今、米国ではスポーツギャンブルへ参入するスポーツメディアが増えている。 9月に開幕したNFLの2020年シーズンに合わせ、大手スポーツメディアではさまざまな関連コンテンツを展開している。CBSスポーツ(CBS Sport […]
今、米国ではスポーツギャンブルへ参入するスポーツメディアが増えている。
9月に開幕したNFLの2020年シーズンに合わせ、大手スポーツメディアではさまざまな関連コンテンツを展開している。CBSスポーツ(CBS Sports)は、スポーツブックメーカーのウィリアム・ヒル(William Hill)のオッズをバナーに掲載した。
NBCスポーツ(NBC Sports)でもブックメーカーであるポインツベット(PointsBet)の広告を掲載しているが、こちらはイリノイ州やニュージャージー州、バージニア州といった地域のチームやスポーツに応じて内容が変わる。たとえばシカゴ・ホワイトソックスの記事を読んでいるイリノイ州の住民に対し、同チームが「ワールドシリーズで優勝するオッズは100対1」といった広告が表示されるといった具合だ。
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進むブックメーカーとのパートナーシップ
こういった広告が増えているのは偶然ではない。過去12カ月間、NBCスポーツやCBSスポーツ、ESPN、ブリーチャーレポート(Bleacher Report)といった複数の大手スポーツメディアが、ドラフトキングス(DraftKings)、MGM、ポインツベットといったスポーツブックメーカーとパートナー契約を結んでいる。
契約形態は様さまざまだが、数百億円規模の契約が多くなっている。たとえばポインツベットは今後5年でNBCスポーツと4億ドル(約420億円)に加え、カスタマー獲得に合わせて出来高が上乗せされる契約を結んでいる。さらにNBCスポーツは、5年後に満期を迎えるポインツベットの株式5%を取得する。
メディアとデータに基づいて内容が決まる契約もあるようだ。パブリッシャーが広告の最適な掲載箇所を決め、オーディエンスによるブックメーカーへの登録に結びつける。スポーツ系パブリッシャーのなかには、ファンタジースポーツ(実在のスポーツ選手のデータをシミュレーターやゲームに組み込み、架空のスポーツチームを構成して競わせるゲーム)分野にも進出しているところもあり、コアファンを対象にサブスクリプション製品を販売する企業も増えている。
また、ドラフトキングスとVox Mediaの提携や、カジノ企業シーザーズ(Caesars)とブリーチャー・レポートの提携のように、パブリッシャーがベッティングコンテンツ専門の制作チームを立ち上げているケースもある。
コロナ禍で支出は縮小気味
米国スポーツメディアのベッティングへの参入は、2018年のスポーツベッティング解禁から予想されていたことだ。実際、前述した契約の大半は新型コロナウイルスのパンデミック以前に締結されている。そしてこれらの契約を結んでいるスポーツブックメーカーの多くは、コロナ禍によってスポーツリーグが中断したのに伴い、今年は広告支出を縮小している。
さらに感染拡大を防ぐためカジノの営業規制がおこなわれたことも、スポーツブックメーカーの広告支出に影響を及ぼしている。カンター・メディア(Kantar Media)のデータによると、ファンデュエル(FanDuel)の場合、2020年上半期まで広告費は基本的に横ばいの1160万ドル(約12億円)だったが、ウィリアムヒルの場合は180万ドル(約1億9000万円)から13万4000ドル(約1400万円)にまで大幅に減少した。
一方、例外的なのがドラフトキングスで、2020年上半期までの広告支出が1900万ドル(約20億円)で、昨年の700万ドル(約7億4000万円)から3倍近くにまで増加した。
スポーツベッティング市場は今後数年拡大を続けると考えられており、スポーツメディアとブックメーカーはより関係を深めるだろうと予想されている。現在、米国でスポーツベッティングが合法なのは18州のみだが、業界関係者の間では2024年までに最大で40州まで拡大すると考えられている。
コンテンツのあり方は模索段階
だだし、各パブリッシャーのオーディエンスが実際にスポーツベッティングのコンテンツをどれくらい受け入れるかは不透明だ。スポーツベッティング自体については、すでに習慣としておこなっているオーディエンスや興味を持っているオーディエンスが存在する。スポーツパブリッシャー各社はこういったオーディエンスが楽しめるサービスを提供しつつ、自らが成長していくための手段を模索しており、その競争は激しい。
「拙速にならないよう気をつけている」とポインツベットのCMO、ジョニー・エイトケン氏は語る。「当社のブランド広告をやたらと掲載するのではなく、意味のあるキャンペーンを展開しなければならない」。
スポーツベッティングのイメージを明るいものにしようと試みているパブリッシャーも存在する。ブリーチャーレポートが手がけるB/Rベッティング(B/R Betting)では、スポーツベッティングの社会的・文化的側面を記事で紹介しており、高額な当たりを引いた人たちのインスタグラムの写真や、試合終了間際に点を入れられて突っ伏すファンのGIF画像などを掲載している。パンデミックによりリーグが中断した春のあいだ、B/Rベッティングではアメリカンフットボールのゲーム「マッデンNFL(Madden NFL)」で試合をおこないオッズを付けたり、ゼリービーンズを一杯につめた瓶の写真を投稿したりしていた。
一方で、昨年立ち上げたYouTubeのチャンネル「The B/Rベッティング・ショー」の動画コンテンツはほとんど更新しなかった。同社のシニア・バイスプレジデントで、スポーツベッティング担当ゼネラルマネージャーを務めるジョー・ヤナレラ氏は「市場における空白地帯を模索した」と語る。「常識にとらわれない発想を重視している」。
スポーツ分野の投資が変わる可能性も
より慎重なアプローチをとっているパブリッシャーもおり、提携するブックメーカーのデータをバナーに表示したり、編集者や記者にデータを提供することで彼らの「通常コンテンツ」に取り入れる、といった手法を採用している。CBSスポーツデジタルのエグゼクティブ・バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるジェフ・ガーチュラ氏は、「もともとの(スポーツ分野のコンテンツへの)アプローチとさほど違いはなく、スポーツベッティングを取り入れても大きな変化は生じなかった」と語る。
CBSスポーツはオーディエンスが何に興味を持っているかを把握するため、ベッティングのより専門的な記事を得意とするライターを今年後半に雇う計画だという。ウィリアムヒルから登録したり、実際に賭けたりするオーディエンスは数こそ少ないが、その他大多数のオーディエンスよりも「価値が高い」可能性があるためだ。
「(スポーツベッティングへのフォーカスが)スポーツへの投資方法を変えるかもしれない」とガーチュラ氏は語る。「これまで投資不足だった可能性のある分野がある。ディスプレイ広告指向のなかで、あまり金が集まらなかった分野だ」。
ただし、ベッティングをおこなう可能性のあるオーディエンスを把握する過程で、興味のないオーディエンスをうんざりさせないよう注意する必要があるだろう。この対策として、CBSスポーツの場合、スポーツベッティングが合法の州のオーディエンスにだけ、関連するような広告が表示される。たとえばユタ州のオーディエンスが、シカゴ・ベアーズのファンタジースポーツの記事を読んでいるとする。このときユタ州のオーディエンスに表示される広告と、イリノイ州で同じ記事を読んでいるオーディエンスに表示される広告は基本的に異なるように設定されている。
[原文:‘Walk before you run’ Sports publishers look to blow out their betting content]
(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)