[ DIGIDAY+ 限定記事 ]片づけは、端的に言えば、一大ブームとなっている。34歳の日本人片づけコンサルタント、近藤麻理恵(こんまり)氏はブーム牽引者のなかでもとりわけ有名なひとりだろう。人々は空間や環境に自らが与える影響をかつてないほど気にかけ、自らの振る舞いを自覚するようになっている。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ウェストチェスターに暮らす臨床心理士、カリン・ソチ氏は2014年、現在の夫との生活をはじめる準備をしていた頃にふと、近藤麻理恵氏の著書『人生がときめく片づけの魔法(The Life-Changing Magic of Tidying Up)』を手に取った。同書で「人生観が一変した」という彼女は、近藤氏がコンサルタントの養成講座をはじめたことを知り、すぐさまその機会に飛びついた。
2016年秋に1級の資格を取得。今年、2019年には公認コンサルタント(Master KonMari Consultant Practitioner)になった。2016年の1級取得から1カ月もたたないうちに、ソチ氏のもとには早くも、昼の仕事を辞められるほど大勢のクライアントが集っていた(料金はコンサルタント各人が設定できる。ソチ氏は時間単位で請求している)。彼女のポッドキャスト、スパーク・ジョイ(Spark Joy)のリスナー数は現在、昨年の倍となる150万人に上る。また、ソチ氏には企業クライアントもついており、先頃には製薬大手イーライリリーとのプロジェクトも手がけ、社屋や倉庫の片づけ/整理整頓にも手を貸した。
ブーム牽引者の代表格
片づけは、端的に言えば、一大ブームとなっている。人々は空間や環境に自らが与える影響をかつてないほど気にかけ、自らの振る舞いを自覚するようになっている。インターネットのおかげで、空間羨望はいまや日常的だーーインスタグラムを介し、人々は日常的に他人の自宅をのぞき魔のように眺め、綺麗に整理整頓されている様子にため息をつく。そして、デーブ・ブルーノ氏やタミー・ストローベル氏といった整理整頓に特化したブロガーの爆発的増加がこれをさらに後押ししている。
Advertisement
34歳の日本人片づけコンサルタント、近藤氏はブーム牽引者のなかでもとりわけ有名なひとりだろう。彼女が考案した「こんまり流」は、著書が2014年に翻訳出版されるや、ここ米国で絶賛された。その人気を受けて製作されたNetflix(ネットフリックス)シリーズ『KonMari~人生がときめく片づけの魔法~』は2019年度プライムタイム・エミー賞の候補に挙がった。近藤氏のビジネスは拡大を続けており、週刊ニュースレター「All Things KonMari’d」を配信しているほか、職場の生産性をテーマにしたティム・フェリス氏との共著もまもなく発刊する。テックニュースサイト、インフォーメーション(The Information)の3月の報道によれば、4000万ドル(約43億円)の資金調達計画もあるという(ただし、近藤氏サイドはビジネスの成長に関してコメントを一切出さず、取材依頼にも応じていない)。
牽引者はほかにもいる。ジョシュア・フィールズ・ミルバーン氏とライアン・ニコデマス氏からなるミニマリスツ(The Minimalists)も然りだ。ふたりは無料ニュースレター、ミニマリスツ・ポッドキャスト(Minimalists Podcast)、ドキュメンタリー、各地を巡る講演会などを通じて、カルト的人気を博している。すべてがはじまったのは約10年前。ふたりは当時、所有していた大量の「物」のせいで、いわゆる中年の危機的状況に置かれていたという。
「それだけ持っていても、まるで満足できまなかった。まるで、ぽっかりと大きな穴が空いているような感じだった。もっと物を買うだけのために、週に80時間必死になって働いても、その穴は埋まらなかった。それどころか、借金やストレス、不安や恐怖、孤独感に罪悪感、絶望や途方に暮れる感覚だけがいたずらに増えていった」と、ふたりは著書のイントロダクションに書いている。
そこで彼らは2010年、ミニマリズムの原則にフォーカスするウェブサイトを立ち上げた。オーディエンスの数は2000万人に上るという。2018年には、より多くのコンテンツを制作するべく、ハリウッドでポッドキャストと映画スタジオを立ち上げ、現在はドキュメンタリー第2弾『レス・イズ・ナウ(Less is Now)』に取り組んでいる。
ミニマリズム運動の歴史
ミニマリズムという運動自体は、古くから存在する。だが、支持者らはそこにそれぞれ独自の視点/主義を加えている。たとえば、ミニマリスツのそれは、従来の概念ほど厳格ではなく、実際、人々が自由の感覚を見つける一助になるという。近藤氏のそれは喜び/ときめきにフォーカスしている。セルフヘルプ界の第一人者にして、ヘッジファンドマネージャー/投資家、人気作家、有名ポッドキャスターでもあるジェームズ・アルタチャー氏の場合、ミニマリズムはひとつの生き方だ(氏は物を15品しか所有していないと言われている)。
実は、ミニマリズム信奉は以前からインターネットの片隅やレディット(Reddit)、YouTubeに存在しており、ブロガーからファッショニストまで、さまざま人々が長年その信念を表現していたのだが、その運動がいま多くによって拡大している。
ただし、以前と違うのは、現在は誰もがより深い不安を抱いており、自分が所有する物に対する満足度だけでなく、自分が買う物が世界/環境に与える影響も重要視されている点だ。
ビジネスの世界への影響
ビジネスにも明らかな影響が及んでいる。近藤氏の番組放送後、いわゆるスリフトストア(thrift stores:寄付品を格安販売し、収益を福祉に当てる店)は寄付品で溢れかえったという。中古品市場も成長を見せており、高級品に特化したリアルリアル(RealReal)やファッション専門のフリマアプリを提供するポッシュマーク(Poshmark)といった企業は大きな伸びを記録している。ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)やH&Mといった従来型リテーラーを含む巨大ブランドも中古品販売に力を入れ、衣服や靴を捨てる人々が増える現在のトレンドを利用しており、もちろん、これを収益に繋げたいと考えている。
「これは私のきっかけのひとつでもあるのだが、一般に、20世紀前半には物を入手することへの強い衝動と、それを何としても維持しなければ、という切迫感があった」と、ソチ氏語る。「だが、いまは違う。買って家に持ってかえる物は、当時ほど重要ではない」。
Shareen Pathak(原文 / 訳:SI Japan)