タイムズの有料モバイルアプリの利用者数は、前年同時期と比べて30%増加。1回の訪問あたりのページ閲覧数は、前年比で3倍も多くなっているという。この成長要因は、デザインに再び焦点を当てたことも重要な要素だ。モバイル上で見栄えするようにデザインされ、シンプルなユーザー体験を提供しているのである。
英国の全国紙「タイムズ(The Times)」は、思いがけないモバイル収益を享受している。
タイムズの有料モバイルアプリの利用者数は、前年同時期と比べて30%増加。1回の訪問あたりのページ閲覧数は、前年比で3倍も多くなっているという。同社によると、アプリを介した平均ページビュー数は、昨年3月以来300%増加し、タブレットのトラフィックはこの間、悪影響を被っていないようだ。
これら数値の上昇は、コモディティ化されたオンラインニュースに足を引っ張られることを避け、デジタル版の更新を1日3回、朝9時、正午、夕方5時に行うことにしたタイムズ社の1年前の決断からはじまっている。記事の発行スケジュールだけがこの変化につながったわけではない。デザインに再び焦点を当てたことも重要な要素だ。モバイル上で見栄えするようにデザインされ、シンプルなユーザー体験を提供しているのである。
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デザインと簡素化に焦点
「当時、我々のやり方は間違っていると考える者もいた。しかし、成功している。当初の指針は、読者ファースト、モバイルファーストをめさずというもので、この指針を役員室の大きなホワイトボードに私は書き出していた。我々は、メディアのコメンテーターたちが口出しすることは気にせずに、読者にとって有益なことをしたいと思っていた。そしてそれは上手くいっている」と、タイムズのデジタル責任者、アラン・ハンター氏は語った。
ハンター氏は具体的な数値を明らかにしなかったが、昨年におけるタブレットの成長はスマートフォンほどではないものの、「かなり高い」基本値からの30%上昇だと述べた。
スマートフォンアプリの記事そのものは、1日に数百の記事が公開されているWebサイトのそれと変わりがない。独占スクープと併せて提供されるコメントと分析が、成功しているフォーマットだ。しかし、デザインと簡素化に焦点を当てたことが、エンゲージメントを推進するうえで、とても重要だった。
記事発行スケジュールも寄与
今年はタイムズにとって、大きな変化の年になっている。昨年、オーディエンス数が20%増加した同社のWebサイトは、昨夏に無料の登録アクセスを導入し、サブスクリプションプロダクトのファネルとして位置づけた。もっとも熱心な読者およびサブスクライバーは、スマートフォン・タブレットアプリを使用。「人々はWebサイトで記事を読み続ける、そこで、我々のジャーナリズムに触れることになる」と、ハンター氏はつけ加えた。
その考えを拡大する計画もある。登録ユーザーは現在、2本の記事を閲覧可能で、3本目の記事を読むには、有料購読が必要になる。先月までに、約55万人の加入者が存在しており、順調に数値は上昇している。最終的に、登録アクセスをショーウインドウとして利用し、やがて人々を有料購読者およびアプリユーザーに転換することが目標だ。
シンプルなデザインに加えて、新しい記事発行スケジュールが、モバイルアプリやWebサイト自体のエンゲージメント率向上に寄与していると、ハンター氏は信じている。「昼の記事を確認する人たちで、夕刊の数値が上昇する。午後4時59分に記事の更新をする。そして、翌日、新しいニュースが公開され、本当のピークを迎える。なぜなら、人々は我々を信頼して、再び戻って来るからだ」とハンター氏はいう。
本当に差別化できるもの
先月(3月)のウェストミンスター襲撃事件の日、タイムズはニュース速報を次々に更新していくメディアの流れに加わることを避け(その一部は誤報だった)、定評のある、より深い分析に重点を置いた。その結果、ハンター氏は具体的な内容を明かさないが、スマートフォントラフィックは記録を更新し、タブレットも同様に手ごたえを得たという。
「『重大なニュース速報』が出た翌日に、我々はしばしば、記録を更新している。ブレグジットやトランプの場合も同じだった。そのトラフィックを生み出しているのは、コメントと分析だ。一般的なニュースはコモディティであり、どこからでも無料で入手できるので課金は難しい。我々は本当に差別化できるものに焦点を当てている」と、ハンター氏はつけ加えた。
タイムズは2010年に厳しいペイウォール制を導入しているが、いつも新たな試みに挑戦している。次の予定は、ポッドキャストの増加(現在5つ)と動画だろう。現在、Webサイト向けに作成された動画はすべて購読者限定で公開されているが、同社はすべてのユーザーに公開していく予定だ。
その目標は、もっと多くの無料登録を促し、やがては有料購読に結びつけることだ。広告主向け動画といったプレミアムコンテンツをもつことは、もうひとつのインセンティブになる。「動画が有料購読を誘引する可能性が高いのかどうかを確認するために、傾向モデルを検討している。だからそれに関して、我々はさらに追及していくだろう」と、ハンター氏は語った。
Jessica Davies(原文 / 訳:Conyac)
Image: courtesy of Peter Brookes.