パブリッシャーは現在、オーディエンスとの関係をより重視するようになっており、それに伴い商品やコンテンツに関する意見を読者に直接訊ねるようになってきた。ここ1年で、直接的なフィードバックを求める質問や、より本格的な取り組みへとシフトしつつあるパブリッシャーも増えている。
パブリッシャーは現在、オーディエンスとの関係をより重視するようになっており、それに伴い商品やコンテンツに関する意見を読者に直接訊ねるようになっている。
Bsiness Insider(ビジネス・インサイダー)は7月はじめから、サブスクリプションサービスの「BIプライム(BI Prime)」で配信する有料記事の一番下に質問をひとつ載せている。6月にはAXIOS(アクシオス)がニュースレターの登録者にメールで「同社のニュースレターを知人にどれくらい勧めようと思うか」という質問を送っている。ニュースレターのNPS(Net Promoter Score:顧客ロイヤルティを測る指標)を把握するための質問だ。
従来はオーディエンスのエンゲージメントを測るのに数字の指標が重視されてきた。たとえばページの閲覧数やユニーク訪問者といった規模に関する指標だ。それがここ1年で、直接的なフィードバックを求める質問やアスレティック(The Athletic)のような、より本格的な取り組みへとシフトしつつある。いまでも大半の測定は、ユーザーに伝えない形で行われている。たとえば、サイトの訪問者がページに何分滞在したか、記事がどれくらいの頻度でシェアされたか、ニュースレター登録へのコンバージョン率はどれくらいか、などの情報がこれにあたる。
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だが、有志の回答者によるフィードバックは、収集と扱いにおいて、こうした情報と異なる点が多い。AXIOSをはじめ、一部パブリッシャーはこのデータを商品チームに渡し、開発商品に対する関心の推移を測るための基準としようとしている。一方、アスレティックのように、記事に対する読者のフィードバックからパーソナライズコンテンツの適切な配信やパッケージ化について把握しようとしているパブリッシャーも存在する。
指標に対する考え方
いずれの場合も、パブリッシャーがユーザーから得るフィードバックはさまざまな指標にかけられる。NPSであれば指標としてわかりやすいし、読者が気に入った記事もまとめやすい。だが、ユーザーからフィードバックを集めているパブリッシャーは、フィードバックデータも単独では商品や記事、オーディエンスに関して意思決定できないと口をそろえる。
「こうしたトレンドは収益上意味があるようにも思えるが、いまや人を集めることだけが目的ではない。価値とはつまるところ金を払う誰かがいるかどうかで決まるからだ」と指摘するのが、ジャーナリズム調査機関のアメリカン・プレス・インスティテュート(American Press Institute)で、読者収益担当ディレクターを務めるグウェン・バーゴ氏だ。
また、同氏はNPSについて、「ひとつの数字としてはわかりやすい。だが、今年の記事閲覧数といった指標と同様、NPSしか見ないようではダメだ」と語る。
上記の調査は、いずれも表面上は似ている。だが、各パブリッシャーによる質問の内容は、さまざまだ。
BIプライムの場合は、会員に対して記事が「あなたにとってどれくらい価値があったか」という質問だったのに対し、アスレティックは読者に「記事についてどう思ったか」と訊ねている。さかのぼること2015年に、マイク(Mic)は記事の一番下に「記事を読むのにかかった時間だけの価値はあったか?」と訊ねるウィジットを配置していた。
フィードバックへの対応
フィードバックは顔のアイコンで回答するようになっており、意図したほどの結果は得られなかった。だが、アトランティックはこれもフィードバックを戦略の一環として採用している。今年、アトランティックは読者が好きな記事の種類を把握するためにフィードバックデータを活用しはじめ、好評だった記事と似た記事をニュースレターやモバイルのプッシュ通知でサブスクリプション会員に届けている。たとえば、フィードバックの結果、スポーツ選手の背景に関する伝記調の記事が好きと判明した読者には、ニュースや分析記事よりもそうした記事がより多く届く仕組みだ。
アスレティックの共同創設者のハンスマン氏は、重要なのは多数の判断材料を収集してまとめて分析することだと語る。判断材料となるのはコメント、どこまでスクロールしたか、どれくらい滞在したか、シェアなどだ。同氏は具体的なプロセスは明かさなかったものの、バランスが重要だと指摘する。
「ひとつの判断材料を活用しすぎると、すべて同一になってしまう」と、ハンスマン氏は語る。「もし、記事のクリック数しか見なければ、ドラフト予想記事ばかり書けば良いということになる。顔文字による評価だけしか見なければ、選手などの背景を伝えるポジティブな記事だけになるだろう。ひとつだけで済むようなデータは存在しない」。
BIプライムが調査を行っているのは読者にとって価値がある記事を見出し、読者の意見と商品への満足度が重要だというメッセージを明確にするためだ。
Bsiness Insiderの消費者サブスクリプション担当リーダーのクラウディアス・センスト氏は、同社が将来的に収集データをもとに商品を変更する場合は、十分にデータ収集に時間をかけるだろうと語る。だが、同社がデータを収集する過程で、すでに予期しなかったメリットが生まれている。BIプライムの質問は匿名で回答する形式で、追加のコメントも記載できるようになっている。このコメント欄に記事内の不明点について訊ねる読者が多数いたのだ。センスト氏は、これによって、いくつか補足の記事に関するアイデアが得られたと語る。
読者の負担軽減が重要
広告を掲載しているパブリッシャーも、こうしたフィードバックを戦略に組み込もうとしている。マイクの元従業員によれば、同社が2015年から数カ月のあいだ記事の下部に上記の質問を掲載したところ、記事に対する評価と閲覧数やシェア数のあいだには、ほとんど相関関係がないことが分かったという。
この結果を重視した同社は、ニュース編集室にとって役立つ新たな集計指標を探すため小規模のチームを編成し、閲覧数やシェア数、コンテンツへの評価などの組み合わせが検討された。だが、収益増へのプレッシャーがつきまとう同社のなかで、このプロジェクトは優先的に進められず、実際に指標が形になることはなかった。
パブリッシャー各社がカスタマージャーニーやカスタマー体験といったコンセプトをより重視するようになるなか、バーゴ氏は今後各社ともオーディエンスの分析情報をさらに収集しようとつとめるだろうと予測している。また同氏は収集するにあたり軽いタッチで行うことも重要だと指摘し、次のように述べている。「どんなときもオーディエンスにあまり労力をかけさせないのが大切だ」。
Max Willens(原文 / 訳:SI Japan)