FUTURE OF TV

ストリーミング 移行で既存収益を失う、米テレビネットワーク

米テレビビジネスの主軸は、ストリーミングへと移りつつある。成長が見込める一方で、テレビネットワーク各社がチャンネルの提供先である有料テレビから長年得てきた手数料収益も、過去のものとなってしまうかもしれない。これが、テレビネットワークがビジネスをストリーミングへと再編成するにあたり、もっとも混乱と痛みを生むであろう不可避の問題だ。

そもそも、テレビネットワークたちがストリーミング事業を構築するのが遅れた大きな理由のひとつが、有料テレビプロバイダーたちから受け取っている何十億ドル(何千億円)というお金だ。有料プロバイダーとはコムキャスト(Comcast)やチャーター(Charter)といったメディア・通信事業者であり、彼ら経由でテレビネットワーク各社のチャンネルを視聴する有料会員ごとに料金が発生している。ここから得られる収益はテレビネットワーク各社の広告収益に匹敵するものであり、利益と株価を大きく吊り上げる要素となっている。そのため、テレビネットワークたちはストリーミング事業を立ち上げるにあたり、この収益を犠牲にしないように注意してきた。

彼らが当初、ストリーミング事業を有料テレビ事業に組み込む形で展開しようとしたのはこれが理由だ。ストリーミングへのアクセスを有料テレビの会員に限ることで、「コードカッター(有料テレビの契約を停止してストリーミングサービスへ全面移行する消費者)」の流れに対抗しようとしたのだ。しかしコードカッター増加の流れと、それに伴う手数料収益の消滅は明確かつ変えようのない現実となっている。

手数料収益の代替手段

ストリーミング業界において手数料収益がまったく存在しないわけではないが、スリングTV(Sling TV)やYouTube TVなどその数は多くない。コネクテッドTVの2大プラットフォームであるAmazonやロク(Roku)はメディア企業のアプリ配信に対してお金を払ったりはしない。プルートTV(Pluto TV)やサムスンTVプラス(Samsung TV Plus)のように無料で視聴ができ、広告が表示されるストリーミングサービスは、メディア企業の24時間年中無休のストリーミングチャンネルを流すにあたって手数料など払わない。

とはいえ、有料テレビから得ていた手数料収益を何かで代替することは不可能ではない。テレビネットワークが広告と手数料に変わる新しい収益ミックスのパターンを作り、ビジネスモデルを再編成することができればだ。

米DIGIDAYの取材に答えたとあるテレビネットワークの幹部によると、自社のネットワーク単独でストリーミングビジネスに乗り出すための戦略策定にあたり、「最初から(従来のような)手数料収益は、ビジネスモデルには含まれないと捉えていた」とのことだ。その代わりに新たなビジネスモデルでは、完全に広告を中心に据えたという。

テレビネットワークはストリーミングの広告在庫と従来型テレビの広告在庫とパッケージングして販売できることが、この広告中心モデルを実現する助けとなっている。ただし、広告収益だけに頼っているために、収益が軌道に乗るまではストリーミング事業のために制作するオリジナルコンテンツの量を制限することになる。また、配信しているコンテンツは再編集し、YouTubeといったプラットフォームに投稿、もしくは海外へとライセンス展開している。

新たな二重収益モデルの実現

もちろん、テレビネットワークが従来の二重収益モデルを「再利用」するような、ストリーミング事業を構築できる可能性も存在している。

ストリーミングサービスの視聴者は、広告が表示されるサービスであっても有料でサブスクライブすることを厭わない傾向にあることが確認されている。たとえば、Hulu(フールー)はかつて広告非表示プランよりも広告表示プランのほうが有料会員数は多い、と述べたことがある。当然だが、Huluにとっては広告とサブスクリプション収益が組み合わされば、広告非表示プランのユーザーのみの状況よりも多くの収益を生み出せる。

NBCユニバーサル(NBCUniversal)とバイアコムCBS(ViacomCBS)はすでに、有料かつ広告表示ありのストリーミングモデルを自社ストリーミングサービスのピーコック(Peacock)とCBSオールアクセス(CBS All Access)で導入している。ディスカバリー(Discovery)とワーナーメディア(WarnerMedia)も来年、この動きに続く予定だ。

しかし、ストリーミング事業において安定したサブスクリプション収益を確立するのには時間がかかる。スターズ(Starz)は2016年春に独立したストリーミングサービスをローンチし、米国外向けバージョンも2019年11月にローンチした。しかし、現時点までで従来型テレビの収益を超えたことはなく、来年以降なんとか到達する見込みだ。

加速するコードカット

テレビネットワークは従来型テレビ事業の収益によって、これまである程度は守られてきた。しかし、その収益から彼らのストリーミング事業開発を支えるだけの潤沢な資金捻出があとどれだけできるのかは、明確ではない。特に2020年が幅広い市場で従来型のビジネス収益に与えたダメージを考慮するとこの懸念は深刻だ。

たとえば、AMCネットワーク(AMC Networks)は自社のホラー専門ストリーミングサービス、シャダー(Shudder)に100万人以上のサブスクライバーを登録させることに成功してきている。同社はシャダー以外にもいくつかのストリーミングサービスを抱えているが、従来型テレビの収益減少を補完できるほどの収益はまだ生み出していない。一方で、2019年の前半と比べて、2020年前半の純利益は69%の減少となっている。

そしてコードカットは加速している。市場調査会社のeマーケター(eMarketer)によると、今年有料テレビサービスを解約する家庭の数はアメリカで推計で660万世帯となっている。ストリーミング事業の収益がリニア事業収益に取って代わるまで、テレビネットワークたちは規模縮小を検討する必要に迫れるかもしれない。

テレビネットワークにかかるプレッシャー

実際にその動きは始まっている。ストリーミングを中心に据えたビジネスへの再編成をするとともに、NBCユニバーサルとワーナーメディア(Warner Media)はすでに何千人もの従業員の解雇を今年に入って始めている。英国の老舗テレビ局であるITVは、ストリーミング事業を成長させるためのコスト削減計画を発表している。さらに、NBCユニバーサルはケーブルTVネットワークのポートフォリオを削減することを検討している、とウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)は報じた。

「収益性の面でおいて有料テレビ事業とストリーミング事業には大きなギャップがある。我々のビジネスが経済的なプレッシャーをさらに感じるにつれ、一層事業を合理化する必要が出てくるだろう」と、取材に応じたふたり目のテレビネットワークの幹部は回答した。

[原文:TV networks face loss of affiliate revenue in shift to streaming

TIM PETERSON(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)