フライトハウス(Flighthouse)やソングサイケ(songpsych)といった、TikTokネイティブのパブリッシャーが、成長の節目を迎えている。TikTokで生まれ、このプラットフォームで多くのフォロワーを獲得してきたメディアが、ビジネスを確立するためにほかのプラットフォームへ進出しはじめているのだ
フライトハウス(Flighthouse)やソングサイケ(songpsych)といった、TikTokネイティブのパブリッシャーが、成長の節目を迎えている。バイトダンス(ByteDance)が手がけるTikTokで生まれ、このプラットフォームで多くのフォロワーを獲得してきたメディアが、ビジネスを確立するためにほかのプラットフォームへ進出しはじめているのだ。これはかつて、YouTube、Facebook、インスタグラム、Snapchatで生まれたパブリッシャーが取った動きと同様だ。
はやくから、TikTok専業メディアとして活動してきた音楽専門チャンネルのフライトハウスは、2016年にMusical.ly(ミュージカリー:2018年にTikTokと統合)でデビューし、現在は2760万人のフォロワーを獲得している。だが、フライトハウスのCEO、ジェイコブ・ペイス氏によれば、ホリスター(Hollister)やTinder(ティンダー)といった著名なブランドとの契約を獲得できるようになったのは、2020年はじめのことだった。
そして半年前、フライトハウスは、TikTokで公開した動画をSnapchatのディスカバー(Discover)やYouTubeで再利用しはじめた。「掲載するプラットフォームを増やせば、それだけ収益化できる場が多くなる」とペイス氏はいう。
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フライトハウスのSnapchatアカウントのフォロワー数は、28万8000人余り。また、YouTubeでの登録者数は43万5000人で、TikTokでのフォロワー数とは比べものにならない。しかしTikTokと違い、SnapchatとYouTubeは、フライトハウスが活用できるマネタイズプログラムがある。そのためフライトハウスは、自社の動画で配信された広告から、収益の一部を受け取ることができるという。
チャネル多様化は簡単ではない
TikTikで2020年春にデビューし、73万人のフォロワーを抱えるソングサイケも、同年11月にYouTubeへ進出した。音楽をテーマとして扱うソングサイケは、TikTokに収益を依存するメディアだ。現時点ではもっぱら、TikTokの「インストラクティブ・アクセラレーター・プログラム(Instructive Accelerator Program:以下、IAP)」から資金を獲得している。また、2021年4月はじめ、音楽レーベルのデフ・ジャム・レコーディングス(Def Jam Recordings)とスポンサー契約を結ぶなど、TikTokをきっかけにスポンサー契約を販売している。そんななか、ソングサイケがYouTubeに進出したのは、Googleが所有するこのデジタル動画プラットフォームが「強力で成熟した収益化の仕組み」を持っているからだと、ソングサイケを運営するグッド・コンテンツ(Good Content)の創設者、ピーター・コンフォルティ氏は話す。
「コアとなるTikTokページを成長させつつ、チャネルを多様化することでスポンサーシップ契約を増やすことが狙いだ」と、コンフォルティ氏は語る。
とはいえ、TikTokからYouTubeへの進出は、単にコンテンツを再利用すれば済むほど簡単ではない。ソングサイケのチームは、YouTubeでさまざまなフォーマットをテストしているが、その理由は、TikTokで「必勝」のフォーマットが、YouTubeでもうまくいくとは限らないからだ。現に、ソングサイケのYouTubeのチャンネル登録者数は、まだ7000ほどだ。
「あるプラットフォームから、異なるプラットフォームへオーディエンスを移動させるのは、とても難しい」と、コンフォルティ氏。「両方で視聴してもらうには、それぞれのプラットフォームで異なることをする必要がある。コンテンツを丸ごと移し替えれば済むわけではない」。
TikTokは「立ち上げ向き」
