地域に根差したローカルニュースを、ビジネスと地域への社会貢献の両面から立て直し、新たなビジネスモデルに取り組もうとする動きが始まっている。ローカルニュース業界のアナリストとしてケン・ドクター氏が自身の地元でスタートしたパブリック・ベネフィット・コーポレーション、ルック・アウトローカルもそんなメディアのひとつだ。
長年ローカルニュース業界のアナリストとして活動し、また自身のコンサルタント会社ニューソノミクス(Newsonomics)でプレジデントを務めるケン・ドクター氏は2019年末に、ローカルニュースの空白地帯となっている自身の地元カリフォルニア州サンタクルーズ郡にニュースを提供し、なおかつローカルニュース分野でも落ち込んでいる広告販売を回復させるための取り組みに着手した。
ドクター氏は2020年秋に、ルックアウト・ローカル(Lookout Local)という新たなビジネスを立ち上げようとしている。報道チームの8人を含めてスタッフは全部で15人だ。しかし、新規ビジネスを立ち上げる、それもデジタルメディア企業がかつて地方紙の占めていたポジションを手に入れようというのは、たとえ世界規模のパンデミックとそれに伴う景気後退がなかったとしても容易なことではない。
ドクター氏は「これは父親や祖父世代向けのニュースプラットフォームであるパッチ(Patch)とは違う」と、米国の1000を超える町や郡に特化して展開するハイパーローカルなサービスと比較する。それにサンタクルーズにはまだ地元紙のサンタクルーズ・センティネル(Santa Cruz Sentinel)が残っており、氏のビジネスは同紙と競合することになる。
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しかし、ドクター氏とCRO(Chief Revenue Officer)のジェド・ウィリアムズ氏は、自社のビジネスモデルに関して楽観的だ。当初はメンバーシップとダイレクト広告から半分ずつの収益を上げ、徐々にメンバーシップの比率を高めていくという。
「我々の場合、初めにオーディエンスとコンテンツのモデルがあるだけでなく、それと同じくらい初めからビジネスモデルが存在している。映画『フィールド・オブ・ドリームス(Field of Dreams)』の野球場のように、先に場所だけ用意するわけではない」と、ウィリアムズ氏は説明する。
米DIGIDAYが毎週お届けしている番組「ザ・ニュー・ノーマル(The New Normal)」の最新エピソードでは、ドクター氏とウィリアムズ氏にいかにして読者に支援を促し、結びつきを深めるつもりなのか。また、自社を利益ではなく社会貢献を最重要視するパブリック・ベネフィット・コーポレーション(Public Benefit Corporation、以下PBC)とすることの利点について話を聞いた。
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PBCのメリット
PBCとは、株主の利益を最大化するよりも、社会に貢献することを優先する営利企業のことだ。営利企業でありながら、あくまでミッションの実現を目指す。ルックアウト・ローカルのミッションは、必要なニュースと情報をコミュニティに提供することだ。
ウィリアムズ氏によると、自社のビジネスモデルを作成する際、慈善事業の側面をもつことになるのはわかっていたが、両氏が懸念したのは、寄付に頼りすぎることでビジネスを成功させるのに必要なコントロールが自分たちの手から失われる状況だという。
そのため、営利企業として柔軟性をもたせることで、ルックアウト・ローカルがほかにもいくつかの収益源を確保し、また自分たちで舵取りがしやすいビジネスモデルを備えられるようにしたとウィリアムズ氏は話す。
「この方法だと我々はあくまで営利企業でいることができる。私は常々いいアイデアだと思っていた」とドクター氏はいう。「そして得られる利益を使ってニュースルームを強化すれば、(ビジネスと社会貢献)互いを補い合える」。
また、非営利団体の認定を受けるとできななくなることもある。たとえば、選挙で特定の立候補者を応援することは許されない。
求める読者像
サンタクルーズ郡の総人口は約27万5000人にのぼるが、ドクター氏とウィリアムズ氏はそのうち潜在的な購買層(サイトのメンバーシップを購入するか、サイトの広告主からプロダクトを購入する層)は約23万人いるとみている。
ドクター氏によると、個人のメンバーシップ販売を通じて5000~7000人のメンバーを集める必要があるが、両氏はそのほか企業や教育機関向けにグループメンバーシップも販売し、追加の収益源とする計画だという。
「それでもデジタルプロダクトを手がけるのは非常に低コストであり、年間200万ドル(約2億1000万円)以下でコンテンツ量だけでいえば日刊紙の2~3倍の報道力を備えたフルサービスのニュース事業を計画することができる」とドクター氏は話す。
サブスクリプションモデルでなくメンバーシップモデルを選択したのは、サブスクリプションでは読者とのあいだに取引関係しか生まれず、ともにコミュニティを構築する関係にならないとの考えからだ。このメンバーシップが目指すのはパブリケーションを中心としたコミュニティを育てることで、そのコミュニティがいずれブランドの宣伝役になってくれることも期待している。メンバーがコミュニティ全体とのつながりをより強く感じられる方法に取り組んでいるとして、ウィリアムズ氏は次のように述べている。
「コミュニティのより活発なメンバーになって、問題解決に加わりたいと望んでいる人物を想定したメンバーシップを提供すれば、彼らはメンバーシップを通じてより直接的に貢献することが可能となるだろう。そこには何か特別なものが存在しうると我々は考えている」。
地域の広告を活用
広告については、単なる手っ取り早い収益源とはみなしていないと、ウィリアムズ氏はいう。
「(広告主を含む)ビジネスコミュニティも、読者やメンバーとともに長期的なビジネスモデルに組み込んでいる」とウィリアムズ氏は明かす。ルックアウト・ローカルはサンタクルーズの地元企業に、近くにいる新たな潜在顧客にリーチするための新たな場所を提供することを目指している。
「そこに投じられる広告費は我々が考えていた以上に多いだろう」とドクター氏は述べている。
大手ニュースパブリッシャーとの提携
認知度を高め、スケールを拡大するために、ルックアウト・ローカルはロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)とのバンドル販売を試験的に実施し、ルックアウトの割引メンバーシップをロサンゼルス・タイムズのサブスクリプションに組み合わせて提供する計画だ。全国規模の新聞と手を組むことで得られるメリットは、ドクター氏にとって重要なものだ。
「もっとも注力すべきは、きわめてローカル(な報道)であることと、これら全国レベルのリソースを読者に有益な形で活用することだ」とドクター氏はいう。ルックアウト・ローカルが成功を収めるには「正真正銘、サンタクルーズ郡のためのメディアになろうとしなくてはならない」。その一例が、ロサンゼルス・タイムズが提供するカスタムCMSの「グラフィーン」(Graphene)だ。
「技術面に関しては、アウトソースするか社内でやるかのどちらかだ。我々はITスタッフを置く気はない。自分たちで開発を手がける気はない」とドクター氏はいう。グラフィーンは、若年層の読者にアピールする優れた視覚体験をもたらす一方、編集スタッフには非常に作業しやすいワークフローを備えている点でベストだったと、ドクター氏は評する。
「(ルックアウト・ローカルを)見た人々には、すごい、これは従来の新聞とまるで違うと言ってもらいたい」とウィリアムズ氏は語った。
ルックアウト・ローカルのケン・ドクター氏とジェド・ウィリアムズ氏が登壇した、「ザ・ニュー・ノーマル」の動画は下記リンク先にて閲覧できる。
KAYLEIGH BARBER(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島 翔平)