VR の現状はニッチテクノロジー:「いまはARとの蜜月期」と、パブリッシャー関係者

英紙ガーディアン(The Guardian)は3年前、VR(仮想現実)がまもなくメインストリーム化すると確信した。2016年10月、同社はVRの可能性をさぐる専任社員2人からなるチームを創設。およそ1年後には専用のVRアプリ「ガーディアンVR」もリリースされた。

「新たなテクノロジーへの投資は必ずリスクを伴う」と、ガーディアンVRスタジオの編集者、フランチェスカ・パネッタ氏は当時述べた。「しかし、私にとっては(VR進出を)しないことの方がリスクだ」。

VRという新興技術に飛びついたパブリッシャーはガーディアンだけではない。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:以下、NYT)は、VRモバイルアプリを2015年にローンチし、その後10以上のVRプロジェクトを世に送り出した。同社のコンテンツスタジオ「Tブランドスタジオ(T Brand Studio)」のVRプロジェクトは、2016年にカンヌライオンズで賞を獲得した。また2016年のはじめには、USAトゥデイ(USA Today)の親会社ガネット(Gannett)も、広告主に向けてVR進出をアピール。同社のブランドスタジオ「ゲットクリエイティブ(GET Creative)」に加え、2人の専任社員が制作に携わった。

だが、消費者への浸透度の低さのせいで、いまやVRは隅に追いやられ、代わってAR(拡張現実)と音声が未来志向のメディアのあいだでバズワードとなっている。これに伴い、一部のパブリッシャーはVRプロジェクトの規模を縮小した。ガーディアンが最後にVRプロジェクトを公開したのは2018年7月で、編集責任者だったパネッタ氏は現在、ニーマン・フェローシップを獲得し、ハーバード大学で研究に勤しんでいる。チームが現在製作中のコンテンツはない。NYTは、2年前にはクライアントから受注制作したVRプロジェクトが3倍以上に増加したと誇らしげに語っていた。しかし今回の取材では、2018年に制作した広告主向けVRプロジェクトの数についても、専任スタッフの数についてもNYTからの回答は得られなかった。ガネットが2期にわたって制作した、VRと360度動画のショーケースとなるプロジェクト「バーチャリー・ゼア(VRtually There)」は、2018年に中止が決まった。

VRはニッチテクノロジー

VRの現状はニッチテクノロジーであり、もはやマーケターの興味をひくことも、GoogleやFacebookといったプラットフォームが強力に後押しすることもなくなった。こうした問題により、VRをめぐる熱狂とから騒ぎはすっかり冷め、現実主義に置き換わった。パブリッシャーは、VRがどれだけ注目を集めるか、ずっと冷静な目で見るようになった。そして、彼らがVRから学んだことや、VRのためにかき集めた人材は、そのままARに受け継がれた。

「VR熱は少し冷めてきた」と、USAトゥデイ・ネットワークの最高執行責任者を務めるマイケル・カンツ氏は、先日のDIGIDAYポッドキャストで認めた。「オーディエンス獲得の面で、我々が見込んでいたほどの成果が上がらなかった。我々が実験をする目的は、実験そのものだろうか、それとも何らかの見返りを期待しているのか? もちろん後者だ」。

ARはスマートフォンさえ持っていれば誰でも体験できるが、VRはニッチだ。アナリストのあいだには、安価なヘッドセットが登場すれば普及は加速するという見方もある。しかし、消費者調査会社IDCによれば、全世界のVRヘッドセット販売数は、今年も890万台にすぎず、前年比54%増にとどまる見込みだ。

Googleの努力も虚しく

2015年以降、Googleなどのデバイス製造企業は、安価なヘッドセットによってVRを大衆化させる努力を続けてきた。たとえばGoogleカードボード(Cardboard)の場合、GoogleはNYTなどのマーケティングパートナーの力を借り、NYTは5カ月で130万人の有料購読者にカードボードを発送した。それでも、一般消費者にブームを巻き起こすことはできなかった。

これに対し、ARでは消費者は新しく効果なデバイスを購入する必要がない。すでに世界の数十億人の手のなかにあるスマートフォンで体験できるからだ。ここ半年間、マクラッチー(McClatchy)のクリエイティブラボ(Creative Lab)は、VRよりもARの売り込みに力を入れていると、同社の戦略動画イニシアチブ責任者、メーガン・シムズ氏はいう。

「VRは広告の世界で厳しい逆風に直面している」と、アセンブリー(Assembly)でイノベーション担当バイスプレジデントを務める、マット・メイハー氏はいう。「VR体験の制作コストの高さや、オキュラス・ゴー(Oculus Go)のような消費者向けヘッドセットの普及率の低さから、現在のマーケティング戦略では受け入れられないと、ほとんどのマーケターが敬遠している」。

VRを届ける別の方法

スケールの問題を回避すべく、一部のパブリッシャーはオーディエンスにVRを届ける別の方法を模索している。たとえば、マクラッチーが検討しているのは、イベントでのVR企画だ。参加者がその場でデバイスを使ってVRを体験できる形を想定していると、マクラッチーのニューベンチャーズラボ(New Ventures Lab)で戦略担当責任者を務める、ベン・コナーズ氏はいう。この方法は、制作コストとヘッドセット、ふたつの不足の問題を一度に解決できる点で優れていると、エージェンシーMRYで戦略担当シニアバイスプレジデントを務める、ジャネット・カプート・カープ氏は語る。

パブリッシャーはVRを完全に見放したわけではない。パブリッシャーとして独立したばかりのタイム・マガジン(Time Magazine)は、2019年のサンダンス国際映画祭でふたつのVRプロジェクトを発表した。

マクラッチーも、ドキュメンタリーシリーズ「オール・ウィー・ガット(All We Got)」の1エピソードをVRで制作。ガネットは、米国・メキシコ国境問題を取り上げピュリッツァー賞を受賞した「ザ・ウォール(The Wall)」にVR要素を盛り込んだ。

「いまはARとの蜜月期」

しかし、パブリッシャー内部関係者によれば、ARやその他の新興メディアフォーマットに軸足を移しているのは事実だ。しかも、ときには当初VR担当として採用された人材が、こうした新分野に取り組んでいるという。ガネットの多機能チームは、数十人いるUSAトゥデイ・ネットワークの記者全員に今年中にAR制作技術を身につけさせるという目標を掲げているが、人員は4人しかいない。一方、マクラッチーのニューベンチャーズラボは、この1年半で2人から6人に増員した。

こうした分野横断的チームは、短期的な見返りがあるのはARだと考えている。「いまは(パブリッシャーと)ARの蜜月期だ。2~3年前にVR(仮想現実)がそうだったように」と、デジタルコンテンツスタジオANRKの創業者、アンリック・ブレグマン氏は以前、米DIGIDAYの取材に対し語っている

Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)