ディスカバリー、ついに米 ストリーミング 戦争に参戦か?:独自の強みもあるが、先行きは不透明

米テレビネットワークグループのディスカバリー(Discovery)が熾烈なストリーミング戦争に参入する。

エージェンシーの役員らによれば、同社は2021年第1四半期からアメリカでD2Cのストリーミングサービス、「ディスカバリープラス(Discovery+)」をローンチする予定だという(欧州や日本など一部の国ではDplayを展開)。これまでも、同社が2020年第4四半期に独立したストリーミングサービスの開始を目指しているという噂があったが、同サービスの価格設定やスポンサーパッケージ、配信計画といった詳細が明らかになっていないことから、その時期については疑問視されていた(ディスカバリーの広報担当から、ディスカバリープラスについてコメントは得られなかった)。

ディスカバリーのデイビッド・ザスラフCEOは同社の業績発表や業界カンファレンスで配信サービスについて口にしたことはあったものの、これまでその詳細は不明なままだった。9月17日に行われたゴールドマンサックス主催のバーチャルイベントで、同氏は「まもなく配信サービスをローンチする」と述べている。同社はいまだサービス名を正式発表してはいないが、テックビジネスメディアのインフォメーション(The Information)は以前、ディスカバリープラスという名称になるだろうと報じた。実際、ディスカバリーは7月10日に「Discovery+」という商標を出願している。

テレビを見ない層がターゲットか

ディスカバリープラスに関して話を聞いたエージェンシー役員らによると、同サービスは広告の有無で価格が別れる予定となっており、広告付きの場合は番組1時間あたり最大5分の広告が流れるとされている。ただし、実際のサービス加入料について具体的な情報提供はまだ受けていないとのことだ。

また、具体数は不明なものの、ローンチ時点で一定数の広告主とのスポンサー契約を模索しているという。ある役員は、ディスカバリーの広告販売戦略について「ピーコック(Peacock)に近い」と述べている。NBCユニバーサルのストリーミングサービスであるピーコックの場合、ローンチ時点でのスポンサーは10社だった。これはワーナーメディア(WarnerMedia)の戦略とは対照的だ。同社は来年春の広告付き配信サービスHBO Maxのローンチに向けて、多数の広告主との契約を模索している。

ディスカバリーの場合、まだ広告主に具体的なスポンサーパッケージを提示してはいないようだ。広告インプレッション数の保証やサービスを成功させるための共同マーケティング、そしてパッケージの値段といった条件は不明なままとなっている。

「現時点で魅力的にうつるが、具体的なパッケージがどのようなものになるか注視する必要がある」とあるエージェンシー役員は語る。

また、ディスカバリーの目的は、同社のテレビ契約が普及していない層にサービスを提供することだとエージェンシー役員らは口をそろえる。ディスカバリーは同社の有料テレビ契約をしていれば、ログインすることで番組を受信できるアプリを提供している。「(テレビ契約に紐づいた配信アプリがすでに存在することを加味すると)ディスカバリープラスはテレビ契約をやめた層の受け皿だ」と別のエージェンシー役員は語った。

他サービスの補完的ポジションを狙う?

エンターテインメント企業の役員らは次のように分析している。「ディスカバリーはテレビ視聴者よりも若く、有料テレビ契約のキャンセルを検討している層を惹きつけるため、ディスカバリープラスに先駆けてリアリティ番組やドキュメンタリーといった20〜30代にアピールするオリジナル番組や、若年層に人気の有名人を起用した番組を市場に投入してきた」。

ディスカバリーは、LinkedInに同サービスのオリジナル番組のスタッフに関する求人情報を掲載している。役職でいえば、オリジナル番組のディレクターや、「食や犯罪ドキュメンタリー、ファッションショーなどのリアリティ番組」「科学、動物、技術などをテーマにしたドキュメンタリー」スペシャル番組の統括ディレクターが募集されている。

