米日刊紙「ワシントン・ポスト(The Washington Post)」は、流出した覚書によると、「目覚ましい」売上を達成しているようだ。同紙は、レガシーメディアにしては珍しく、オンラインニュースの持続可能なモデルを作り上げてきた。その背景には、オーナーであるAmazon創業者ジェフ・ベゾス氏の影響がある。
9月6日に流出したこの覚書を書いたのは、ワシントン・ポストで最高売上責任者(CRO)を務めるジェッド・ハートマン氏だ。同氏は覚書のなかで、「我々のビジネスは成長している」との楽観的な見通しを示した。本記事では、その覚書の中身を検証していこう。
米日刊紙の「ワシントン・ポスト(The Washington Post)」は、流出した覚書によると、「目覚ましい」売上を達成しているようだ。
ワシントン・ポストの財務状況は、Amazonの創業者ジェフ・ベゾス氏が3年前に同社を非公開企業にして以来、秘密のベールに覆われてきた。そのため、数字が漏れ聞こえることはあっても、全体の状況はわからないことが多い。それでも、こうした数字に関心が集まるのには理由がある。ワシントン・ポストは、レガシーメディアにしては珍しく、オンラインニュースの持続可能なモデルにおいて、最良の位置につけているように見えるからだ。それが可能なのも、ベゾス氏の潤沢な資金と我慢強さのおかげだろう。
年間デジタル広告売上が「9桁」
今回流出した社内の覚書は、同社の財務状況についてわずかな手がかりを提供している。9月6日に流出したこの覚書を書いたのは、ワシントン・ポストで最高売上責任者(CRO)を務めるジェッド・ハートマン氏だ。同氏は覚書のなかで、「我々のビジネスは成長している」との楽観的な見通しを示した。ただし、ワシントン・ポストは覚書で詳しい数字を出しているわけではない。
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ハートマン氏は、ワシントン・ポストの年間デジタル広告売上が「9桁」(数億ドル[数百億円]台)だと書いている。ちなみに、「ニューヨーク・マガジン(New York magazine)」が最近報じた記事では、この金額は6000万ドル(約60億円)と推定されていた。
覚書によると、8月にはデジタル部門の売上が48%増加したため、全体の広告売上は前年と比べて増えているという。ハートマン氏は、デジタル部門のなかで最も増加したのが275%増のネイティブアドで、92%増のプログラマティック広告、82%増の動画広告が続くと書いた。
急速な成長期のデジタル版
ただし、覚書には、ワシントン・ポストが実際に得ている広告売上高がいくらなのかは書かれていない。また、全体の売上に対するデジタル部門の貢献度や、同社の損失額がいくらなのかについても、記載はない。
ワシントン・ポストは、自社よりはるかに規模が大きい「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」を自社と比較することが多いが、そのニューヨーク・タイムズは2016年第2四半期のデジタル広告売上が7%減の4500万ドル(約45億円)だったという。2015年には、ニューヨーク・タイムズのデジタル広告売上は1億9700万ドル(約197億円)で、全広告売上の3分の1を占めていた。
覚書には、デジタル版の購読件数が145%増加したという、以前に報じられた数字も記載されていた。これは、同社が有料コンテンツ購読者の拡大に本腰を入れた結果だ。また7月には、ユニークビジター数が8200万人超という記録的なトラフィックを達成したとも書かれていた。オンラインのワシントン・ポストは急速な成長期にあり、2015年10月にはトラフィック数がはじめてニューヨーク・タイムズを上回った(さらに、11月と12月も)。
広告に大きく依存している
とはいえ、こうした数字にも注意が必要だ。ページビューを広告売上につなげることは難しい。また、ワシントン・ポストは成長の大部分を本拠地のワシントンDC以外の市場で実現しているが、広告主から真の全国紙とみなしてもらえるまでにはまだ時間がかかるだろう。
さらに、読者から大きな売上を達成できたパブリッシャーはごくわずかしかない。情報筋によると、ワシントン・ポストの購読料売上(印刷版とデジタル版を含む)は、同社の売上の30%程度でしかない(ニューヨーク・タイムズは50%を超えている)という。つまり、ワシントン・ポストは気まぐれな広告に大きく依存しているのだ。
覚書のなかでこの記事に関連した部分を、以下に引用しよう。
いまのところ、2016年はワシントン・ポストにとって良い年となっている。トラフィックは記録的な数となり(7月は8200万人超)、デジタル版の購読件数は145%増加した。また、我々は数えきれないほどの賞を獲得し、ワシントンDCとニューヨークに最先端の本社ビルを構え、影響力の大きいジャーナリズムとデジタルイノベーションの両方で業界をリードしている。
こうしたすべてを踏まえて、私が強調したいのは、今年に入ってから諸君がこれまで達成してきた目覚ましい偉業だ。諸君の努力のおかげで、我々は目覚ましい売上を期待できる状況になっている(そして思い出してほしい。2015年は、全体の目標広告予算を3.5%上回り、デジタル部門の売上は17.4%増加するという優秀な年だった)。8月には、全体の広告予算を6.3%上回っており(これはパブリッシャー業界の目安を大きく超えた!)、全体の広告売上は前年と比べて増加している。異なる言い方をするなら、我々のビジネスは成長している。印刷版は堅調に予算を上回り、イベントグループは売上を倍増させている。もっとも大きく成長しているのはデジタル部門で、デジタル広告全体の売上は8月に前年比で48%増加した(注目すべきことに、競合他社の多くは今年になってデジタル広告売上を落としている)。内訳を見ると、プログラマティックは92%、動画は82%、ブランドスタジオは275%の増加だった。
デジタル広告売上が堅調な9桁で推移すると同時に、印刷版の結果が予想を上回っている。我々の売上の状況は、わずか2年のあいだに劇的に変化したということだ。
Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)