デニス・パブリッシング(Dennis Publishing)が、自動車のソーシャルメディアを手がけるカー・スロットル(Car Throttle)を買収し、クルマ好きの若者に狙いを定めている。カー・スロットルのソーシャルリーチの規模は、デニスの既存のブランドより20倍ほど大きい。
デニス・パブリッシング(Dennis Publishing)が、自動車のソーシャルメディアを手がけるカー・スロットル(Car Throttle)を買収し、クルマ好きの若者に狙いを定めている。
デニスはすでに、オート・エクスプレス(Auto Express)、エボ(Evo)、バイ・ア・カー(Buyacar)といった10のブランドを所有している。だがそんなデニスにとって、スタッフ20人のカー・スロットルは、ソーシャルコンテンツ制作のノウハウはもちろん、大勢の若いソーシャルオーディエンスにリーチする機会を提供してくれるブランドなのだ。
デニスによれば、バイ・ア・カーが2018年に自動車販売で得た5800万ポンド(約85.5億円)の収益のうち、およそ8%がオート・エクスプレスやカーバイヤー(Carbuyer)におけるマーケティング活動によって生み出されたものだという。これらの雑誌は安定した読者を抱えているが、彼らの大半は35〜55歳だ。一方、バイ・ア・カーは顧客の60%以上が35歳未満であるため、若い人をターゲットにしているカー・スロットルが自動車販売をさらに拡大してくれる可能性は十分にある。
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「バイ・ア・カーにとっては、自社のオーディエンスとカー・スロットルのリーチを活用してさらに商品をプッシュし、自社サイトでの取引につなげる大きなチャンスだ」と、デニスの最高デジタル責任者ピート・ウートン氏はいう。「そのような若いオーディエンスとのコミュニケーションに関する彼ら(カー・スロットル)のノウハウを、通常のマーケティング活動に活用できるようになるうえ、彼らは非常に大きな影響力とリーチをもっている」。
20倍のソーシャルリーチ
チューブラー・ラボ(Tubular Labs)によると、カー・スロットルはFacebook、Twitter、インスタグラム(Instagram)のアカウントで合わせて1000万人以上のフォロワーを抱えている。また、フォロワー数は少なくなるが、Car Throttle News(カー・スロットル・ニュース)やTuning(チューニング)といったサブアカウントも展開している。彼らのソーシャルリーチの規模は、デニスの既存のブランドより20倍ほど大きい。カー・スロットルのメインアカウントが、Facebook、YouTube、インスタグラム、Twitterで7月に獲得したビューの数は2400万件だった。クラウドタングル(CrowdTangle)の調べによれば、このオーディエンスのFacebookでのインタラクション率は月当たり0.04%だった。この割合は、メディアのFacebookアカウントの業界平均値とほぼ同じであることが、ライバルIQ(Rival IQ)のデータから見て取れる。
「デニスは自社の自動車ビジネスで、ソーシャルサービスとオンラインサービスの層を厚くする必要があった」というのは、エンダース・アナリシス(Enders Analysis)のCEO、ダグラス・マッケイブ氏だ。「カー・スロットルのおかげで、彼ら(デニス)は本来ならかなりのコストと時間がかかるオーガニックな成長をすばやく実現し、オーディエンスのエンゲージメントを高めながら広告主とのビジネスチャンスを増やせるようになる」。
カー・スロットルは現在、レッドブル(Red Bull)、日産自動車、マイクロソフト(Microsoft)のXbox(エックスボックス)といったクライアントを抱えている。同社のビジネスの多くはブランデッドコンテンツ関連だ。一方のデニスは、メディアエージェンシーとの強いコネクションをもっている。
「おそらく今後は、自動車コンテンツにおける大規模な提携話が、デニス、ハイマーケット(Haymarket)、バウアー(Bauer)に持ち込まれるだろう。だが、カー・スロットルはいまのところ、そのようなことに目を向けていない」と、デニスのウートン氏はいう。「彼ら(ハイマーケットやバウワー)はクライアントと直接コミュニケーションを取ることに多大な労力を費やしてきた。これに対し、我々はレッドブルなどと直接的な関係を築いてこなかった」。また、デニスはソーシャルで大きなリーチを獲得していないため、ブランデッドコンテンツを提案できる機会を逸してきた。「すべてを統合したほうが、別々の取り組みの成果を足し合わせるより大きな成果が得られる」と、ウートン氏は語った。デニスでは、複数のブランドを活用したはじめてのブランデッドコンテンツキャンペーンを数週間後に開始する予定だ。
バーチカル化のトレンド
ほかのパブリッシャーと同じく、デニスもデジタル収益源の多様化を進めてきた。広告は得られる金額こそ大きいが、成長が期待できる場所ではないからだ。成長している分野には、ブランデッドコンテンツでの提携、アフィリエイト、読者からの収入、自動車の販売などがある。ただし、こうした分野は売上が大きい割にマージンが低い。
統合を検討すべき分野はまだある。たとえば、カー・スロットルが手がけてきたサブスクリプション型のeコマースサービスは、デニスが力を入れているアフィリエイト型の直送モデルに移行される予定だ。また、動画も検討すべき対象だろう。デニスの動画制作チームはカー・スロットルの3倍の規模があるため、統合するのか別々のままにするのかを決める必要がある。
今回の買収は、B2Cのパブリッシャーのあいだで広がっているトレンドを反映したものだともいえる。そのトレンドとは、B2Bのパブリッシャーが何年も前から行ってきたように、ターゲットとする業界やサービスを絞り込むことでオーディエンスからより多くの収益を獲得しようというアプローチだ。フューチャー(Future)も、消費者向け市場、パッションポイント、そしてサービスに焦点を合わせている雑誌グループのひとつに挙げられる。
デニスは2018年8月、未公開株式投資会社のエクスポーネント・プライベート・エクイティー(Exponent Private Equity)に1億6600万ポンド(約220.6億円)で買収された。その後、米国を本拠とする金融関連のパブリッシャーであるキプリンガー(Kiplinger)を2019年2月に買収した。カー・スロットルを買収したのは8月のことだ。ウートン氏によれば、デニスはこれから年末にかけて、さらに多くの買収を計画しているという。
Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)