NFL史上最高の選手、トム・ブレイディが健康業界に進出:41歳で「二足の草鞋」

NFLのチーム、ニューイングランド・ペイトリオッツのクオーターバックであるトム・ブレイディ氏が、もっとも大切にしているのが家族とアメフトだ。どちらを大切にするかは、1年を通してころころと変わる。そんな彼が家族とアメフトの次に大事にしているのが、TB12という健康ブランドだ。TB12はフィットネスバンドからアボカドのアイスクリームまで、健康に関する実に幅広い商品を手がけている。いずれもブレイディ氏の伝説的なキャリアを支えてきた経験をもとに開発された商品だ。

ブレイディ氏の部下のジェフ・サレット氏は、同ブランドについて「ブレイディ氏が選手生活のなかで学んだことをほかのアスリートに伝え、彼と同じように長いキャリアを築いてもらいたいという思いからはじまった」と語る。

サレット氏はTB12のシニアバイスプレジデントを務めており、ブレイディ氏の引退後に同氏の培った経験を伝えるチームの重要なメンバーだ。もちろん、その引退がいつになるのかはまだ誰にもわからない。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)による2016年の調査では、NFLのクオーターバックの選手寿命は平均で3年と1カ月だという。そんななか現在41歳のブレイディ氏は、NFLで19年目のシーズンを戦っている。

ほかのスポーツと同様、NFLでもスター選手となれば引退後のキャリアは普通の選手とは異なる。元ニューヨーク・ジャイアンツのディフェンシブエンド、マイケル・ストレイハン氏は現在、アメリカの朝の情報番組「グッドモーニングアメリカ(Good Morning America)」のアンカーを務めている。元テネシー・タイタンズのランニングバック、エディ・ジョージ氏はブロードウェーで主演を飾った。元クオーターバックのペイトン・マニング氏も、最近までピザ屋のパパジョーンズ(Papa John’s)のフランチャイズを何店か保有していた。これは食生活と運動を大切にしているブレイディ氏とは異なるキャリアといえるだろう。

引退前に

TB12のアイデアはブレイディ氏がひとりで思いついたわけではなく、専属トレーナーのアレックス・ゲレイロ氏とともに考え出したものだ。ゲレイロ氏は、元ペイトリオッツのラインバッカーのウィリー・マクジネスト氏の紹介を受けて、2004年からブレイディ氏のトレーナーを務めてきた。サレット氏はゲレイロ氏のやり方は「普通とは違って」おり、それがブレイディ氏の持ち味につながっていると考えている。ゲレイロ氏のやり方はしばしば議論の的になってきた。ブレイディ氏にとってゲレイロ氏はただのトレーナーではなく、ビジネスパートナーなのだ。ふたりは2013年9月にTB12スポーツセラピーセンターを立ち上げた。TB12の幕開けとなるこの施設は、マサチューセッツ州フォックスボロにあるペイトリオッツのホームであるジレット・スタジアムのそばに建てられた。

サレット氏は当時について「数年前に(ブレイディ氏には)いくつかのアイデアがあった。彼はゲレイロ氏と時間をかけてそのアイデアを形にしたいと考えていた。アスリートがピークのパフォーマンスを維持するのに役立つような、健康を考えた自然かつ包括的なアプローチだ。それこそがアメフトの後にやりたいことだとブレイディ氏は確信していたようだ」と語る。

サレット氏がTB12に加わったのは2014年7月。当初はコンサルタントとしての参加だったが、2015年1月には正社員になっている。それ以前に、同氏はボストンのパルテノングループ(The Parthenon Group)でコンサルタントを務めていた。その当時、325平米のTB12スポーツセラピーセンターには4人のフィジカルコーチが勤めていた。そんな初期のころ、ゲレイロ氏とTB12は、州の捜査を受けている。ボストンマガジン(Boston Magazine)の報道によると、2013年10月に立ち上げられた同施設は実際に営業を開始する前に閉鎖することになった。だが2016年8月に、650平米に拡張して同施設は再開した。現在では10人のフィジカルコーチと総勢25人の社員が勤めている。

センターからコミュニティに

サレット氏は、TB12の施設を利用する常連の数は「数千人」にのぼるという。同施設はランニングやスキー、そしてもちろんアメフトをする人たちを支援しており、限られた数の記者に同施設とその手法を実際に試させてもしている。TB12ではトム・ブレイディ氏にとって役立った手法を教えているが、TB12はブレイディ氏のようになりたいと望むファンだけのための施設ではない。

「私たちの手法は、どのスポーツでも、どのポジションでも、どの年齢でも役に立つと確信している。この施設にくる人たちは驚くほど情熱的に取り組んでいる。それが週末に子供と行くスキーであろうと、マラソンランナーであろうとね」と、サレット氏は語る。

