偽ニュースサイトが収益を得る方法はGoogleとFacebookだけではない。ネイティブ広告ウィジェットはそのひとつだ。話題となっている怪しい偽ニュースサイトでよく見つけられる。こういったウィジェットに並んで、リターゲティングやプログラマティックの広告がパラパラと存在しているのだ。
GoogleとFacebookは広告ネットワークから偽ニュースサイトを排除するべく取り組んでいる。しかし、アドテクの世界は広く複雑だ。偽ニュースサイトが収益をあげる方法は、ほかにもたくさん存在する。
偽ニュースは今回の大統領選挙に大きな影響を与えたと、多くの人が信じている。しかし、偽ニュースを特定するのは容易ではない。対策が進まない一因は、そこにある。ひと言に偽ニュースといっても、いろいろな種類が存在するのだ。わざと誤解を生むような釣りタイトルをつけた芸能人のゴシップものから、ザ・オニオン(The Onion)のような社会風刺を目的としたものまで、さまざまある。
「インターネットの泣き所」
そのなかには「ドナルド・トランプをローマ教皇が支持した」などと主張するような、政治的な虚偽のニュースを選挙中に広めたサイトも多く含まれる。ポリティカルインサイダー(The Political Insider)やワールドポリティカス(WorldPoliticus)、エンディング・ザ・フェッド(EndingtheFed)」のようなサイトだ。ある業界人はこういったサイトをまとめて「インターネットの泣き所」と呼んでいるという。
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偽ニュースサイトが収益を得る方法はGoogleとFacebookだけではない。ネイティブ広告ウィジェットはそのひとつだ。タブーラ(Taboola)やレブコンテント(Revcontent)、アドブレード(Adblade)、そしてコンテント.アド(Content.ad)は、こういった偽ニュースサイトでよく見つけられる。こういったウィジェットに並んで、リターゲティングやプログラマティックの広告がパラパラと存在しているのだ。
パブリッシャーたちはコードをただ埋め込むだけで、こういったネイティブ広告ウィジェットをインストールすることができる。承認プロセスの後、サイト上に表示されたウィジェット上のリンクをクリックすると、パブリッシャーの収入となるわけだ。ウィジェットの広告はサイトのコンテンツと関連性があるようにデザインされており、多くは扇動的なヘッドラインやダイレクトマーケティング的な特典情報だったりする。
不透明な承認プロセス
厳密にパブリッシャーを取捨選択していると、どのネイティブ広告ウィジェット会社も標榜する。しかし、その承認プロセスは不透明だ。タブーラは、USAトゥデイやメイル・オンライン(Mail Online)、ビジネスインサイダー(Business Insider)といったパブリッシャーをパートナーとして公開している。そこには、ライティスト(右派ウェブサイト、Rightists.com)やUSAデイリーポリティクス(USADailyPolitics.com)といったパブリッシャーの名前は挙がっていない。アドブレードは、ABCニュースやヤフー、ハースト(Hearst)を彼らのホストパブリッシャーとして宣伝しているが、ザ・ライティスツ(右派ウェブサイト、TheRightists.com)の名前を挙げることはしない。
コンテント.アドも同様だ。ロイターやリーダーズ・ダイジェスト(Reader’s Digest)をパートナーに挙げるが、USコンサーバティブ・トゥデイ(USConservativeToday.com)やコンサーバティブ・ステイト(ConservativeState.com)の名前は出さない(ちなみにロイターは、コンテント.アドとのパートナー関係は終了したという)。レブコンテントも、フォーブス(Forbes)、ニューズウィーク(Newsweek)、インターナショナル・ビジネス・タイムズ(International Business Times)をパートナーだというが、ザ・ポリティカルインサイダー(ThePoliticalInsider)やナショナルレポート(NationalReport.net)については語らない。
