業など、ブランドサービスと私が呼ぶ企業に目を向けるだろう」。
しかし、それにはさらにお金がかかる。「データサイエンス企業や市場調査会社、なかでもサブスクリプションの収益で成り立っている企業は、パブリッシャーが受け入れられないような高い株式評価額での買収を求めるだろう」と、CBインサイツ(CB Insights)の創設者でM&Aに詳しいアナンド・サンワル氏はいう。「買収のためだけに高い評価額で資産を買い、パブリッシャーの株式評価額を下げることは、優れたアイデアとは思えない。もちろん、パブリッシャーがその高い株式評価額のビジネスに本腰を入れるつもりなら、話は別だが」。
待ち望むホワイトナイト
結局、パブリッシャーは市場に対していつもと同じ期待を抱くことになる。マーク・ベニオフ氏、ローレン・パウエル・ジョブズ氏、ジェフ・ベゾス氏のような善意ある億万長者がやって来て、自分たちを拾ってくれることを期待するのだ。
「誰かがやって来て、『家の壁に掛ける絵を探しに来たんだ』というようなものだ」と、ノートン氏はいう。「こうした絵(パブリッシャー)の多くは、ビジネスに直接的なメリットがあるから買われるわけではない」。
コンサルタント企業のダークス・バンエッセン・マレー・アンド・エープリル(Dirks, Van Essen, Murray & April)でパートナーを務め、新聞業界のM&A手がけるサラ・エープリル氏によれば、今後の企業売却は、同社が2018年に直面している状況と似たようなものになるという。つまり、小規模な家族経営の新聞社が、もっとも厳しい条件で売られることになるというわけだ。「彼らが評価額の高い企業と伍することは、ますます難しくなるだろう」とエープリル氏は述べている。
チャンスを逃すな
とはいえ、不況の兆候が現れるにつれて、自社を売りに出している企業は、誰かが急いで買ってくれることを期待できるようになる。
「チャンスを逃せば、買収市場が回復するまで2~3年、あるいはそれ以上待たなければならなくなることもある」と、投資銀行オークリンズ・デシルバ+フィリップス(Oaklins DeSilva+Phillips)でマネージングパートナーを務める、リード・フィリップス氏は語った。
Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)