ヨーロッパのパブリッシャー各社は、自社の管轄外で運営されるサードパーティCookieに代わる仕組み(UID 2.0やRampID、ID5といったユニバーサルIDなど)を全面的に拒絶している。 一方、米国のパブリッシャーの […]
ヨーロッパのパブリッシャー各社は、自社の管轄外で運営されるサードパーティCookieに代わる仕組み(UID 2.0やRampID、ID5といったユニバーサルIDなど)を全面的に拒絶している。
一方、米国のパブリッシャーの大半は、広告主の依頼で必要が生じたときには、それを仕方なく許しているようだ。確かに、こうした代替ID志向の広告主を、パブリッシャーのファーストパーティデータサービスに可能なかぎり誘導することができれば、理想的といえる。
しかし、フラストレーションを抱える米国のパブリッシャーの一部は、市場に出回っているユニバーサルIDをあれもこれもとテストすること、広告売上拡大のチャンスを逃すようなリスクなどに疲れ切っている。
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その一方で、そもそも代替IDのテストを十分に行う能力など自社にはないと感じているパブリッシャーもおり、こうした面倒なことを実行すれば、それに割ける以上の時間と手間がかかってしまうと考えている企業もいる。このような場合、メディアバイヤーにどのIDを使うのかを決めさせて、それに乗じることは、選択肢として魅力的だ。
パブリッシャーよりもバイヤーが代替IDに興味をそそられている
そうしたパブリッシャーの1社がコンデナスト(Condé Nast)だ。同社のデジタル部門でグローバルチーフビジネスオフィサーを務めるデブ・ブレット氏によれば、コンデナストは(自社の中心的な広告主たちからキャンペーンでの使用を依頼された)市場でもっとも吟味されたプレミアムな代替IDソリューションの可能性のみをテストしている、という。なお、同氏はどのIDがこのコホートに含まれているのか、いくつテストしているのかについては明言を避けた。
パブリッシャーのファーストパーティデータソリューションも代替IDも、2024年末までにChromeブラウザから姿を消し、まもなく最期を迎えることになっているサードパーティCookieの代わりを務めることを目的としている。しかし、ハースト(Hearst)のオーディエンスインテリジェンスおよびインサイト部門責任者兼バイスプレジデントのマイク・ヌッツォ氏によれば、パブリッシャーよりもバイヤーが代替IDに興味をそそられているという。
だからこそ代替IDプロバイダーは、フリークエンシーキャップやアトリビューション、クロスサイト分析、アクティベーションといった諸機能を強調する一方で(この点では、サードパーティCookieと似ている)、パブリッシャーにはコントロールの一部を手放すことを求めているのだ。
実際に強いられているのはテストではなく投資
それに対してファーストパーティデータサービスは、パブリッシャーの既存コンテンツを基盤としている。そのため、広告キャンペーンの成功を測るのに用いられるデータのコントロールをパブリッシャーが維持できるのだ。ヌッツォ氏によれば、コンデナストと同じくハーストも、優先度ではインハウスのファーストパーティデータサービスが代替IDを上回っているという。とはいえ、ハーストはこれらふたつのソリューションを併用しないわけではない。
「我々の多くがひとつのソリューションを支持しているわけではない、というのも、(代替IDは)唯一の解決策ではないからだ」と、ヌッツォ氏は語る。いま業界中で、いくつもの代替IDに盛んに売り込みがかけられているという。「我々が実際に強いられているのは、テストではなく投資だ。投資が要求されるせいで、テスト疲れが見え始めている。ハーストは(代替IDを)使わないということではない。ただ、すべてをテストしてからでないと、1~2個に絞り込めないということだ」と、同氏は付け加える。
もし仮に、ハーストの広告主がひとり残らず同じ代替IDの使用を求めても、ヌッツォ氏率いるチームはそれを審査して、プライバシー規制や規制上の制約とのバランスを見てからでないと、ハーストの代替IDとしてそれを採用できない点は変わらないという。
一方で、「コンデナストは、全部をテストできる体制をつくることに重きを置いていない。我々が重視しているのは、基本的には自社のファーストパーティソリューション『スパイア(Spire)』だからだ」と、ブレット氏は語る。「いずれは最適な選択肢が浮上してくるはずであり、そうしてから、こうしたIDソリューションを自社の広告ビジネスモデルに組み込むかどうかを検討する」と、同氏は話した。
広告主次第のパブリッシャーも
このほか、広告主が使用を求める代替IDなら、何でも無条件で受け入れている陣営もある。ドットダッシュメレディス(Dotdash Meredith)や、インサイダー(Insider)などのパブリッシャーは、自社のファーストパーティサービスの提供によって、広告売向上の遅れをカバーしてくれることを期待している。
ドットダッシュメレディスのCEOであるニール・ボーゲル氏は、「それを決めるのは我々ではなくクライアントだ。我々は自分たちの仕事さえすれば、あとはそのサードパーティIDに何が起ころうと、我々の問題ではない」。
ドットダッシュメレディスに広告を出し、ターゲット顧客にもっとも効果的にリーチするための最良の手段が同社の最新インテントターゲティングツール「D/Cipher」であるという。それを広告主に示すことが、ボーゲル氏が描く構想だ。ただし、同氏率いるチームには、広告主にD/Cipherの使用を強要するつもりはないという。
