Vice mediaが2015年8月に開始した女性メディア「Broadly」が好調だ。若い男性に強いVice mediaが、巨大広告主ユニリーバの後押しを受け、ライバルのBuzzFeedが固める若い女性にアプローチをかける。
Vice mediaにとってユニリーバとのスポンサーシップは大きい。ユニリーバは「ダヴ」「ラックス」などのブランドで知られる、世界最大級の消費財メーカー。2014年の全世界での広告支出は72億ユーロ(約9360億円)に達している。
売上の8割近くを女性に頼るユニリーバのプロモーションは自ずと女性に対するものになる。特にテレビが届かない若年層にリーチする手段として「Broadly」のスポンサーシップは生きるはずだ。
Vice Mediaが2015年8月にローンチした、女性メディア「Broadly(ブロードリー)」が好調だ。若い男性に強いVice Mediaが、巨大広告主ユニリーバを獲得し、ライバルのBuzzFeedが握る若い女性層にアプローチをかける。ミレニアル世代(1980年から2000年までに生まれた若年層)をめぐって、米新興メディアの勇がしのぎを削っている。
ハードワークで「自己主張する」女性像
「私は移民だから、ほかの人よりもとても優れていなければいけない」。NASA(アメリカ航空宇宙局)の女性エンジニア、デニス・アランダ氏が見せる表情は真剣そのもの。スポーティな赤いシボレー・コルベットで通勤しながら、彼女は話す。「私はベネズエラの首都カラカスで生まれた。アメリカの伝統的な街に来て、とてもカルチャーショックを覚えた」。
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アメリカ東部バージニア州にある「NASAラングレーセンター」がアランダ氏の職場だ。オフィス、コントロールルーム、航空機の格納庫で次々と仕事をこなす。職場では賢そうに振る舞うのではなく、自然体を心がける。彼女が携わるプロジェクトでは、女性が主要な役職に就いており「とても素晴らしいこと」だと感じるという。
ただ、NASAで働くため、ベネズエラの夫とは離れ離れになった。「仕事に打ち込むことで犠牲が生じているが、仕方がない」。そんな彼女の元気の源はダンスで「大学進学の理由もダンスするためだった」と冗談を言う。
クールとパンクが同居する動画メディア
この動画はシリーズ「A Day With(◯◯との一日)」の1本。さまざまな分野の第一線で活躍する女性をフォーカスし、仕事と日常生活の両面からありのままの姿を映し出す。
広告メディア「Adweek」によると、「Broadly」はユニリーバのグローバルブランド「トレセメ(TRESemmé)」をスポンサーとして獲得した、Vice Media11番目のデジタルビデオチャンネルだ。「Broadly」は急成長し、同社が大きなリソースを割くニュースチャンネル「Vice News」を短期間のうちに追い越したという。クリエイティブ・ディレクターのアメル・モンスール氏は「ビデオはオーディエンスが心から望んでいるものに絞る。無名だが視聴者を勇気づける女性にライトを当てたい。キャリアだけではなく『目標のある生活』が何かを伝えられる人だ」と語っている。
しかし、エッジでパンクな「Vice節」は「Broadly」にも濃い影響を与えている。「A Day With」以外のラインナップは、ポーランドでの中絶問題、ケニアの女性限定村落、レズビアンバー、スペインの売春産業、女性限定暴走族など、きわどいものが並ぶ。
下記の動画もケニア・ナイロビのスラムでボクシングの練習に励む「ボックスガール(ボクシング女性)」を題材にした動画だ。
「身を守るためにボクシングを習わなければならない」という貧困、危険などのVice Media好みのテーマと、ボクシングを通じて夢を叶えようとする「自立した女性」が、なめらかに融合している。
若者にリーチしたいユニリーバを掴む
さらに「Adweek」記事によると、Vice Mediaの社内広告代理店バーチュー(Virtue)は、トレセメのキャンペーンを制作。動画シリーズ「A Day With」のプレロール広告(動画再生前広告)として挿入するという。女性が職場で自信を振りまくためのパワーポージング(自信あふれる姿勢)を紹介するコンテンツなどを掲載する予定だそうだ。
ユニリーバのマーケティング担当バイスプレジデントを務めるロブ・カンデリーノ氏は、こう説明している。「『Broadly』は、我々が消費者と厚みのある会話を交わすことを支援してくれる」。売上の8割近くを女性に頼るユニリーバのプロモーションは、自ずと女性に対するものになる。特にテレビが届かない若年層にリーチする手段として、「Broadly」のスポンサーシップは生きるはずだ。
Vice Mediaにとって、ユニリーバとのスポンサーシップは大きい。同社は「ダヴ」「ラックス」などのブランドで知られる、世界最大級の消費財メーカーだからだ。広告支出も世界最大級で、2014年の全世界における支出は、72億ユーロ(約9360億円)に達したという。
なぜ、Vice Mediaはチャンネルを11まで増やしたのか。それは広告主獲得もひとつの要因だ。フジテレビの橋本英明氏は「Medium」の投稿でこう指摘している。
Viceはその後バーティカルな動画チャンネルを次々と立ち上げていきます。例えば音楽に特化したNoisey、テクノロジーに特化したMotherboard、アートに特化したThe Creators Projectが立ち上がり、それぞれに1社から4社ほどのスポンサーがつきました。旧来型のマーケティング手法だと若年層に届かないというクライアント側の課題があり、その一方ではVice.comに広告掲載されてエログロなコンテンツと一緒になって困るというメディア側の課題もありました。そこで前述の通り、Vice.comと付かず離れずのバーティカルメディアを作り上げました。
売上予測は10億ドル、収益化の壁超える
Vice Mediaの「女性進出」により、ライバルのBuzzFeedとの競争がより激化していくことが考えられる。BuzzFeedの女性向け動画コンテンツは「平均的な女性」をターゲットにしているようだ。人気のミニドラマ「You Do You」は、白人2人黒人1人アジア系1人と「人種構成に配慮された」女性4人組が恋愛、結婚、ライフスタイル、友情などさまざまなテーマをめぐって織りなす物語となっている。
「ビジネスインサイダー」によると、Viceのシェーン・スミスCEOは2015年10月、同年の総売上が10億ドル(約1228億円)に達する見込みだと明らかにしたという。Vice Mediaは多くのWebメディアがぶつかる「マネタイズ(収益化)の壁」をすでに乗り越えている。どころか、多くの出資を受け、資金も豊富だ。2016年初頭にテレビチャンネル「VICELAND」の立ち上げ予定しており、さらに拡大路線は続いていく。
Written by 吉田拓史
Photo by Welcome to Broadly(YouTube)