ワシントン・ポストは6月12日、ミレニアル世代の女性向けに立ち上げた、分散型対応のメディアブランド「リリー(The Lily)」をリリースした。SNS環境が飽和状態のいま、リリーにとって重要なのは強力なデザイン戦略を持つことだと、エディターのエイミー・キング氏は語る。
ワシントン・ポストといえば、まず思い浮かぶのが、受賞経験のあるジャーナリズムだろう。だが、同紙がいま考えているのは、ミレニアル世代の女性向けに立ち上げた、分散型対応のメディアブランド「リリー(The Lily)」をデザイン性で、群を抜く存在にすることだ。
6月12日にローンチしたリリーは、まずはオリジナル記事やワシントン・ポストの記事をリパッケージしたコンテンツをミディアム(Medium)やFacebook、インスタグラムやTwitter経由、そして週2回のeメールニュースレター「リリーラインズ(Lily Lines)で配信していく。
デザイン重視の編集方針
リリーのエディター、エイミー・キング氏は、元ワシントン・ポストのフィーチャーデザイナーで、いまはリリー担当の新規制作チームのメンバーだ。彼女の正式な肩書はエディターかもしれないが、彼女自身は自分を「クリエイティブディレクター」と称している。
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最近では、自社サイトをもたない分散型オンリーというアプローチをとるパブリケーションも一般化しているが、SNS環境が飽和状態のいま、リリーにとって重要なのは強力なデザイン戦略を持つことだと、キング氏は話す。メディアタイトルに親ブランドを感じさせない(たとえば「ワシントン・ポスト ウーマン」とかではない)、独自のブランドを掲げるリリーのような場合は特にそうだ。
「SNSにはコンテンツが溢れているので、情報の提示方法を入念に練らなければユーザーは通り過ぎてしまう、もしくはコンテンツが一貫した場所から配信されていると認識してくれない」と、彼女は語る。「画像が溢れるFacebookやインスタグラムで人目を引く存在になることが重要だ」。
リリーの専任スタッフ6人のうち、2人がアートディレクター。いまのところ、1日に公開するコンテンツの数は10本程度だ。各コンテンツは、それぞれのプラットフォームごとにカスタムしたイラストを表示。インスタグラムでは、どこにでもあるような巨大なキャプションを利用した画像以外の形式で、記事内容を伝える方法がないかを模索しているという。リリーにおいてワシントン・ポストのコンテンツをリパッケージする場合、それを一度解体して、別の形式で伝えるようにしている。
広告記事にもデザイン性
デザインに重点を置くスタイルは、広告面にも適用された。今年いっぱい独占スポンサーとなるJPモルガンチェース(JPMorgan Chase)の場合、ワシントン・ポストのブランデッドコンテンツ部門「WPブランドスタジオ(BrandStudio)」が各チャネル向けにカスタマイズした手描きの絵を作成。WPブランドスタジオのディレクター、アニー・グラナスティン氏によると、リリーの広告はすべて、各プラットフォームおよびリリー内におけるネイティブ形式のものに限られ、ビジュアル要素が強くなるFacebookであっても、ブログ形式のミディアムであっても、それは変わらない。

インスタグラムに投稿された記事広告のポスト
ワシントン・ポストとの相違点はほかにもある。ブランドのコンテンツ広告は、リリーの編集ソーシャルフィードに直接配信されるのだ。これまで、WPブランドスタジオ(および従来型の出版社全般)による広告コンテンツのソーシャル配信は、それ独自のアカウントが用意され、編集コンテンツとは分離して行われてきた。これは、営業と編集を大きく分けるためだ。
リリーの場合、テーマが社会的内容のものだけとなるため(報道ではないため)、すべてのコンテンツや記事、そして広告は同じソーシャルアカウントで配信されると、グラナスティン氏は話す(ただしブランドのコンテンツは「広告コンテンツ」と表示され、WPブランドスタジオの記事は、ひと目でそれとわかるようにされている)。
「(かつてのやり方だと)ユーザーが広告コンテンツを読む場所が限定されるので、広告主にとっての価値はあまり高くはならない」と、彼女はいった。「我々はリリーのフォロワーに、より直接的にリーチしていく」。
シリアス志向で差別化
リリーという名の由来は、アメリカではじめて刊行された「女性による、女性のための」新聞からとったものだ。ミレニアル世代の女性をターゲットにした新規メディアブランドは数多く、誠実な「レニー・レター(Lenny Letter)」からサングリアを片手に読むような、「ザ・スキン(TheSkimm)」まで幅広い。
リリーはシリアス志向で、自らを「ワシントン・ポストが誇る受賞経験のあるジャーナリズムに注目する」と称し、今後はヘルスケアなどの記事にも手を広げて行くべく「重要なディスカッションやディベートをはじめる」と、意欲を見せる。