コンテンツレコメンド企業は、こういった有名なブランド力をもつパブリッシャーには大金を支払い、ロングテールのサイトはきっちりと品定めすることで知られている。アドブレードはネットワークに1000以上のパブリッシャーを抱えていると主張し、「ロングテール・サイトとはパートナー関係にならない」と言っている。レブコンテントも1カ月で、2500億ものコンテンツレコメンドを何万ものウェブサイトのネットワークを通じて発信しているという。
ポリシーでは認めていない
ワールドポリティクスを例にとる。マセドニア発信の偽ニュース政治サイトとしてこのサイトは、BuzzFeedに何度も取り上げられてきた。FBIがヒラリー・クリントンを起訴することを決めたなどという虚偽の情報を主張していたサイトだ。彼らもコンテント.アドによる広告ユニットから収益を得ている(コンテント.アドは、我々からのコメント依頼に応えなかった)。

コンテンツ.アドのウィジェットサンプル
こういったネットワークは広告ウィジェットに表示されるコンテンツに関するポリシーを表示している。レブコンテントは「ヘイト・スピーチ、暴力、虚偽、誤解を生むコンテンツ」を認めないポリシーをもっているという。アドブレードは「アダルト向けのコンテンツや扇動的、ヘイト関連の」広告を承認しないそうだ。また「酒類、タバコ、銃火器、性サービス、ギャンブル」の広告も拒否するという。どのようなパブリッシャーとパートナー関係をもつのかについてのガイドラインはこれよりも不透明だ。
主観的な問題ともなり得る
しかし、何が偽ニュースか決めるのは主観的な問題ともなり得る。アドテク業界はこういった問題に関しては「自分たちが決めることじゃない」といった態度をとりがちだ。彼らはエディトリアルを仕事とする会社ではないのだから。またこういったサイトに集まるオーディエンスにリーチしたいと思っているマーケターが多いことも間違いない事実である。
タブーラは何千ものサイトを通じて月間10億ものユニーク訪問数にリーチしていると発表している。ガイドラインによると、ウィジェットに虚偽の、もしくは誤解を生むコンテンツが表示されることを防いでいるというが、パブリッシャーに関するガイドラインは公開していない。タブーラはUSAトゥデイにも広告を表示させている一方でUSAトゥデイコム(USATodaycom.com)というUSAトゥデイの偽サイトにも広告を表示させている。この偽サイトは東ヨーロッパのジョージアの首都トビリシのサイトとなっている。これは英国のイスラム教徒の看護婦が手術前に手を洗浄することを拒否した、という虚偽の記事にタブーラの広告が表示されている様子だ。
USAトゥデイコムから収益を得ているのはタブーラだけではない。プライバシー・セキュリティー保護のためのブラウザ拡張機能であるゴースタリー(Ghostery)を使うと、クリテオのリターゲティング広告を表示する上記の記事にはタブーラ以外のアドテク会社が確認できる(この記事を書くにあたってタブーラはコメントを拒否した。この記事が公開された後、USAトゥデイコムは許可無しにコードを表示させており、現在ではサイトから除去されているとのコメントがタブーラから届いた)。
アドテク幹部が恐れていること
レブコンテントはネットワークに登録しようとするサイトのうち94%を拒否するという。しかし、承認されているサイトのなかにはザ・ポリティカルインサイダーやエンディングザフェドといった、ヒラリー・クリントンがISISに武器を密売しているという記事や、ドナルド・トランプを教皇が指示したという記事を世に出すサイトも含まれている。

ポリティカルインサイダーの虚偽の記事に表示されるブルーミングデール(Bloomingdale)のプログラマティック広告、そしてレブコンテントによるエンジン。どちらもサイトの収益源である。
レブコンテントのCEOであるジョン・レンプ氏は、同社がネットワークから偽ニュースサイトを取り除いているという。しかし検閲を担当するようなことはしたくないと熱弁した。偽ニュースサイトであるとされるザ・ライティスツとBVAニュースがレブコンテンツのウィジェットを表示している件について聞かれると、それらについては知らないが、スタッフに調査させるとレンプ氏は答えた。ナショナルレポート(NationalReport.net)も知られた偽ニュースサイトであり、レブコンテンツのウィジェットを利用している。彼らの免責事項のページにすら、そのウィジェットを確認できる。