TB12は規模を拡大するうえで、ただのセンターではなく、さまざまな商品を売るようになった。書籍『TB12メソッド(The TB12 Method)』は2017年9月に発売された。数カ月後には、TB12メソッドのモバイルアプリの提供を開始している。TB12にはオンラインストアもある。取り扱っているのはTB12製の負荷バンドをはじめとするトレーニング器具や電解液、そして帽子などのアパレル商品だ。アンダーアーマー(Under Armour)と提携し、睡眠中に筋疲労の回復を促すリカバリーパジャマなども販売している。TB12は、食事宅配サービスのパープルキャロット(Purple Carrot)の協力を得て、高タンパクで「炎症を引き起こしやすい野菜」を使わないTB12独自の栄養食を開発した。

「当社はブレイディ氏やゲレイロ氏が個人的に実際に試して効果があったもの以外は行っていないし、販売もしないし、勧めることもない。商品についても女性のトップス以外、ほぼすべての製品はブレイディ氏が試着している。着ていない商品についても同氏の承認を得たものしか売っていない」と、サレット氏は語る。

賛否両論を乗り越えて

ブレイディ氏がアメフトの試合以外で収益をあげるにあたって障害となるのが、同氏についてよく思わない人の存在だ。ブレイディ氏についての賛否両論は、(例外はあれど)基本的に同氏が長年に渡ってペイトリオッツに君臨してきたことに起因する。さらに試合で使うボールの空気を抜いたという疑惑や、オバマ元大統領時代のホワイトハウス訪問に参加せずに、その後ドナルド・トランプ大統領を支持しているといった政治的な問題も絡んでいる。

「ニューイングランド出身なので本当はこんなことを言いたくはないが、当社のデータを見ればブレイディ氏への評価は真っ二つといったところだ。トム・ブレイディ氏のような選手は地元ではとてつもない人気を誇る。全米でも高い知名度を誇る一方で、世界的な知名度はさほど高くない」と分析するのは、セレブのデータを得意とする調査企業のスポッテッド(Spotted)の共同創業者兼CEOのジャネット・コメノス氏だ。

スポッテッドによると、ブレイディ氏のオーディエンスの66%は男性で、そのうち43%が25歳から44歳となっている。もっとも人気が高いのがボストンやシカゴ、ヒューストン。オーディエンスの69%はアメリカ在住だ。

それ以外の障害として、健康ブランドは嘘っぽく見られるという点があげられる。女優のグウィネス・パルトロー氏は、女性向けライフスタイルサイトのグープ(Goop)を立ち上げたがうさんくさいという中傷を浴びることが少なくなかっただが、そうした彼女を嫌う人たちが、逆にパルトロー氏の巨大な帝国を作り上げるのにひと役買ったとも考えられる。ブレイディ氏とTB12を取り巻く上記のような賛否両論やゲレイロ氏への調査は、マッサージ療法士やアスレチックトレーナーの免許なしに理学療法を行っていることにも原因がある。免許の問題以外にも、TB12が勧めるカフェインや砂糖抜きの食事を実践したがらない人も存在する。

だがブレイディ氏や同氏のライフスタイル自体は、ペイトリオッツのファン以外からも認められている。Facebookによると、Facebook Watchで独占放送された番組「Tom vs Time」の視聴者の66%は、ニューイングランド・ペイトリオッツやトム・ブレイディ氏のFacebookページをフォローしていなかったという。視聴者のうち48%以上がブレイディ氏のページだけでなく、NFLの公式ページすらフォローしていなかった。

同番組は、同氏のライフスタイルが垣間見える貴重な番組だった。この番組を通じて明らかになったのは、ブレイディ氏のオンシーズンとオフシーズンでのアメフトへの情熱だけでなく、同氏のオープンな姿勢だった。同氏はあまりに不愉快な思いをすれば電話を切ることもあるが、基本的にメディアとの対話をよく行っている。ほかにもFacebookやインスタグラム(Instagram)に定期的に投稿している。もっとも内容があまり子供向けでない場合もあるのだが

「ブレイディ氏は、自分の会社がどれくらい自分自身と密接に結びついているか分かっている。自分自身のイニシャルと背番号を会社名にしているくらいだから」と、サレット氏は述べる。「TB12にとっては、ブレイディ氏が引退したあとも、トム・ブレイディであり続けることが重要だ。5回以上スーパーボウルを獲得したペイトリオッツの元クオーターバックであり、史上最高のアメフト選手としてのトム・ブレイディ、彼が健康商品を宣伝していることが重要なんだ」。

Kerry Flynn(原文 / 訳:SI Japan)