男性向けファッション・カルチャー雑誌の『GQ』は、2015年7月1日にウェブサイトをリニューアルした。以前は、ページの読み込みに7秒もかかるような状態だったが、CMS(コンテンツマネジメントシステム)を発行元であるコンデナスト社独自の配信プラットフォームに一本化するなどし、サーバーへの負担を400%減。それによって、ページの読み込み時間を80%も減らすことに成功し、2秒以下で読み込めるようになった。
現在のようにモバイル機器での閲覧が増え始めると、ページの読み込み時間こそがサイトの成功に直結する。男性向けファッション・カルチャー雑誌の『GQ』(アメリカ版)は、2015年7月1日にウェブサイトをリニューアルした。以前は、ページの読み込みに7秒もかかるような状態だったのに加え、モバイルからのアクセスが53%も占めていたという。さらにオーディエンスが増え続けたことで、バックエンドを圧迫し、ユーザーを辟易とさせていたのだ。
コンデナスト社のパブリッシャー兼バイスプレジデントを務める、ハワード・ミットマン氏は「ユーザーがモバイルでアクセスするのがあたりまえになったため、ページの読み込み時間は我々にとって最重要課題となった」と語る。また、「ページの読み込み時間が遅ければ、競争すらできない。モバイルユーザーのネット通信速度に対する期待は高まるばかりだ」とも述べた。
整理整頓、一本化で構築システムをシンプルに
『GQ』は、再起動システムの改善から乗り出した。過去数年、自動再生動画などによってサーバーに負荷をかけるような広告タグやその他機能により、サイトは重たくなるばかりだったのだ。それが原因でサイトの人気は落ち、徐々に閲覧されなくなる。また、複数のCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)で配信していたことも、通信速度のスローダウンに拍車をかけていた。
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こうした背景を踏まえ、『GQ』は新しいページやスライドショー、ビデオなどのコンテンツを増強しつつも、サーバーへの負担を400%減らすことを達成。CMSをコンデナスト社独自で開発した配信プラットフォーム「Copilot」に一本化し、記事ページを整理しなおしたのだ。これにより読み込み時間を最終的に80%減らすことに成功したという。2秒以下でページの読み込みが可能になった。なお、このような課題には、「ワシントン・ポスト」や新興ニュースサイトの「Vox Media」もまさに取り組みはじめている。
多くのサイトが陥る落とし穴
『GQ』などの配信元に対し、サイトのパフォーマンスを最適化するのを手助けしているRigor社のクレイグ・ハイドCEOは、こうした読み込み時間が遅くなる原因は、サイト構築のアウトソーシング化に原因があると語る。
ページのサイズ調整や、コメントに用いるウィジェット、ビデオ再生や広告タグ等の構築をサード・パーティーに任せるため、結果としてページの読み込み時間が平均で7秒もかかってしまうというのだ。「昔なら、それぞれの配信元はサーバーやページを構築するアプリを自前で持っていたし、そうした環境下でコンテンツを作っていた。いまでは、そうしたページのサイズがMP3ファイル1枚分ぐらいの大きさになっている」。
そのうえ、世間ではモバイルで時間をつぶす人が増えており、それゆえの制約も高まりつつある。デジタルデザインやマーケティングを手がけるアメリカの代理店「RocketFuel」の調査によると、デスクトップPCでの閲覧よりも、モバイルでの閲覧の方が、直帰率は10%から20%も高いのだ。
2015年5月、Facebookが別サイトへ遷移することなくニュース記事を確認できる新機能「Instant Articles」を導入した際、 この読み込み時間が再び注目を浴びた。「Instant Articles」がFacebookのニュースフィード上で配信元コンテンツを素早く読み込むのを可能にしたからだ。
一方で、読み込み時間が遅くなる新たな原因としては、広告をブロックするソフトウェアが増えたことが挙げられる。『GQ』では、それほど重大な課題とまではいかないものの、広告ブロックソフトは気になる要因のひとつであると認識しているという。
読み込み時間の短縮はなにを変えたか
パブリッシャーにとって、オーディエンスに観てもらうべき要素や、読み込み時間が必要とされる機能に優先順位をつけることは出来るが、すでに膨れ上がったものを削っていく作業は簡単なものではない。なぜなら、社内の各部署同士の争いになりかねないからだと、ハイド氏は指摘する。「それぞれの部署の人間は、自分たちが関わっている機能を最初に読み込んで、ユーザーにアピールしたいと主張しあうだろう」。
そうはいっても、『GQ』にとって読み込みが速いサイトに改善できたことは、新しいコンテンツや記事のレコメンド機能などと並んで、オーディエンス増加の大きな助けとなったのは事実。2015年6月は600万ユニークユーザーだったアクセスが、サイトを再スタートさせた同年7月には1100万ユニークユーザーに増大(こうした数字はアクセス解析を中心としたオンラインビジネス支援サービスのOmniture社の内部資料から引用。デジタル市場分析を手がけていることで有名なcomScore社の集計数字は、この記事を執筆している時点では利用不可能)。 サイトの平均滞在時間も、6月には5.9分だったのが7月には7.8分に向上した。
広告主にとってもメリットあり
この改善は広告主にも利益となる。サイト滞在時間が長くなり、広告も大きく再配置されたことから、インタラクション率が108%に上がったからだ。
世間の人たちがモバイルにシフトしていくなか、ページの読み込み時間を減らせというパブリッシャーへのプレッシャーは絶えることがないだろう。『GQ』では、モバイルからのアクセスが占める割合は、年間で5%増加すると予測。しかし、デスクトップPCよりもモバイルでアクセスしたときのほうが、より読み込み時間が長くなってしまう事実は変えられない。また、こうした制限された状況下で、必ずしもすべてのパブリッシャーが『GQ』のように通常運用をしながら、同時にサイト・パフォーマンスの改善を達成できるわけではないのだ。
「パブリッシャーは市場の需要に見合うようにアップデートし、即座に読めるようにコードを書き続けなければならない」と先述のミットマン氏は語る。「モバイル市場の進化は続いている。我々はそれを予測しながら、この市場での新しいプロセスを開拓していくことを理解するべきだ」。
Lucia Moses(原文 / 訳:南如水)
photo by Thinkstock / Getty Images