ディスカバリーがラテンアメリカ圏向けのライフスタイルチャンネルである「TLC」や、米国で屈指の加入率を誇るフードチャンネルの「フードネットワーク(Food Network)」といったチャンネルを有していることを考えると、ディスカバリープラスは家庭や料理、ライフスタイル関連の番組や科学関連のドキュメンタリー分野に強いストリーミングサービスになる可能性も少なくない。

もしそうなれば、NetflixやHBO Max、ピーコックなどの一般的なエンターテインメント系サービスと比べてニッチなサービスということになる。こういったニッチなコンテンツはほかのサービスを補完するため、強みになりうる。たとえばディズニー(Disney)が2019年11月にローンチした家族向けコンテンツを揃えるディズニープラス(Disney+)は、現在6050万人の加入者を集めているのだ。

テレビ番組の価値は未知数

ディスカバリーのザスラフCEOは8月5日に実施した業績発表会見において、「Netflixやディズニープラス、Amazonプライムと契約しているオーディエンスであっても、当社のコンテンツは魅力的だ。実際、米国人女性がもっとも見ているコンテンツとなっている」と述べている。たしかに、特定のカテゴリーに特化したテレビ番組を有しているというのはほかのサービスにないディスカバリーの特徴だ。これによりディスカバリープラスの今後の展開において、オリジナル番組だけでなく、より多彩な番組ライブラリを駆使してオーディエンス獲得を目指せるようになる。

ただし、現在ディスカバリーがテレビ放送している番組のうち、ディスカバリープラスで視聴できる番組がどれくらい増えるかは不透明だ。というのも、テレビ番組をストリーミングサービスに提供するのは有料放送事業者との配信契約に反する可能性があるためだ。LinkedInに掲載されたディスカバリーの求人情報を見ると、ディスカバリーは既存のテレビ番組やオリジナル番組だけでなく、ディスカバリープラスのために他社から番組を買収することも検討しているようだ。

ザスラフ氏は、9月のゴールドマンサックス主催のバーチャルイベントにおいて、「Netflixやディズニー、HBOにより動画配信は大きく普及した。そしてデバイスでコンテンツを視聴することもより広く受け入れられるようになっている。当社はそこに膨大な数の、新鮮なオリジナルコンテンツとともに参入する」と述べている。

しかし、どのデバイスでディスカバリープラスが利用できるようになるかは不透明だ。エージェンシー役員らはディスカバリーにサービスローンチ時点からAmazonやロク(Roku)のスマートテレビで利用できるかを尋ねているが、同社は配信計画の詳細を明かしていない。

プラットフォームとの「抗争」に巻き込まれる?

1年前の時点ではコネクテッドTVのトッププラットフォームであるAmazonとロクを、ディスカバリープラスも問題なく利用できたかもしれない。だが今年に入ってから、いずれのプラットフォームもより厳しい姿勢を見せ、テレビ局との配信交渉時に自社のサブスクリプション販売への協力を求め、広告インベントリの一部販売を要求するようになっている。ワーナーメディアとNBCユニバーサルはいまだAmazonと契約を結んでおらず、それぞれHBO Maxとピーコックでの配信契約の交渉を進めている。NBCユニバーサルは9月18日にロクとの契約締結に至ったが、ワーナーメディアとピーコックの契約交渉は行き詰まったままだ。

ディスカバリーもまた、Amazonとロクを前に同様の膠着状態に陥る可能性がある。同社はワーナーメディアやNBCユニバーサルほどの規模はなく、交渉における影響力は期待しづらい。そもそも今後の拡大を課題として掲げるなかで、(拡大のためには必須と言える)Amazonやロクと交渉の余地があるのかも不明だ。

ザスラフ氏はゴールドマンサックスのバーチャルイベント時に明言はしていないものの、ディスカバリープラスの配信チャネルの拡充を課題として匂わせ、次のように述べている。「現在、我々の唯一の課題はあらゆるデバイスで利用できないという点だ。これを解決するため、まもなく積極的な取り組みを開始する」。

[原文:‘This is for cord cutters’ Discovery aims to launch Discovery+ streaming service in early 2021

TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)