投資家たちを動かす、スポーツデジタルメディアの成長機会

ベンチャーキャピタル(VC)はここ数年、デジタルメディア企業への興味を失くしているようにも見えるが、多くのスポーツメディア企業は依然、支援を取りつけている。

この4カ月間に、業態は異なるが、いずれもスポーツにフォーカスするパブリッシャー3社が巨額の資金調達に成功した旨が報じられた。2月最終週、成長著しいスポーツベッティング(スポーツくじ)にフォーカスする、チャーニン・グループ傘下のメディア、アクション・ネットワーク(Action Network)がシリーズBで1750万ドル(約19億円)を調達したと発表。2月21日には、コンテンツビジネスの成長が見込めるとして、動画スタートアップ、 オーヴァータイム(Overtime)が2300万ドル(約25億円)を集めた。さらに、 2018年末には、アスレティック(The Athletic)がシリーズBにおいて、ファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)を筆頭に、コムキャスト・ヴェンチャーズ(Comcast Ventures)といったVCから4000万ドル(約44億円)弱を調達している。

数字だけ見れば確かに、BuzzFeedやViceといったスタートアップがほんの数年前に調達した9桁単位の額には遠く及ばない。だが投資家らは、スポーツ界には熱心かつ忠実なファンベースがあり、ディスプレイ広告だけでなく、さまざまな収益源を有するメディアビジネスの格好の基盤になりうると見ている。

「投資家はファンセグメントのニーズにとことん応えるベンチャー企業に資金を投じたがっている」と、アスレティックの共同創設者アダム・ハンズマン氏は語る。

先人の失敗に学ぶ

これら新規のスポーツ関連企業は、多くが創業わずか数年ではあるが、早くもオーディエンスとの直接的関係および多様な収入源の構築に向けて動いている。たとえば、オーヴァータイムはすでに7桁規模のブランド広告ビジネスを行なっているが、コマース事業の展開やライブイベント運営など、さまざまな計画を立てている。すでにサブスクリプション事業を展開しているアクション・ネットワークも、米国におけるスポーツベッティングの合法化が進むなか、広告収入の大部分は今後、スポーツブックのアフィリエイトコミッション経由になると期待する。サブスクリプションにフォーカスするアスレティックはそもそも、広告事業を持たない。

「我々は[広告市場が直面する]いくつかの困難に対して防御策を講じている」と、オーヴァータイムの創設者ザック・ワイナー氏は語る。「多様化は我々にとってきわめて重要だ」。

また、これらスポーツパブリッシャーは、Facebookをはじめとする単一のプラットフォームに対する依存度もきわめて低い。Facebookによりオーディエンスが増大し、 それがVCによるメディア企業に対する過剰な投資熱を生んだことは記憶に新しい。

「[プラットフォームは]いまや十分すぎるほど存在しており、したがって、どこかひとつが戦略を変えても、エコシステム全体が混乱させられることはない」と、オーヴァータイムに投資したVC、サファイア・スポート(Sapphire Sport)のマネージングディレクターで共同創設者のマイケル・スピリート氏は語る。

投資形の顔ぶれ

これら新規スポーツメディア企業の多くは、旧来の、いわゆるレガシー勢からも投資の取り付けに成功している。米大手メディアエンターテイメントグループ、NBCユニヴァーサル(NBCUniversal)が将来的な崩壊のリスクを回避するため、急成長を続けるBuzzFeedとの提携の道を選んだように、米ケーブル/衛星TVネットワーク、MSGネットワーク(MSG Networks)もまた、オーヴァータイムに最近のラウンドで資金を投入している。

一方、アクション・ネットワークは既存の事業を補完する新たな収入源、つまりギャンブルに関心のある投資家の惹き付けに成功している。最近のラウンドにおける投資者のなかには、NBAチーム、フィラデルフィア・セブンティシクサーズとNHLチーム、ニュージャージー・デヴィルスを所有する実業家デヴィッド・ブリッツァー氏や、米総合格闘技団体UFCの元CEOが代表を務めるファーティタ・キャピタル(Fertitta Capital)などがいる。

とはいえ、彼らはあくまでメディア企業であり、それゆえ熾烈な競争に直面しているのも事実だ。アスレティックの場合、旧来の新聞勢が競合相手となっており、後者は地元スポーツチームの試合を網羅する同様のサブスクリプション商品を本格展開している。今月前半にはさらに、Yahooが10を超えるプロスポーツフランチャイズと有償メンバーシップ商品における提携を考えていると報じられた。また、アクション・ネットワークは既存のスポーツベッティング業者と、そしてブリーチャー・レポートといった新規参入組と対決することになる。ブリーチャー・レポートはこの3月前半、米カジノ大手シーザーズ(Caesars)とベッティングにフォーカスする垂直統合を発表した。

旧来とは違う思考・行動

スポーツにフォーカスするメディアスタートアップの業績はさまざまだ。ターナー・スポーツ(Turner Sports)が2012年に1億7500万ドル(約194億円)で傘下に収めたブリーチャー・レポートは、ごく稀な成功例といえる。たとえば、元MLBニューヨーク・ヤンキースのスター選手、デレク・ジーター氏と長年のエージェンシー、エクセル・スポーツ・マネジメント(Excel Sports Management)のスタートアップ、プレイヤーズ・トリビューン(The Players Tribune)は、2014年の設立以来、6000万ドル(約66億円)近くを調達しているが、2019年1月に従業員の約10%を解雇しており、 現在、事業の方向転換を進めている。

とはいえ、スポーツパブリッシャー勢は強気の姿勢を見せている。すでにオーディエンスの心をがっちり掴んでいる以上、旧来のパブリッシャーとはまったく違う思考や行動が許されると考えているようだ。たとえば約半年前、英パブリッシャー、ギヴミースポート(GiveMeSport)の親会社は、デジタルゲーミングおよびデータ企業オリックス(Oryx)を傘下に収め、社名をブラッグ・ゲーミング・グループ(Bragg Gaming Group)と改めた。今年3月、ブラッグ社はスポーツブック、ギヴメーベット(GiveMeBet)を立ち上げており、同社CEOドミニク・マンスール氏によれば、これまでにギヴミースポートを通じて獲得したオーディエンスを活用して成長を目指していく。

マンスール氏いわく、「(英ブックメーカー大手)ウィリアム・ヒル(William Hill)の年間500万ドル(約5.5億円)の広告予算を利用しない手はないし、我々独自の[スポーツブック]を設立しない手はない」。

Max Willens(原文 / 訳:SI Japan)