労働組合 の存在は、米・デジタルメディアをどう変えたか?:「複雑になるのは間違いない」

米・デジタルメディアにおける労働組合の盛り上がりはたいてい、イノベーションを殺す重荷とジャーナリストの疲弊問題の万能薬という、両極端な取り上げ方をされる。

しかし今回、労組が最近できたデジタルパブリッシャー8社の人たちに話を聞いたところ、人生が往々にしてそうであるように、現実はその中間にあるようだ。

労働組合は、賃金アップ、福利の向上、労働者のさらなる保護につながった。横のつながりがなく孤立を感じている労働者たちのコミュニケーションを改善して士気を高めたこともあった。誰がどんな仕事をできるのか、範囲の線引きを明確にした。透明性と平等性を中心に新しい基準を認めさせた。

一方で、労働組合によって、会社に合わない、働きが期待以下といった理由による労働者の解雇は大幅に難しくなった。戦術変更時のチーム間の協力は複雑化した。また、組合はレイオフや売却から労働者を守ることに失敗した。Vice Media、Gizmodo、マイク(Mic)はいずれも、メディアの荒波に迷い込み、人員を手放すことを余儀なくされた。

プログラマティック、動画、サブスクリプションなど、デジタルメディアのほかのあらゆるものと同じように、労働組合も万能薬ではないのだ。新しく組合ができた人たちによると、組合がやったのは、こうしたビジネスの熱狂的な性質を成熟に従って変えることだという。

BuzzFeed Newsの政治記者で組織委員会メンバーのドミニク・ホールデン氏は、「デジタルニュース事業の経験を積んだプロは誰もが、戦略の変更はあるものだと思っている」と語った。「それは受け入れている。しかし、そうした賭けをなんとしてもうまくいかせるというプレッシャーを会社は感じるべきだ」。

この2年で勢いを増す

デジタルメディアで組合を組織する流れは、4年前にはじまったものだが、この2年で勢いを増している。2019年上半期は、ワイヤカッター(The Wirecutter)、BuzzFeed News、クオーツ(Quartz)、リンガー(The Ringer)といったパブリッシャーが組合の結成を発表し、ハフポスト(Huffpost)、Vice Media、リファイナリー29(Refinery29)、ジフ・デイビス(Ziff Davis)をはじめとする一団の仲間入りをした。

業界の混乱が大きく作用したが、メディアで労働組合の結成が勢いを増した理由はほかにもある。賃金、人種、ジェンダーの平等のような問題に対し、メディアは普通よりも関心が高い。たとえば、Vox Mediaが先日認めた協約では、ダイバーシティ(多様性)委員会に5万ドル(約530万円)が割り当てられたほか、応募全体のうち電話段階の通過者の少なくとも40%を「非主流(被差別)派の背景」を有する人物とする正式なルールが明確にされた。

「このメッセージは、(従業員になる)可能性がある人たちの気持ちをよくとらえている」と、ウェイン州立大学のLabor@Wayneのディレクターで経営学教授のマリック・マスターズ氏は語った。「積極的に行動する傾向が強く、意思疎通がとても得意な人たちだ」。

経営陣は激しく抵抗

一方で、この流れは経営陣の激しい抵抗にあった。経営側は組合を、迅速な動きを阻害し、さらなるコスト増になると見る傾向がある。また、組合は「我々」対「彼ら」という対立の動きを生み出すとしばしば非難される。BuzzFeed Newsは、経営側が組合を認めるまで5カ月以上待ったし、交渉で経営側に何度も待ちぼうけを食わされた。東部全米脚本家組合によると、スリリスト(Thrillist)は2018年、デジタルメディア企業としてはじめて、従業員がストライキに踏み込むしかないところまで追い込まれた。またスレート(Slate)は2018年末、協約から労働権条項を削除するのを経営側が拒否していることに対するストライキの是非を従業員たちが投票した。Vox Mediaでは、経営陣との定期交渉の最終日、編集チーム全員がストライキに入った。

「いったんはじまったら、もう避けられない」と、経営側のひとりは語った。「抵抗を頑張っても、たくさんの混乱を引き起こし、関係性を不必要な形で壊すだけだった」。

どんな労働争議も賃金と報酬が中心になるが、労働組合に抵抗する理由はこれだけではないと、経営側は語る。組合の有無によるニュース編集部門のコストの違いは、多くの場合パーセンテージで1桁台前半だという証言が、複数、得られた。先の発言とは別の経営側の情報筋は、「組合によるコストでビジネスができなくなるような人は、会社を経営するべきではない」と語った。

コストではなく、迅速な運営を難しくするものがあると経営側は指摘する。たとえば、労働協約の懲戒規定は、会社に合わない、あるいはパフォーマンスが期待に満たないとの判断では従業員をすぐに解雇するのが難しいものが多い。剽窃、暴力、ハラスメントといったあからさまな犯罪を別にすると、多くの場合、経営側は従業員に対し、警告を複数回行い、行動を改善し改める機会を与えなければならない。

「人を変える判断が迅速にできない」と、ひとりが語った。「当然、うまく雇用するようには努めるわけだが、こうした規則がなかったら、もっとうまくやれる」。

新しい仕事や課題も増えた

加えて、比較的古い協定には、作成当時になかった仕事や問題に対応していないものが多い。

たとえば、一部のパブリッシャーは新たにコマースコンテンツの分野に力を入れているが、純粋な編集コンテンツにあたるのかはっきりしなかったため、組合ができた一部のパブリッシャーで混乱が生じている。

同様に、多くの協約には、編集担当者がブランデッドコンテンツの仕事をすることを禁じる文言が入っている。記者が広告主の要請でコンテンツを作ることになるのを避けるためのものだ。しかし、その場合、オーディエンス開発やソーシャルメディアの担当者は、編集のくくりになっていると、ほとんどのパブリッシャーで欠かせないものになっているブランデッドコンテンツの配信にあたれないことになる。

「複雑になるのは間違いない」とデジタルパブリッシャーで働くある組合員は語った。「労働協約が尊重されているという点で、当社はかなりよい環境だと思うが、それはニュース編集部門の話だ」

「業界としてもっと強くなれる」

しかし、こうした問題は業界に協約が広がるにしたがって解消されていくと見る向きが多い。組合が承認する協約は、ほとんどがオンラインで公開されており、交渉において組合側には、すべてのタイトルの労働条件を向上させるのに役立ったとされるものを参考できる。

ハフポストで(労組の)職場代表を務めるアレクサンダー・カウフマン氏は、「はじめたころはひと握りしかいなかった」と語る。「ゴーカー・メディア(Gawker Media)の人たちが時間を割いて、我々にできることや方法を調べるのを手伝ってくれた。以来、その厚意をほかの人たちに返すべく、私はいくつかのキャンペーンに関わってきた」。

「デジタルメディアのすべてのサイトが一致すれば、業界としてもっと強くなれる」と、カウフマン氏は語った。

Max Willens (原文 / 訳:ガリレオ)