従来型のテレビでは視聴者数が減っているにもかかわらず、広告主からのインベントリーの需要は低下しておらず、広告料金の増加を招いている。そこで、エージェンシーの広告バイヤーは収束と細分化が進むマーケットプレイスの現状を利用し、コスト削減を試みている。
本年度のテレビおよびデジタル動画広告のアップフロント販売(米国で慣例的に行われる広告の先行販売)で、エージェンシーの広告バイヤーは収束と細分化が進むマーケットプレイスの現状を利用し、コスト削減を試みている。
従来型のテレビは広告価格が高騰しており、それに対して広告バイヤーはAmazonやFacebookといったデジタル動画プラットフォームを交渉の席に持ち出すことで双方からより良い条件を引き出そうとしている。あるバイヤーは「アップフロント市場にはテレビ局やデジタル動画プラットフォーム、パブリッシャー各社など、あらゆる販売側の企業が参加するため、より絞り込んだターゲティングと広告が可能になる」と指摘しつつも、同時に「賢く立ち回らなければならない」と語る。
複数のエージェンシー役員は、昨年のアップフロントにおいてHulu(フールー)やYouTubeは、従来型のテレビでは不可能ではないにしてもリーチが困難なオーディエンスを強みとすることで、従来型のテレビから広告収益を奪うことに成功していると口を揃える。デジタルプラットフォームはこれまで以上にテレビから収益を奪いうる立場にあり、テレビでは視聴者の減少に伴い、広告コストが増加しており、広告主は対策としてこれまで以上にオンラインのオーディエンスを増やす必要に迫られている。前述のエージェンシー幹部らは、「まだHuluや(YouTubeのアップフロントプログラム、そして)Google Preferred(グーグル・プリファード)を検討していない企業があるとすれば、もう検討をはじめるべきだ。オーディエンスを補填するにあたり、テレビよりもはるかに簡単に見つけられるオーディエンスが存在するからだ」と、指摘する。
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予算の獲得競争は激化
今年、AmazonとFacebookは、広告収益を奪い取るための取り組みを進めている。Facebookはすでに毎年行われているアップフロントの交渉に参加することを発表している。さらにエージェンシー役員らによると、Amazonもエージェンシーに対し、今年のアップフロント動画広告の契約獲得のため、1月に発表された無料動画配信チャンネルのフリーダイブ(Freedive)をはじめとする動画インベントリーの売り込みを進めている。
そして、広告バイヤーは、ハースト(Hearst)をはじめ、以前より動画インベントリーを多く提供するようになった動画パブリッシャーの存在にも新たに目を向けはじめている。こうした動きを背景に、テレビ局による広告主のアップフロント予算の獲得競争は激化の一途をたどっている。
バイヤーらによると、従来型のテレビでは視聴者数が減っているにもかかわらず、広告主からのインベントリーの需要は低下しておらず、広告料金の増加を招いているという。こうした広告料金のさらなる高騰を招いているのがNBCユニバーサル(NBCUniversal)、FOXネットワーク(Fox Networks)、ターナー(Turner)といったテレビ局が進める従来のテレビネットワークにおけるCMの削減だ。先ほどとは別のエージェンシー役員は「CMの時間は短くなっているのに料金は上がっている。さらに視聴者数は減っている。従来型のテレビにおけるこうした傾向は、クライアントにとって大きな問題だ」と、明かす。
成功している3社
テレビ局も対策は講じている。NBCユニバーサル、ターナー、バイアコム(Viacom)といったテレビ局は、デジタル動画インベントリーもプッシュしており、アップフロントにおけるパッケージ商品に組み込む形で提供している。これは基本的に、デジタルでも番組を視聴できるようにすることで、従来型のテレビにおける視聴者減少を補い、アップフロントで広告主に対する保証インプレッション数を満たす試みだ。
とりわけNBCUやターナー、バイアコムはデジタルインベントリーを活用したオーディエンスベースの広告購入をプッシュしてきた。これはデジタルプラットフォームと同様の売り込み形式となっており、クライアント予算を戦略的に使いたい広告バイヤーからのウケも良い。前述のエージェンシー役員も「この3社は間違いなく成功している。当社はオーディエンスを主体として3社と取引を行うことで確実に成長することができたし、さらに推し進めていきたい」と語る。同役員はテレビ局がオーディエンスベースの売り込みを進めていると指摘し、一例として今年はじめにターナーが発表した、同社の親会社であるAT&Tの契約者データをターゲティング支援に活用する取り組みを挙げた。
テレビ局がこうしたデジタルインベントリーの取り組みを進めるなかで、広告コストを一度リセットしたい広告バイヤーからの抵抗にあう場合もある。テレビのゴールデンタイムにおけるインベントリーは、供給量が減少し、需要が保たれているため、広告料金は上昇傾向にある。テレビ局はゴールデンタイムの番組をデジタル視聴する場合でも同じ料金で販売しようとしている。だが、広告バイヤーはデジタル配信でもこうした料金を払うべきかで頭を悩ませている。
「コストを決める責任」
一方、広告バイヤーからすると、テレビ局のデジタルインベントリーは、従来型テレビのインベントリーよりもある意味貴重だ。エージェンシー役員によると、デジタル広告のほうがターゲティングしやすく、デジタル配信はテレビよりも視聴者が広告に注意を払う傾向にある。受け身に見ている視聴者も多い従来型テレビのゴールデンタイムより、デジタル番組のほうが強い関心を持って見られているからだ。さらに広告バイヤーは、テレビ局が広告を流しつつ、広告主がリーチする視聴者を惹きつけるような番組の制作と配信を続けるためには資金が必要であることも理解している。
だが、広告主は基本的にコストカットと支出における無駄の削減を考えるものだ。それに加えて、従来型テレビのインベントリーとは異なり、テレビ局はデジタルなインベントリーは広告主の需要以上に売ろうとしていると、前述のエージェンシー役員らは指摘している。結果として、デジタルインベントリーの基準価格は従来型テレビのゴールデンタイムよりも低めとなっている。これはデジタルがプレミアム動画の将来を担っていることを考えれば、特に重要だ。
別のエージェンシー役員は次のように明かした。「バイヤーとして葛藤しているよ。我々の将来であるデジタルのCPMをはっきりと決めたいという思いがある一方で、将来にわたって我々が支払うコストを決めるという責任も伴うからだ」。
TIM PETERSON(原文 / 訳:SI Japan)