「私が本当に恐れていることは、GoogleやFacebook、そして、ほかのプログラマティック会社がプラットフォームではなくエディターとなった瞬間が、文章における表現の自由に対するあらゆる希望を失ってしまう瞬間となることだ」とレンプ氏は語った。
アドセンスは収益化のロングテール
アドブレードは参加申し込みをしてくるサイトのうちほんの小さな割合のサイトしか承認しないとサイト上で述べている。また月間ページビュー数が50万を越えるパブリッシャーのみ評価を行うということだ。しかし、この厳しい評価基準をパスして承認されたサイトにはライティスツも含まれている。ライティスツはヒラリー・クリントンが以前、トランプが大統領になるべきだと評価したという虚偽の記事を出している(アドブレードは米DIGIDAYのコメント要請に応えなかった)。

ライティスツに掲載されたヒラリー・クリントンに関する偽ニュース。そしてアドブレードによる広告表示はサイトの収益となっている。
ブランデッドコンテンツのためのプログラマティックプラットフォームであるゼマンタ(Zemanta)というサービスがある。ゼマンタのCEOであるトッド・サウィッキ氏は、Googleアドセンスのネットワークがこういった偽ニュースサイトに広告を配信するのを止めれば、彼らは経済的に干からびてしまうだろうという。そうなれば彼らは別の何かに移るだろうとサウィッキ氏は予測している(アップネクサス[AppNexus]は火曜日に似たような判断を下した。アップネクサスの広告配信ツールからブライトバートを切り離したのだ)。
「アドセンスは収益化におけるロングテールだった。そして、それよりも下となると収入は本当にわずかになる。こういった第二・第三のネットワークのCPMは非常に小さい。だからこういったサイトはたくさんの広告スペースを持っているんだ」。
こうした事例はなくならない
広告がどこに表示され、表示されるサイトの質がどのようなものであるかについては、最終的には広告主とパブリッシャーの責任となる。そして多くのブランドがデジタル広告の予算を増加させ、より厳しい目をデジタル広告に向けるにつれて、良い質のサイトへ広告を表示させることがますます重要になっていくとジョナサン・メンデス氏は言う。メンデス氏は、広告主がキーワードによってディスプレイ広告を購買することができるシステムを提供する、アドテク会社イールドボット(Yieldbot)のCEOだ。
もしくは、エンジン側が事態を収束させるかもしれない。数年前に記事やビデオをレコメンドするサービス・アウトブレイン(Outbrain)が、スパム的挙動を見せていたパブリッシャーたちのトラフィック購入を停止したのと同じような事が起きてもおかしくはない。
しかし、偽ニュースサイトに有利に働く要素も存在している。広告購入の自動化が進み、サイトではなくオーディエンス性質に基いてターゲティングが行われることで、広告が広告主が意図しないサイトに現れることは、今後ますます増えるだろう。それは安全策を講じたとしてもだ。匿名希望のとあるメディアバイヤーは、不透明な在庫を購入することで、ブランドの広告が偽サイトに表示されることは十分にありえると述べた。また、まったくもって奇想天外な記事やゴシップでも読みたがる人間の性質も忘れてはいけない。
「あまりにもひどい内容のコンテンツの隣に広告が表示されるのを防ぎながら、リーダーに広告を届けるだけでも難しい。そのため、偽ニュースを避けることは、多くのバイヤーにとって優先順位が低くなってしまう。プログラマティックからこういったサイトを排除するバイヤーが現れ、アドテク会社が彼らとのビジネスを止めたとしても、自分の広告がどこで流れているか気づいていない広告主は常にいるだろうし、トラフィックを欲しがるコンテンツレコメンドエンジンもいなくはならないだろう」と、バイヤーは語った。
Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)