インサイダーの広告担当バイスプレジデントであるチャオ・リャオ氏は、広告主が特定のIDを希望するケースはまれだという。一方で、「パブリッシャーはバイヤーが広告費を調整するのを待っているが、トータルで考えると、これがCookie後の広告業界における代替IDの未来を決めることになるのではないか」との懸念も口にしている。
「ニワトリが先かタマゴが先かの問題と同じだ」と、リャオ氏は語る。「結局のところ、誰もがこの問題に冷ややかなのだ。私がどのIDが本当に効果的なのかを見極めることに力を入れていないのも、そのためだ」。
利用証明ができる代替IDベンダーが欠けている状態
サードパーティCookieに代わるIDソリューションのなかで、最終的に残るのはどれなのか? 必ずしもすべてのパブリッシャーが、その決定をバイサイドに委ねることをよしとしているわけではない。
サロン(Salon)、TVトロープス(TVTropes)、スノープス(Snopes)のCROであるジャスティン・ウォール氏は、Unified ID 2.0しか使わないという、より思い切った手段に出ている。「私にとってUIDは、現時点で結果が期待できる、ナンバーワンにして唯一のIDソリューションだ」と、同氏は語る。「これまでにテストをいくつも繰り返してきたが、ほとんど結果が出なかったことに大きなフラストレーションを感じている。その効果を信じ込まされたが、それらのなかにはまったく何も生み出さないIDソリューションもある。正直なところ、だまされたも同然だ」。
現状では、DSP内で取引するどの広告主が特定の代替ID(ライブランプ[LiveRamp]のランプID[RampID]やID5のIDなど)を使ったユーザーターゲティングを求めているのかを、ウォール氏率いるチームが知ることはできない。しかも、前述の代替IDの各事業主は、取引の「逆サイドで誰がそれを使っているのかをかたくなに言おうとしない」という。
「この2年間、そのソリューションが広告主に採用されているだけでなく、実際に利用されていることを証明できる代替IDベンダーが明らかに欠けている状態が続いている」と、ウォール氏は話す。同氏に再考を促し、こうしたIDとほぼ完全に距離を置く決断を下させるには、それだけで十分だった。
「私には、この現状がとにかく腹立たしい。時間をかけて早くからそれらを統合し、IDとユーザーのマッチングを試みてきたが、その努力が結びつけてくれた取引はひとつとしてないからだ。本当にフラストレーションがたまる」と、ウォール氏は語る。
テストには時間がかかり、簡単でもない
どんな代替IDにもオープンなパブリッシャーであっても、必ずしもそれを正しく実装しているとはかぎらない。「何カ月もかけて代替IDをテストしたにもかかわらず、広告売上に一貫した成果が見られないと主張するパブリッシャーたちのあいだで、フラストレーションが鬱積していると見受けられるのはそのためだ」と、アドテクトラッカーを提供するシンセラ(Sincera)の共同創業者、マイク・オサリバン氏は述べる。
シンセラのデータによれば、パブリッシャー側で代替IDの成果が上がっていない場合、そもそもテストを正しく行っていないせいで、そうなっているケースもなかにはあるようだ。「存在するIDの数や、パブリッシャーが適切なテストを実施することの難しさを考えると、この結果は驚くに値しない」と、オサリバン氏は付け加える。だがそれでも、トラフィックをセグメント化し、ひとつのIDをそのトラフィックコホートに分離することが、リスクはあるものの増収を生み出しうることを証明する唯一の方法だ。
完璧なテストをしているパブリッシャーはいない
TVトロープスは、6週間以上続くテストを行っている。ウォール氏によれば、このテストでは同ブランドのログインユーザーに対してUID 2.0を実行し、これらユーザーのごく一部を比較参照データとして分離する作業が行われているという。7月末にテスト期間の6週間が終わると、同氏率いるチームはサブスクリプション料金を支払わせることなく、サロンとスノープスの各ユーザーを登録して、彼らサブセットにもUID 2.0を実行するかどうかを決断することになる。
「UID 2.0というオプションを持っていた人が、まったくIDがないよりも有益であるという確証が持てれば、会社全体でそのロールアウトが実施されることになる」と、ウォール氏は話す。もしそうなった場合、ロールアウトは第4四半期を迎える前に実施される見込みだ。
「たいていは、そのトグルをオンにするだけでは、実際にIDを作動させるのに十分ではない。パブリッシャーが口にするのは『可能な限りすべてのリフトがほしい』ということだ。だからこそ彼らは全部をオンにする。(中略)しかしその結果、多くのIDがオン・オフされ、これが極めて意図的な行動の結果なのかどうかを見分けるのが難しくなる」と、シンセラのもうひとりの共同創業者、イアン・マイヤーズ氏は語る。
「トラフィックを正しくセグメント化し、各トラフィックコホート内でひとつのIDをテストしてきた米国のパブリッシャーの割合は5%に満たない」と、マイヤーズ氏は事例を基に見積もっている。TVトロープスは現在、UID 2.0のテストを行っているが、「このやり方こそが、あるひとつのIDが力を発揮しているかどうかを証明するもっとも効果的な方法だ」と、同氏は主張する。
「完璧な構成のパブリッシャーはなかなかいないと、私は思う」と、オサリバン氏は語る。「注ぎ込む時間に関していうと、ホールドアウトグループを使ったテストの複雑さは桁違いだ。多くのパブリッシャーがそんなことをしているとは思えない」。
[原文:U.S. publishers experience testing fatigue as they evaluate alternative IDs to third-party cookies]
Kayleigh Barber(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)
Illustration by Ivy Liu