スポーツ分野におけるニッチなOTTサービスであるダゾーン(DAZN)は、広告ビジネスにおいても自分たちのニッチを見つけようとしている。彼らの狙いは広告主たちのテレビ向けの支出をできる限り取り入れることだ。
スポーツ分野におけるニッチなOTTサービスであるDAZN(ダゾーン)は、広告ビジネスにおいても自分たちのニッチを見つけようとしている。彼らの狙いは広告主たちのテレビ向けの支出をできる限り取り入れることだ。
DAZNは、イタリア、ドイツ、日本といった主要マーケットにおいて11月から、さまざまなバージョンの広告を静かに試験運用してきている。たとえばイタリアでは、DAZNはサッカー・トップリーグの114試合を見ることができる唯一のプラットフォームとなっており、このマーケットでは試合中にフォルクスワーゲン(Volkswagen)のCMが流れている。ドイツではストリーミング中に4つの異なるブランドの広告がローテーション形式で流れている。日本ではゲーム企業であるコナミ(Konami)によるブランデッドコンテンツが使われている。
このように「ソフト」なアプローチのため、DAZNは「手作業な」プロセスに頼らざるを得なくなっていると、DAZNのメディア部門エグゼクティブ・バイスプレジデントであるステファノ・デアンナ氏は言う。彼によると、すべての試験広告はチームによって配置されているとのことだ。どの広告設置も自動化されておらず、指標はDAZNによって出されるオーディエンス数を中心としている。これらの数字を外部団体によって比較することもできない。
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ダイレクト販売のままで
しかし、今夏から、彼らの売り込みはより強固なものになるだろう。「8月、9月以降、我が社の広告デリバリー計画をスケールする予定だ」。
広告を管理し、広告主たちにダイレクトに売られてきた広告をターゲット化するための交渉をベンダーたちと行い、最終的には夏までに広告サーバーを設置することを予定しているという。現状ではDAZNの広告をプログラマティックで販売する直近の計画はない。テックの仲介業者に、プロジェクトの初期段階から収益の多くを割り当てることに、デアンナ氏は積極的ではない。
「完全にデジタル物件になったうえで、広告取引を自社テクノロジーに差し込むわけではない。我々がブランドと、直接の関係性を持つ方向性に、常に売り込もうと思っている。カスタムメイドでブランドの関係性を進化させることができるプレミアムな環境を我々は持っている」と、彼は語る。
若干異なるアプローチ
放送マーケットは多くの点でプログラマティックに向かって進んでおり、広告主とダイレクトに広告をやり取りするというのはスケーラブルな方向性ではない。
「最終的には広告収益を伸ばすために他の方法にも目を配らなくてはいけなくなるだろう。それはダイレクトとプログラマティックの組み合わせとなるかもしれない」と付け加えた。放送局からのVODは長年に渡って重要な市場となっており、アドレッサブルTVのフォーマットのおかげで多くの広告支出がそこへと流れていくなかで、今後も継続して成長するだろう。この状況下でデアンナ氏は若干の懸念を抱かざるを得ないようだ。
「デジタルに費やされる広告スポンサーの予算が増えていない、と言っているわけではない。それは我々も注目しないといけないことだ。しかし、我々が抱えるオーディエンスを考慮して、我々は若干異なるアプローチを持っている。できる限り、テレビから我々のビジネスへと移したいと思っているのだ」。
サブスクの穴埋めに
ファン数が比較的に少ない、トップレベルのスポーツからひとつ下がったレベルのスポーツを中心に構築されたOTTがDAZNだ。それに加える形で、プレミアリーグ、チャンピオンズリーグ、そしてNGLといったトップレベルのスポーツの配信権をイタリアやドイツといった主要マーケットで抱えている。特定のスポーツと深くエンゲージメントを示す小規模なファンをどうやって取り込むか、ということがスポーツマーケティングでは盛んに議論されているなかで、DAZNは広告主にとって興味深い存在だ。DAZNはサブスクリプション登録者に関するデータをめったにシェアしない。しかし、デアンナ氏によると、社内予測に到達する流れであり、いくつかのマーケットにおいてはすでに予測を越えているとのことだ。
「スポーツのオーディエンスは従来では年齢層が高くなる。しかし、DAZNの場合は、主に男性のより若い層を獲得している。これは、従来のテレビでは、リーチするのが難しい層だ。平均的なスポーツ視聴者よりも利益を上げやすい、価値のあるファン層である」と、アンペア・アナリシス(Ampere Analysis)のリサーチ・ディレクターを務めるリチャード・ブロートン氏は言う。
DAZNがブランドの広告予算にフォーカスしていることから、OTTビジネスがスタミナを継続して成長するのがいかに難しいかが伝わってくる。サブスクリプションが今後もビジネスの大部分を占めることは変わらないだろう。しかし、スポーツ広告ほど利益に繋げやすいものを使ってマージンを稼ぐことは、長期的には重要なエネルギーとなりえる。
ほかのメディアスタートアップと同様、DAZNは3年から10年の軌道で黒字転換することを狙うと同時に、配信権利とマーケティングに大きな予算を費やしている。今年に関して言うと、すでにロードレース世界選手権であるモトGP(Moto GP)のドイツにおける配信権、サッカーのインフルエンサーたちやテニスの配信権をいくつかブラジルで獲得しており、サッカー界のスーパースター、ネイマール・ダ・シウバ・サントス・ジュニオールとのスポンサー契約、ボクサーであるゲンナジー・ゴロフキンとのスポンサー契約も確定している。ブランドからの広告予算からDAZNの収益に5%から10%足されることで、これらのコストを軽減することができると、ブロートン氏は言う。
新規獲得にはコストがかかる
サブスクリプション登録者獲得に関する競争は熾烈になっている。広告業務はこの面の埋め合わせになるだろう。新規登録者の獲得は数年前と比べると非常にコストが高くなった。これはNetflix(ネットフリックス)が一番身にしみているところだ。アンペア・アナリシスによると、2013年から2015年のあいだ、米国においてNetflix新規登録者の獲得コストは60ドル(約6700円)だった。いまでは新規に獲得するサブスクライバー1人あたり、100ドル(約1万1000円)から140ドル(約1万5600円)のコストがかかっているという。
DAZNからのコマーシャル請求はDAZN メディア(DAZN Media)の名の下で行われる。これはパフォーム・メディア(Perform Media)の代わりとなるセールス部門であり、この部門がGoal.comやスポーティング・ニュース(Sporting News)といったサイトの戦略も統括する。また刷新の一環として、各種サイトを横断してオンライン広告在庫を販売するためDAZN+(ダゾーン・プラス)も作られた。
Seb Joseph(原文 / 訳:塚本 紺)