ロンドンで6月中旬に開催されたオンライン出版社協会(Association of Online Publishers:以下、AOP)の報告によると、アドブロックの脅威は依然として大きい。アドブロックの影響による広告売上の減少幅は、大手パブリッシャーで年間200万ポンド(約2億8000万円)と見積もられている。
業界では最近、ブランドセーフティやビューアビリティ(可視性)というテーマが大きく取り沙汰されている。だが、ロンドンで6月中旬に開催されたオンライン出版社協会(Association of Online Publishers:以下、AOP)のアドブロック関連イベントに参加者によると、アドブロックの脅威は依然として大きいという。
パブリッシャーは、アドブロックユーザーによる売上減少の一部を穴埋めするため、独自の方法を考えてきた。AOPは会員である英国のパブリッシャー約40社のデータを集計した結果、アドブロックの影響による広告売上の減少幅は、大手パブリッシャーで年間200万ポンド(約2億8000万円)、中位のパブリッシャーで年間50万ポンド(約7000万円)近くだと見積もる。なお、AOPの会員には、ガーディアン(Guardian)やテレグラフ(The Telegraph)、バウアー(Bauer)、コンデナスト(Conde Nast)、デニス・パブリッシング(Dennis Publishing)、ESIメディア(ESI Media)、グローバル(Global)などが含まれる。
比較的明るい兆候は、AOP会員のデータによれば、多くのパブリッシャーが年間100万ポンド(約1億4000万円)前後というかなりの金額を埋め合わせつつあることだ。
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そんななか、特定分野(たとえば自動車分野)だけを扱う英国のパブリッシャーグループは、同じメッセージを掲載して、場合によってはアドブロックユーザーのアクセスを限定的に制限する期間を設ける意向だ。似たような試験的取り組みは、フランスですでに実施されている。
「アクセス制限を恐れるな」
2カ月前までドイツのパブリッシャー、グルナー・ヤール(Gruner + Jahr)で成長プロジェクトと戦略パートナーシップを担当した元マネージングディレクターで、現在は主にグルナー・ヤールのフリーコンサルタントとして働くオリバー・フォン・ベルシュ氏は次のように語る。
「アクセス制限を恐れてはいけない。アドブロッカーをインストールしたユーザーは、どちらにしても役に立たない。しかし、アクセス制限を実行しているパブリッシャーは、まだ十分な数ではない。積極的な対話を行ってアクセス制限を行うのは理に適っている。それによって、直帰率が上昇することなくアドブロックの比率が大幅に減少した。マネタイズ可能なトラフィックのみを得ることができる」。
グルナー・ヤールは、デスクトップユーザーの約5分の1が広告をブロックしていることを発見したあと、1年間にわたり、7つのサイトでアドブロックキャンペーンを行ってきた。フード&レシピサイトのエッセン&トリンケン(Essen & Trinken)、ふたつのインテリアデザインマガジンのシェーネル・ヴォーネン(Schöner Wohnen)、リビング・アット・ホーム(Living at Home)、そしてプラス・ジオ(plus Geo)といった4つのバーチカルサイトでは、アドブロックユーザーのアクセスを制限した。フォン・ベルシュ氏によると、その結果、アドブロックユーザー数はエッセン&トリンケンでは52%減少し、シェーネル・ヴォーネンでは23%しか減少しなかったが、リーチに悪影響はなかったという。
「テストすれば最善策が見つかる」
こうした例では、ユーザーはサイトをホワイトリストに登録するか、広告がない記事の購読料として、1日または1週間のアクセスに対して数ユーロ支払うか、という選択肢を与えられた。このマイクロペイメント(少額決済)のソリューションで、グルナー・ヤールの売り上げはこの1年間に、2000ユーロ(約25万円)しか増えなかった。フォン・ベルシュ氏は「このオプションはまったく成功しなかった」と認め、マイクロペイメントに懐疑的な者たちに同調した。
「だが、ふたつのオプションを用意し、一方のオプションのほうが納得できるもののように思わせるのは筋が通っている。これらふたつのオプションのおかげで、99%の読者はホワイトリストに登録した。これは、技術的な回避策というより、純粋なマネタイズ可能なインベントリー(在庫)だ」。
万能なアドブロック対策は存在しない。グルナー・ヤールは、ほかの3サイトに関しては、アドブロックユーザーに対して、コンテンツをブロックせずに、サイトをホワイトリストに登録することをメッセージで訴えている。女性サイトのブリジット(Brigitte)では、アドブロックユーザーに対して、「広告がジャーナリズムを支える仕組み」を説明する10種類以上のメッセージのA/Bテストを行った。テストでは、さまざまな画像や、メッセージのウインドウの右上隅に「閉じる」ボタンを設置した場合と設置しない場合、赤色や緑色のボタン、異なるテキストなどが試された。「テストするということはユーザーを有料ユーザーに変える最善の解決策が見つかるということだ」と、フォン・ベルシュ氏は語る。
複雑化するアドブロック状況
英国やドイツではほとんどの場合、パブリッシャーがモバイルで目にするアドブロック率は1%未満とまだ低いが、この数字が急上昇する懸念が大きくなっている。GoogleとAppleがブラウザ向けの組み込み型アドブロッカーを発表したのでなおさらだ。パブリッッシャーたちが警戒するのには理由がある。こうしたアドブロッカーは、パブリッシャーのインベントリーの不適切な広告を一掃しようと思わせる一方、実はパブリッシャーの広告売上に関して、プラットフォーム側のコントロール権をさらに増大させることになるからだ。
アドブロックに関する多様な統計データによって、アドブロック状況の評価は複雑化している。大半のサードパーティー企業は、それぞれに異なる算定方法でアドブロックの状況を評価するからだ。たとえば、調査会社のeマーケター(eMarketer)は最近、モバイルでのアドブロックはパブリッシャーが自社サイトで目にするよりもかなり多いと推測している。評価を独自に行う動きもある。ドイツでは、あるパブリッシャーグループがパブリッシャーを特定できない形で、アドブロックの水準を集計し3カ月ごとに結果を発表している。「そのような調査結果は、業界に透明性をもたらしている」とフォン・ベルシュ氏は語る。
Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)
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