ただし、新規にメディアブランドを立ち上げる際には、YouTubeといったすでに成長しているプラットフォームより、TikTokのほうが簡単な場合がある。コンフォルティ氏はTikTokを、ほかのソーシャルメディアプラットフォームより、ターゲットにリーチする可能性が高い点を評価しており、カイラ・メディア(Kyra Media)の最高クリエイティブ責任者、ジェイムズ・カドワラダー氏も、この意見に同調する。カイラ・メディアは2021年1月、同社初のTikTok向けブランドを立ち上げた。「TikTokでは、バイラルを起こせるくだけた表現であれば『バズる』可能性が常にあるが、インスタグラムやYouTubeではそうはいかない」と、カドワラダー氏はいう。そのうえで、「新たなスタートを切るパブリッシャーにとって、TikTokを利用するのは、とても理にかなっている」と付け加えた。
パブリッシャーが新しいブランドを立ち上げる場合は、「まずはTikTokなど、ひとつのプラットフォームで専用のコンテンツを提供し、ニッチなオーディエンスにターゲットを絞って展開するのがうまくいく」可能性があるというのは、調査会社のフォレスター・リサーチ(Forrester Research)のシニアアナリスト、ジェシカ・リウ氏だ。「それ以外のブランドにとっては、このアプローチはうまくいかないかもしれないが」。
ファイブミニット・リサイクル(5-Minute Recycle)は立ち上げ当初、リウ氏のこの指摘を身をもって体幹したという。同メディアは、2019年にYouTubeでデビューしたが、オーディエンスを獲得できずに苦労した。しかしTikTokでは、製品の再利用やリサイクルに関する動画が好調だったことから、2020年3月にTikTokに本格的に注力しはじめた。「(TikTokは)新しいメディアブランドを構築するのに最適な場所だ」と、ファイブミニット・リサイクルを運営する、ザソウル・パブリッシング(TheSoul Publishing)のコンテンツパートナーシップディレクター、マイケル・ボッカチーノ氏はいう。現在、ファイブミニット・リサイクルのTikTokのフォロワー数はおよそ800万人で、YouTubeのチャンネル登録者数は600万人を超えている。
しかし、ブランドビジネスは、そう単純ではない。ファイブミニット・リサイクルは、TikTokのIAPから収益を上げているが(ザソウル・パブリッシングでは、さらにふたつのブランドがIAPに参加している)、TikTokに特化したブランド契約は販売していない。そのため、ザソウル・パブリッシングがブランデッドコンテンツを広告主に売り込むには、TikTok以外のプラットフォームに進出し、YouTube、Facebook、インスタグラムといったプラットフォームへのクロス投稿を可能にできるかが、重要になる。なお、ザソウル・パブリッシングは、YouTubeで600万人以上の登録者を獲得しているほか、2021年1月にモバイルプラットフォームのSnapchatで配信を開始し、60万人以上のフォロワーを集めている。
TikTok専業メディアの可能性
もっとも、TikTokネイティブのパブリッシャーすべてが、最初にオーディエンスを獲得したこのプラットフォームから、別の場所に進出しようとしているわけではない。カイラ・メディアは、TikTok専用のファッションメディアとしてラグ・レポート(RAG REPORT)を立ち上げ、46万4000人のフォロワーを集め、スポンサーも1社獲得している。4月16日に、アパレル企業のディーゼル(Diesel)と、はじめてのブランド契約を締結したのだ。これは「かなりの規模の契約」だと、カドワラダー氏は述べている。
しかし、ラグ・レポートがスポンサーの獲得に成功したとはいえ、複数のプラットフォームに進出しているメディアのほうが、広告主の獲得という点では有利だ。「ひとつのプラットフォームにひとつのタッチポイントを設けるよりも、タッチポイントを増やしたほうが、キャンペーンのインパクトは大きくなる」と、メディア・キッチン(The Media Kitchen)のアソシエイトメディアディレクター、クレア・バーグマン氏はいう。
さらにバーグマン氏は、「TikTok専業のメディアで、30秒の動画を流すことをマーケターに勧めるかといわれれば、それは何ともいえない」と話す。「しかし、すでに熱心なフォロワーを抱える動画シリーズであれば、TikTokがどのように機能するのかを見るテストとしても、購入まで含めたより大きな取り組みの一部としても、役立つだろう」と、バーグマン氏は指摘した。
[原文:TikTok-native publishers look to expand business on other platforms after building audiences]
SARA GUAGLIONE(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:村上莞)