パブリッシャーは、まだ時期尚早ながら、「インスタント記事」を利用して、読み込みの速いコンテンツをFacebookへ直接投稿するメリットを評価しはじめている。イギリス国内での評価は賛否両論だ。各社の取り組みの過程を追った。
パブリッシャーは、まだ時期尚早ながら、「インスタント記事」を利用して、読み込みの速いコンテンツをFacebookへ直接投稿するメリットを評価しはじめている。イギリス国内での評価は賛否両論だ。
イギリスの主要パブリッシャーは、例外なく多少なりともインスタント記事を利用している。BBCと「ガーディアン(The Guardian)」は先駆者の代表例で、とりわけガーディアンは全面的にインスタント記事化を推進してきた。「エコノミスト(The Economist)」「フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)」「サン(The Sun)」「デイリーメール(Daily Mail)」「英ビジネスインサイダー(Business Insider U.K.)」なども試験利用している。
トリニティ・ミラーはインスタント記事を支持。同社は傘下の2大紙、すなわち「ミラー(The Mirror)」と「マンチェスター・イブニングニュース(Manchester Evening News)」で全記事をインスタント記事化しており、小規模媒体もそれに倣う。トリニティ・ミラーの戦略担当ディレクター、ピアズ・ノース氏は、具体的な数字は明かさなかったものの、国外へのリーチが伸びたことがプラスに働いたと語った。売上の面でも期待のもてる分野だという。
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「インスタント記事のインプレッションは何千万にものぼる。現段階では止める理由がない。インスタント記事がもたらす収益は決して小さくない」と、ノース氏はいう。
インスタント記事の収益はここ数カ月間下り調子で、動画ですら例外ではない、とする「インディペンデント(The Independent)」などのパブリッシャーもいるが、そうした見方ばかりではない。収益は安定しているというパブリッシャーもいて、ノース氏もそのひとりだ。現在のところ、トリニティ・ミラーの広告枠はFacebookの「オーディエンスネットワーク(Audience Network)」経由で販売している。だが将来的には、トリニティ・ミラーが直接販売をおこなう計画だ。
仏紙「リベラシオン(Libération)」も導入に満足している。同紙がインスタント記事の閲覧時間を調査した結果、モバイルサイトの2倍の4分48秒だったのだ。
「リベラシオン」の場合、 売上も改善している。今年2月のCPMは1.30ドルだったが、夏には3.40ドルに上昇。現在は2.10ドルに再び下落したが、インスタント記事の広告売上は約1万ユーロ(約100万円)だった前年から倍増した。対してモバイルサイトのCPMは1ドル未満だ。
だが、みながみな収益増という成功を手にしているわけではない。ある大手デジタルメディアパブリッシャーの販売責任者が匿名を条件に語ったところによると、インスタント記事の収益は、余剰の広告在庫をプログラマティック取引で販売する場合と同じくらいだという。
拡大か、縮小か
多くの英国パブリッシャーは慎重な姿勢を保っている。今年4月、匿名のアナリティクス企業が発表したところによると、パブリッシャーへのFacebook経由のトラフィックは減少しており、 インスタント記事に力を入れたパブリッシャーほど減少幅が大きいという。このため、一部のパブリッシャーはインスタント記事の発行を1日数記事に限定している。売上が低調なのもそのためだろう。「ビジネスインサイダー英国版」などは、インスタント記事でのコンテンツ公開を拡大するか縮小するかを年内に決定するべく、積極的にテストを行っている。
オーディエンスのカニバリゼーション(自社製品やサービス同士の顧客の奪い合い)への危惧もある。「シェアしやすさを利用しているだけで、売上を伸ばす手段とは考えていない」と、匿名のあるパブリッシャー幹部が明かした。「オーディエンスの食い合いは避けたいし、編集チームにもっとインスタント記事を公開しろと促すつもりもない。あれは麻薬のようなものだ」と、この幹部はいう。
インスタント記事は新規オーディエンスを集めるには使えるが、その新規オーディエンスが本当に記事を読んでいるかどうかは、そう簡単にわからない。情報はFacebookのエコシステム内にあり、パブリッシャーのものではないからだ。読んでくれていることを願うしかない。
ケーキの上のイチゴ
複数のパブリッシャーが英DIGIDAYに語ったところによると、インスタント記事での売上は月数万ポンド(数百万円)の範囲だという。「微々たるものだ」と、ある幹部は話す。
とはいえ、売上が増えるのはいいことだ。ただし、全体像がきちんと把握できていればの話である。「収益性はあるが、主な収入源と見るべきではない」と、ノーザン&シェル(Northern & Shell)のデジタルディレクター、サイモン・ヘインズ氏は話す。同社は、タブロイド紙の「デイリースター(Daily Star)」と「デイリーエクスプレス(Daily Express)」の親会社だ。同氏は「(インスタント記事からの売上は)うれしいサプライズ、たとえるならケーキの上のイチゴであって、それ以上を期待してはいけない。売上の内訳の大部分を占めるようになってしまったら、それはFacebookの思惑に屈したということだ」。
パブリッシャーに対して、インスタント記事はページ読み込み時間の短縮と国外へのリーチ増加を売りにしているが、決して万人向けではない。匿名希望のある国内紙の販売担当幹部は、成果は驚くほどのものではなかったと話す。「業務内容に変更を加えるたび、プロダクトチームのコストはかさむ。だからまずは参加してみて、トラフィックをモニターし、継続あるいは拡大する価値があるかどうかを評価するつもりだった。だが、さらなる投資に値するだけのトラフィック増加はみられなかった」と、この幹部は語った。
自動車雑誌「カースロットル(Car Throttle)」など、よりニッチなパブリッシャーは、短期間テストをした後、すでに インスタント記事からの撤退を決めている。「カースロットル」は、今年3月に1週間にわたって全記事をインスタント記事として公開したが、ページビューは16%減の330万まで低下した。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)
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