セールスフォース(Salesforce)最高経営責任者マーク・ベニオフ氏らが買収した米メディア大手メレディス・コーポレーション(Meredith Corp.)のタイム(Time)は、1億9000万ドル(約214億円)もの値がつけられた。ここ数年のデジタルメディアの台頭が示しているのは、ブランドの重要性だ。
米メディア大手メレディス・コーポレーション(Meredith Corp.)のタイム(Time)売却は、買い手であるマーク・ベニオフ氏(米クラウドサービス大手のセールスフォース[Salesforce]最高経営責任者)と同氏の妻リン・ベニオフ氏を驚かせた。その値札に書かれていた価格は1億9000万ドル(約214億円)だったのだ。
広告や発行部数、利益の減少がここ何年も続いているパブリケーションにしては高い値段だと、誰もが思っている。あるレポートによれば、支払われた金額は営業利益の6倍ほどで、最近行われた同じような取引のなかでも割高の部類に属すると、投資銀行オークリンズ・デシルバ+フィリップス(Oaklins DeSilva+Phillips)のマネージングパートナーであるリード・フィリップス氏はいう。
ブランドの重要性
今回の取引は、超大金持ちによるメディア企業の買収を示す、また新たな例として重要だ(参考:ロサンゼルス・タイムズ[Los Angeles Times]、アトランティック[The Atlantic]、ワシントン・ポスト[The Washington Post])。またそれは、ブランドというものの持久力も示している。
Advertisement
ここ数年のデジタルメディアの台頭が何かを示しているとすれば、それはブランドの重要性だ。ベンチャーキャピタルから資金援助を受けて、デジタル新興企業各社はどこからともなくあらわれた。そして、オールドメディアにはマネのできない戦術を巧みに駆使して、広告支援型の巨大なオーディエンス基盤をソーシャルメディア上に築いた。やがて成長に対する非現実的な期待感は現実と衝突し、リトルシングス(LittleThings)やマッシャブル(Mashable)、BuzzFeedなどの企業にとっては、厳しい時期がこれに続いた。
オンラインの世界で生き残る確率を高めてきたパブリッシャーたちは、確固たるブランドを持っている。彼らはそのうえに、デジタルサブスクリプションやドネーション(寄付)、メンバーシップなどの形で、読者からの収入源を築いてきた(参考:ニューヨーク・タイムズ[The New York Times]、フィナンシャル・タイムズ[Financial Times]、ガーディアン[Guardian])。
富裕層の大きな関心
彼らは買い手に対して、より高い価格を設定しつつある。サブスクリプションを重視するビジネスの場合、EBITDA(営業利益+減価償却費)の8~12倍の値が付くこともあるが、広告支援型のみのビジネスに対しては4~7倍が相場だと、フィリップス氏は述べる。強いブランドを持つパブリケーションの非常に高いクオリティは、ベニオフ夫妻のような買い手にとっては、まちがいなく魅力のひとつだ(マーク・ベニオフ氏は、タイムを「我々の歴史と文化の宝庫」と評し、自分たちは「この象徴的ブランドに仕える執事」だと思っていると語っている)。しかし、ここのところタイムをはじめとするニュースパブリケーションに支払われている高い金額は、メディアM&A市場全体の反映ではない。とりわけ、その買収が完全な金銭的動機に基づいている場合は。
「これらは単発の買収だ」と、フィリップス氏は語る。「メディア業界に身を置かずに富を築いた富裕層の一部は、これらのブランドを支えることに大きな関心を持っているようだ。もちろん、タイムは象徴的なブランドであり、多くの人々にとって重要な意味を持っている」。
それでもタイムの新オーナーは、落ち目になっている雑誌を引き取ろうとしている。実際の数字に精通する元幹部の話では、約20年前には1億ドル(約112億円)の利益を生み出していたタイムは近年、収益性の点で瀬戸際まで追い込まれていたという。複数のレポートによれば、現在の同誌の売上は約1億7000万ドル(約191億円)で、営業利益は約3300万ドル(約37億円)だという。アライアンス・フォー・オーディティッド・メディア(Alliance for Audited Media)によると、タイムの現在の保証部数は200万部で、4年前の325万部から減少しており、イベントやデジタルペイウォールで収入を得ようと四苦八苦しているという。また同誌は、質の高いほかのニュースソースとの厳しい競争にも直面している。
成否の鍵はデジタル
とはいえタイムは、今日の世界でその重要性を維持している。インターネット調査企業のコムスコア(comScore)によれば、2016年現在の同誌のオンラインオーディエンスは、半分近くがミレニアル世代だったという。またその表紙は、いまなお世間の注目を集めている。
「成否の鍵を握るのはデジタルだ」と、メディアコンサルタントのピーター・クライスキー氏は語る。「一部の者にとっては、タイムはくたびれた落ち目のブランドだ。だが、別の者にとっては、その高い可視性はデジタルトランスフォーメーションを強化する機会を与えてくれる。プリント版をロスリーダー(集客目的の採算度外視した極めて安い商品)にすれば、同誌はこれからもアメリカの話題の中心に居続けられるかもしれない」。
いずれにせよ、新オーナーは彼らが恐れていたであろうデビッド・ペッカー氏ではなく、ベニオフ夫妻であることがわかったいま、タイムのスタッフはこの買収を喜んでいることだろう。
Lucia Moses (原文 / 訳:ガリレオ)