パブリッシャーはアドブロックという悩みの種に対処するためにあらゆる手を試している。そんななか、スタッフ・読者へ協力をよびかけて、悪質な広告に対する包囲網を張る媒体社が増えてきた。本記事ではその対応策について、ガーディアン、ワイアード、ワシントン・ポストの事例を紹介する。
英「ガーディアン」のコマーシャル・デリバリー部門エグゼクティブ・バイス・プレジデントであるジェン・ソック氏の元には、サイト上の問題がある広告についての連絡が、同僚から1週間に1度か2度届く。レポーターからの連絡のときもあれば、「ガーディアン」の北米CEO、イーモン・ストア氏から届くときもあるという。
こうした連絡は「ガーディアン」が数カ月前に作った特別なEメールアドレスに送られてくる。サイトをスローダウンさせている(と思われる)広告を社員が見つけた場合、このアドレスを使って報告するように指示が出されたのだ。「ほかの社員と同じくらい頻繁にCEOや編集者も利用している」と、ソック氏はいう。
こうして、パブリッシャーはアドブロックという悩みの種に対処するためにあらゆる手を試している。アドブロックを使っているユーザーをサイトからブロックしたり、広告主と協力して広告の読み込みが遅すぎたり邪魔になったりしないように工夫しているのだ。
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全社員で警戒に当たる「ガーディアン」
広告が遅い、邪魔だ、というのはアドブロックを利用するユーザーの主な理由として常に挙げられる。しかし、パブリッシャーがどれだけ頑張っても、迷惑な広告がサイト上に現れるのを完全に防ぐことは難しい。これらの多くはプログラマティックを経由して現れるからだ。
「ガーディアン」のように、社員全員でこういった広告を検知しようとしているパブリッシャーはいくつも存在する。彼らのメールはソック氏の広告運営チームに届き、クライアントもしくはアドエクスチェンジとともに対処法に取り組むことになる。
「我々はユーザーの体験を非常に大事なことだと捉えている。もしも誰かが問題がある広告や悪質な広告、サイトをスローダウンさせている広告を見つけたら、このEメールアドレスにメールをする。サイトに何が表示されているか、我々全員が警戒すべきなのだ」とソック氏。
読者協力を呼びかける「ワイアード」
「ワイアード(Wired)」もユーザーの協力によって問題のある広告を排除しようとしている。科学に特化したこのパブリッシャーは、邪魔な広告を読者が報告できるサポート・Eメールアドレスを設置。兄弟サイトである「アーズ・テクニカ(Ars Technica)」に設置されたリーダー向けのフォーラムも同じ目的をもっている。「ワイアード」はSlack上に、従業員が問題のある広告を報告できるチャンネルも作っているという。
「我々の広告運営チームは常に監視をしている。しかし、読者向けのTalktous@Wired.comというEメールアドレスがあることで読者にも監視してもらえるように促しており、問題に対する対応はさらに強固になっている」と、ワイアードメディアグループのゼネラルマネージャーであるロビー・サワーバーグ氏はいう。
こういった地道な努力を通して浮き彫りになるのは、ユーザーに提供する体験をパブリッシャーたちがコントロールできていない状況だ。これは複雑な広告配信システムにも一因があり、問題のある広告がいくつかのセーフガードをすり抜けて、サイト上に表示されてしまうことがあるからだ。
営業に繋げる「ワシントン・ポスト」
「ワシントン・ポスト」は少し異なる手法を取っている。広告イノベーションチームである「レッド(Red)」は「問題のある広告」を見つけると、その情報をセールスチームへと送る。ただ広告の問題点を直すのではなく、そういった広告がより早く表示されるために「ワシントン・ポスト」が開発したツールを販売するため、セールスのチャンスとして捉えているのである。
同紙の広告プロダクト・テクノロジー責任者であるジャロッド・ディッカー氏は「私は参加するセールスミーティングのすべてにおいてパフォーマンスの話をする。そんなミーティングは1週間に5から6つはある。広告主に、彼らの広告を私たちのサイトで表示させることができないと、ただ伝えてしまうのは危険だ。また、こういったことを見過ごしてしまうのはユーザーに対しても不公平だ」。
Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)