創業130年を超える老舗日刊紙「ワシントン・ポスト」は、Amazon最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾス氏が買収して以来、遅れをとるデジタル化を加速させている。さまざまな改革を実施するなか、オンライン版ではAmazonのレコメンデーション機能に着想を得て、記事レコメンドやネイティブアドの供給能力の強化を行った。
1877年創刊の老舗日刊紙「ワシントン・ポスト」は2013年10月、Amazon最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾス氏により2億5000万ドル(約300億円)で買収された。ベゾス氏体制のもとで、遅れをとるデジタル戦略において、Amazonのノウハウを活かす試みが進められている。
米DIGIDAYによると、「ベゾス後」の「ワシントン・ポスト」では、(1)グローバルな読者の獲得、(2)編集部の独立、(3)スポンサード・コンテンツの拡大、(4)新しいブログの立ち上げ、(5)イベントの拡充——などの試みが実施されたという。
Amazon流レコメンド機能でページビュー拡大
さらに「ワシントン・ポスト」のデータアナリストは、「クラビス(Clavis:ラテン語で『鍵』の意)」というツールを内製した。これはAmazonが使用するレコメンデーション機能をヒントに開発され、記事下に「レコメンド記事」を表示するものだ。読者が過去に読んだ記事などからキーワードやフレーズを抽出し、その読者がニーズをもつと見られる記事を提案してくれる。
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このレコメンド機能は同社サイトのパフォーマンスの向上に寄与したとみられる。デジタル市場分析を手がけていることで有名なcomScore社の調査によると、前年同月と比べ、ユニークビジターは65%増加し、ページビューも96%伸びた。ほぼ倍増だ。
レコンメンド記事でネイティブアドを配信
同社最高収益責任者(CRO)のジェッド・ハートマン氏は、「クラビス」にはネイティブアドのターゲット層へ確実に届け、広告売上を向上させる可能性があると考えている。「私は企業が期待したKPI(重要業績評価指数)に到達しなかった多くのキャンペーンを見てきた」と、同氏は話す。「それを私は『広告出稿して祈る戦略』と呼ぶ。つまり、出稿して、読者が広告をクリックしてくれることを祈る状態。多くの場合、読者には読まれず、良い投資方法とは言えなかった」。
「ワシントン・ポスト」は、読者の閲覧履歴とサードパーティのデータを組み合わせ、読者の関心をもとにオーディエンスの育成にとりかかっている。同社のレコメンド記事型ネイティブアド「ブランドコネクト・インテリジェンス(BrandConnect Intelligence)」は、読者が「サイトのどこを読んでいても、読者の興味関心にマッチしたネイティブアドを届けられる」とターゲティング能力の高さを主張している。
2015年4月時点で3社が実施した、このレコメンド記事型ネイティブアド。「ワシントン・ポスト」のホームページによると、9月現在はIBM、ゴールドマン・サックス、アウディなど大手クライアントを中心にパートナーを抱えている。
大手半導体メーカーのAMDは、バーチャル・リアリティ(仮想現実)製品の宣伝に「ブランドコネクト・インテリジェンス」を利用。AMDのグローバルブランド・企業マーケティング部長であるキンバリー・ストリン氏は、「ワシントン・ポスト」が熱狂的なゲーマーや影響力のあるIT企業の決裁権を持つ人にリーチできると見ている。「仮想現実について熱くなれる人たちのみに、絞って広告を見てもらうことができる」と彼女は話した。「これは彼らの技術力のおかげで可能となった」。
これについて、先述の「ワシントン・ポスト」ハートマン氏は、「私たちのジャーナリズムに何をもたらしてくれるかの証明になった」と自信を見せている。
「ワシントン・ポスト」における今後の課題
しかし、ブランデッドコンテンツ用のDSPを提供するアドテク企業ゼマンタ(Zemanta)社の最高経営責任者(CEO)トッド・サウィッキ氏は、次のように語る。「弱点は営業部員のみで『ブランドコネクト・インテリジェンス』を販売していることだ。ネイティブアドの規模を拡大するためには、プログラマティックは必要不可欠である」。
さらに「ブランド企業が大規模な広告を出すことは減っている」と話した。「ネイティブアドが予算面で規模を拡大するには、ターゲティング能力の基盤が必要となる」。ブランド企業はネイティブアド出稿が、収益に結びついているという確証がほしいからだ。
「ブランドコネクト・インテリジェンス」のリーチはまだ定かではないが、AMDのストリン氏はこう話した。「私が一番注目しているのはいかに興味のある人に広告を届けるかだ。その広告に興味がなく、気にもしない1000万人に見てもらうより、私たちがどのような仕事をし、どのような商品を出しているかを気にしてくれる1万人に見てもらったほうが利益を感じる」。
Lucia Moses (原文 / 訳:小嶋太一郎)
Photo: Esther Vargas/Flickr