タイムアウト(Time Out)は、ファーストパーティデータに基づくDMP、パーミュティヴ(Permutive)に切り替えて以来、この1年半にわたり、自社のオーディエンスセグメントを強化している。その目的は、アドレス可能なオーディエンスを可視化し、サイトを訪問したすべてのユーザーをターゲッティングすることだ。
ブラウザによるトラッキング規制からデータプライバシー規制の強化に至るまで、デジタル広告エコシステムが多方向から同時攻撃を受けている現在、パブリッシャー勢は自社オーディエンスデータからより多くの価値を引き出そうと躍起になっている。
タイムアウト(Time Out)は、ファーストパーティデータに基づくデータ管理プラットフォーム(DMP)、パーミュティヴ(Permutive)に切り替えて以来、この1年半にわたり、自社のオーディエンスセグメントを強化している。オーディエンスインタレストを5つのコアエリア――するべきこと、外食好き、文化マニア、旅行、家族――に絞り、さらに自社サイトのコンテンツをカテゴリーごとに綿密にタグ付けすることで、各セグメントをさらに詳細に分類している。現在、広告主に提供できるセグメントは約170に上り、アート系、ブラックフライデー好き、田舎探検家、ビーガン信奉者など、さまざまな層を幅広く網羅している。
その目的とは――アドレス可能なオーディエンスを可視化し、サイトを訪問したすべてのユーザーを1/10秒以内に同定およびターゲッティングすること、にほかならない。ユーザーがサイトにいる間にターゲティングし、各々の興味とブラウジング行動に基づいて選んだ適切な広告を見せることで、無駄を削減し、理論的には、広告効果を高めることができる。
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「要するに、スケールの問題」と、タイムアウト・メディア(Time Out Media)のデジタル広告セールス部門ディレクター、ロビン・バーソロミュー氏は語る。「キャンペーンに備えてどうしたらスケールを増せるのか、類似モデルをどうしたら増せるのか、重複オーディエンスをどうしたら増せるのか、そしてどのセグメントの検索率が高いのかを把握し、全体のリーチ率を上げられるのか、それに尽きる」。
タイムアウトはオーディエンススケールについてこれまで何もできていなかったが、それは不正確なタグ付けのせいでもあったという。現在、アドレス可能なオーディエンスプールは5倍に拡大している。ユーザー行動の追跡も、以前は24時間から48時間を要したが、いまは迅速に行なえるようになった。速度が上がったことで、広告チームは編集チームにフィードバックを出し、編集チームはそれに基づいてコンテンツを決定できるようになったという。
どれだけ適切に狙えるか?
さらには、セグメントの重複具合も把握できるようになった。たとえば、「音楽好き」の90%は「エンターテイメント」セグメントにもおり、44%は「するべきこと」セクションを定期的に読み、「ダンス好き」セクションにも属する可能性が3倍高い、といった具合だ。こうした詳細情報の確保はつまり、将来のキャンペーンにおいて誰をターゲットにするべきかの助言ができ、オーディエンスの自社サイトへのエンゲージメントに関するより深い理解をクライアントに提供できることを意味する。実際、タイムアウトはこの能力を数カ月前から英エージェンシー勢に売り込んでいる。
タイムアウトはコマースやイベント、フードホールなど、収入源の多様化に努めているが、最大の収入源は依然、デジタル広告だ。決算報告書によれば、同社は2019年の最初の半年間において、デジタル広告で730万ポンド(約10億円)を売り上げており、昨年の同時期と比べて4%の増収を記録した。ただし、強化したターゲティング力への関心がどの程度の収益を生んだのかについては、明かしていない。
SafariとFirefoxの両ブラウザによるサードパーティトラッキングクッキーに対する取り締まりも、オーディエンスサイズに関してタイムアウトを苦しめる要因だった。同社オーディエンスの約49%はiPhoneユーザーであり、これはつまりAppleがSafariにITP(インテリジェント・トラッキング・プリベンション)を設け、ユーザー行動の監視を防止している現在、彼らの行動が見えにくくなる可能性を意味している。そのため、タイムアウトはSafariとFirefoxがブロックしているサードパーティクッキーに依存しないプラットフォーム、パーミュティヴを利用し、オーディエンスの可視性を確保している。
「[この規制が]必ずしもCPM低下につながるわけではない」と、バーソロミュー氏。「それよりもむしろ、オーディエンスプールがどれほど大きいのか、そしてユーザーセグメントの人々を適切にターゲッティングできるのか、という点が重要になる。DFP[Googleアドマネージャー]を介すると、プールはきわめて小さくなり、もはやそこに価値はないに等しい。デバイスターゲティングといった条件に縛られると、ユーザー数は著しく縮小してしまう」。
ファーストパーティの重要性
パブリッシャー勢はなおいっそう、自社ファーストパーティデータの活用法探しに力を入れており、サードパーティクッキーに依存しない大規模オーディエンスのターゲティングと、それらオーディエンスのマネタイズ法の拡大に努めている。たとえばワシントン・ポスト(The Washington Post)や、インサイダー・インク(Insider Inc.)、 イミディエイト・メディア(Immediate Media)といったパブリッシャー勢は、オーディエンスの意図、行動、心情、興味に関連する緻密なターゲティングを通じた、クッキーに頼らない戦略の開発に乗り出している。それもこれもすべては、オーディエンスをマネタイズする新たな方法を考案し、その新能力を広告主に売り込むためだ。
タイムアウトの場合、eコマース事業も行なっているため、自社の購買データも活用できる利点があり、広告主はたとえば、前年にテイラー・スイフトのコンサートチケットを購入した人々や、英歌劇場ロイヤル・オペラ・ハウスに定期的に通う人々をターゲティングできる。
ほかのパブリッシャーと同じく、タイムアウトもまた、ファーストパーティ、サードパーティいずれのデータにも依存しない、ユーザーアイデンティティがより明白なログインユーザー数の拡大を目指している。タイムアウトには現在、レストランやショーのレビューを残すためにサイトにログインする人々が、少ないながらも存在する。だがその数を増やすには、どうしたらユーザーにeメールアドレスを共有してもいいと思わせられるのか、そして健全なアイデンティティベースの広告収入源を維持するには、カスタマイズしたコンテンツを増やすべきなのか、それともカスタマイズした広告を増やすべきなのか、といった点の理解が必要とされる。
Lucinda Southern(原文 / 訳:SI Japan)