Vox Mediaはかつて、共通する技術と売上のバックボーンに裏打ちされた、ほかとは異なるエディトリアルバーティカルを持つことにより、デジタルメディアをうまく運営するという難題を解けると確信していた。だが、そのアプローチも限界に近づきつつあるのかもしれない。
Vox Mediaはかつて、共通する技術と売上のバックボーンに裏打ちされた、ほかとは異なるエディトリアルバーティカルを持つことにより、デジタルメディアをうまく運営するという難題を解けると確信していた。だが、そのアプローチも限界に近づきつつあるのかもしれない。
Vox Mediaのテックニュースサイト「Recode(リコード)」が、同社のニュースサイト「Vox.com」に統合されたのだ。ファッションサイト「Racked.com」も今年の夏、同じように「Vox.com」に統合されている。
これらサイトをVox.comに統合することで、同社はフラッグシップサイトのオーディエンスを増やしている。Voxの各バーティカルは、ブランドセーフティが話題の中心を占める昨今、広告主にアピールすると思われるハイクオリティなセーフヘブン(安全な避難所)を象徴する存在だ。しかし、これだけ「明るい環境」の話題でもちきりになっているにもかかわらず、広告バイヤーが欲しているのは相も変わらず「規模」だ。
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Vox Mediaの受難
Vox Mediaは9月、9000万人のユニークユーザーにリーチした。ハースト(Hearst)に肉薄し、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)とワシントン・ポスト(The Washington Post)に水をあける好成績だ。だが「Vox.com」(ユニークユーザー数:3000万人)のニュースカテゴリーにおけるランキングは31位だった。ニュースサイクルの不安定さも広告主がニュースを敬遠する原因になっている。また、Vox Mediaの非ニュース系サイトのほとんどは、各々が小規模だ。「リコード(Recode)」に至っては、そのユニークユーザー数はわずか100万人強で、前年比で51%ダウンしている(数字はすべてコムスコア[comScore]調べ)。
この件にくわしい消息筋によれば、Vox Mediaは先日、コストを削減できるエリアがないか確認するために、各サイトのコンテンツ監査を行ったという。また、同社は以前から、各サイトが緊密に連携をとって、コンテンツの共有を推進するように促してもいるようだ。Vox Mediaによれば、「イーター(Eater)」と「カーブド(Curbed)」は、エディトリアルコンテンツで協働しているという。しかし、このような機会は限られている。
「最近は、独立したパブリッシャーでいることが難しくなっている」と語るのは、メディアエージェンシーのPHDでパブリッシュドメディア部門のグループディレクターを務めるジョン・ワグナー氏だ。「プログラマティックエクスチェンジを設置していても、収入を生み出すのは、やはりダイレクトだ。ニュースサイクルが不安定なせいで、間違いなく、ニュース中心のコンテンツをつくることは難しくなっている。スポーツや食、住まいなどを中心とするコンテンツをつくるほうがずっと簡単だ。どうやってエクスチェンジ外でオーディエンスをマネタイズするのか? これが課題だ」。
Vox Mediaの大改革
Recodeのケースも、パーソナリティ主導型サイトのリスクを浮き彫りにしている。Recodeは2014年、ベテランのテック系ジャーナリスト、カラ・スウィッシャー氏とウォルト・モスバーグ氏によって立ち上げられた。そして翌2015年、同社のカンファレンス事業に目をつけたVox Mediaによって買収された。その後、モスバーグ氏は退社・引退し、スウィッシャー氏は現在、Recodeと並行して別の仕事も行っている(最近はニューヨーク・タイムズに意見記事を寄稿している)。
ウェブはトラフィックがすべてではない。Vox Mediaは、Recodeのトラフィックは減少しているが、反対にポッドキャストやカンファレンス事業は成長しており、MSNBCで生放送されているトーク番組も伸びている点を強調している。
一部では、Vox Mediaは2億ドル(約226億円)の収益という今年の目標を達成できない公算が大きいと報じられている。これもまた、デジタル新興企業が投資家の(非現実的とも言える)高い期待に応えるために四苦八苦している現状を示すサインだ。Vox Mediaは2月、従業員50人をレイオフした(現在の従業員数は約900人)。今年4月に最高商務責任者(CCO)に就任したばかりのリンゼイ・ネルソン氏は退社して、トリップアドバイザー(TripAdvisor)で役職に就くことになっている。また、編集長のダン・フロマー氏もVox Mediaを離れることが決まっている。リコードはいままさに、大改革の渦中にあるのだ。
収益多角化への挑戦
サブスクリプションや読者からの売上を主軸とする企業に魅力を感じる投資家が増えているなか、Vox Mediaはデジタル広告の売上に依存している。同社はeコマース事業の開拓に乗り出したばかりであり、サブスクリプションからも大きな売上をあげていない。
Vox MediaはNetflix(ネットフリックス)およびPBSと動画ライセンシング契約を結んでいるが、一般的に、こうした契約がもたらすメリットはさほど大きくない。たとえばNetflixの場合、同社の目標はあくまでオリジナル番組を持つことであり、これが、Vox Mediaがそこから得られる利益のブレーキとなっている。
広報担当者によれば、Vox Mediaにとって今年は「オーディエンスと売上の増加という点で、非常に好調」で、コムスコアの調査によるオーディエンス数は過去最高を記録しているという。「我々は自社の広告支援型デジタルコンテンツに絶対の自信を持っている。また、人気を博しているポッドキャストのネットワークも広がりつつある(現在、62番組)。ノンフィクションのTV番組を制作するスタジオも急成長している(NetflixやCNN、PBSなどのパートナーに向けた番組を制作している)。信頼と規模を提供する広告マーケットプレイスも運営しているし(コンサート[Concert])、パブリッシャーの規模の拡大を可能にする先進技術も開発している(コーラス[Chorus]:先日、シカゴ・サンタイムズ[Chicago Sun-Times]が新しくパートナーになったことが発表された)」。
新しい収益源の現実
コンサートは、VoxとNBCUが運営する、40社が参加する広告プラットフォームで、ハイクオリティーなパブリッシャーのコンテンツを広告主が大量購入するための一手段として売り込まれている。だが、この共同販売契約にも限界がある。コンデナスト(Condé Nast)は1年未満でコンサートから撤退した。コンサートに加入しているほかのパブリッシャーによれば、同プラットフォームの魅力はVox Mediaによる収益カット(約30%)のせいで大きく損なわれているという。
クオーツ(Quartz)の最高売上責任者(CRO)であるジェイ・ロビンス氏によれば、同社はコンサートとのパートナーシップに満足しているという。その理由は、クオーツから幹部クラスの意思決定者を多数派遣でき、同プラットフォームの意向のみに依存しなくてもいいからだ。
「とはいえ、このプロダクトにはレベニューシェアが付帯している。だから我々は、これがクオーツの現在のサービスに取って代わるのではなく、高めてくれるような使い方をするよう、細心の注意を払ってきた。我々はこれで、ブランドのために作成しているプログラムをもっと大きくするために、ターゲットオーディエンスの拡大を図っている」と、同氏は語る。
Lucia Moses (原文 / 訳:ガリレオ)