感染対策 と 需要増加 に揺れる、「動画」制作企業の苦悩:高齢タレントの利用中止も

コロナウイルスの流行拡大を防ぐため、多くの企業が在宅勤務に切り替えている。だが動画制作会社は必ずしもそうではない。リモートワークを行えば、倒産のリスクもあるためだ。

たとえば耐久消費財の分野では、コロナウイルスによる工場の閉鎖に伴い、サプライチェーンが混乱状態に陥っている。動画制作の分野においても同様に、コロナウイルスが業務に大きな影響を及ぼしており、その対処に追われている。各社は社外人材の利用を制限しており、制作スタッフの規模を縮小するとともに、ポストプロダクションチームが在宅勤務できるよう調整している。さらに上映やスタジオの倒産リスクにも備えて、対応策を練っている。

「当社は、すべて自社スタジオで撮影しており、自社スタッフ以外の人間も多数参加する」と、あるデジタル動画企業の役員は語る。「これによって、大勢が出入りする環境に自社スタッフがさらされている。だが、今後も非常に長期にわたって、撮影を中止するわけにはいかないだろう」。

「需要が増える」という皮肉

別のデジタル動画企業の役員によれば、複数のブランド動画の撮影を3月下旬から4月上旬に計画しており、現時点でこれらの撮影は行われる予定とのことだ。だが感染拡大がパンデミックへと加速していくなか、同社は各市場が撮影を延期する可能性についても考慮して自社の法務担当チームと保険ブローカーに、事業への影響についてアドバイスを求めているという。「月曜日(3月9日)には『ここで計画を立てなければ』と話していた」と、同役員は振り返る。

動画制作会社にとって皮肉なのは、パンデミックにより制作機能は制限される一方、自宅にいる人が増えることで視聴者数は増えると思われることだ。各社がスタジオ業務を継続し、撮影を予定通り行っているのもこの要因が大きい。制作の一時中断が避けがたいリスクとして高まっており、それまでに動画を撮りためておく必要があるのだ。

エンタメ企業のFBEでCEOを務めるマーク・ハストベット氏は「アウトプットの維持は大きな懸念となっている。当社では番組内のCMが収益の大きな割合を占めている」と語る。

高齢者タレント利用を中止に

2月の終わり頃、FBEはコロナウイルスによる2300平米のスタジオの一時的な閉鎖と、105名のスタッフの在宅勤務を積極的に検討していた。

同社が最初に行った対応は、社員が病気にかかるのを防ぐための予防措置を講じ、スタジオ閉鎖に追い込まれる事態を先延ばしにすることだった。同社は2カ月前の時点で手の消毒薬を導入し、エアフィルターを最新のものに交換している。だがFBEが契約している社外の俳優、女優は数百人にものぼり、動画に出演する彼らの年齢層は5歳から95歳までと幅広い。そこで同社は、高齢者タレントを使った動画撮影を中止した。アメリカ疾病予防管理センターは、高齢者がコロナウイルスに感染すると重症化リスクが高まると指摘している

さらにFBEは大量生産体制に移行している。制作担当リーダーを務めるケイト・グレイディ氏によれば、同社は通常1日あたりおよそ6本の動画制作を行っているが、ここ2週間は制作ペースを1日あたり10から12本に増やしているという。

だがFBEらが直面する課題は、制作する必要がある動画本数が不透明だという点だ。「4週間ほどスタジオを使えないという想定で動いている。それ以上長引けば、被害は非常に大きくなるだろう」と、ハストベット氏は語る。

スタッフを必要最小限に限定

一時しのぎの策として、動画制作会社はスタジオから離れての制作方法を検討している。上記の2番目のデジタル動画企業はYouTubeのクリエイターを取り上げた動画を多数制作しており、たとえばクリエイターらに自宅で一部動画の撮影指南も考えているという。同社に加え、FBEもまた小規模な制作グループの立ち上げを検討している。たとえば撮影と録音ができるスタッフ1人だけのチームを作り、出演タレントの家に行って撮影するといった仕組みだ。

さらに大きな問題になりかねないのが、動画撮影後の管理と編集だ。「当社のポストプロダクションは自社オフィス外で大半の業務が行われている。たとえば成果物が60本で編集者が4人といった巨大プロジェクトでは、全部が1カ所にまとまっているほうがやりやすい」と、上記のデジタル動画企業役員は語る。同社は3月第1週の時点ですでに、ポストプロダクションチームが在宅勤務できるようにワークフローの調整準備を行っている。

FBEも同様に編集とポストプロダクション業務の管理対策に取り組んでおり、特にチームメンバー間で動画資産を含んだハードドライブをどう受け渡しするかについて話し合われている。ここで参考にしたのが、ウーバー(Uber)やリフト(Lyft)といったライドシェア企業だという。両社は感染拡大に対処するためドライバーに手袋や手の消毒剤を渡しており、車両をしっかり拭くよう指示しているのだ。「スタッフ間で必要なリソースを(スタッフの自宅の外から)渡すにあたって、仲介する人を2人程度に絞り込めないかと考えている」と、グレイディ氏は語る。

最大の課題は不透明な先行き

だが、FBEらにとって最大の課題は、いくら準備したところで、どれだけ準備が必要になるか分からないという点だ。「真の課題はそこにあり、日夜取り組んでいる。どれだけの期間耐えられるか? どれだけこの問題が長引くのか?」と、ハストベット氏は苦悩を明かしている。

Tim Peterson(原文 / 訳:SI Japan)