戦いの場がストリーミングからスクリーンに移ろうとしている。人々の注目を集めるため、競争が激化、あるいは平たん化するなか、2021年最後の4カ月は、テレビの未来のニューノーマルがどのようなものになるかを見極める時期になるだろう。
戦いの場がストリーミングからスクリーンに移ろうとしている。人々の注目を集めるため、競争が激化、あるいは平たん化するなか、2021年最後の4カ月は、テレビの未来のニューノーマルがどのようなものになるかを見極める時期になるだろう。
AMCネットワークス(AMC Networks)のコマーシャル売上、パートナーシップ担当プレジデントであるキム・ケレハー氏は、「今年は、第4四半期を前に、テレビの定義がリニア、デジタル、ストリーミング(まで)本当の意味で広がった年だと感じている」と話す。
ストリーミングサービスやテレビネットワークは2021年秋から第4四半期にかけて、対面制作の中断によって損なわれた番組供給ルートを再構築し、フル稼働の状態になると思われる。一方、オーディエンスはオフィスや学校に戻ることが予想されるため、テレビから離れ、パンデミック前の日常を取り戻す可能性がある。このような正常化の力学を踏まえ、テレビネットワーク、ストリーミングサービス、広告エージェンシーの幹部たちはこの時期、1年半のパンデミックを経て何が変わり、何が変わっていないかを見極めようとしている。
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オムニコム・メディア・グループ(Omnicom Media Group)の北米最高投資責任者を務めるジェフ・カラブリーズ氏はこう問いかける。「上質なコンテンツと従来からのスケジュールの復活はオーディエンスにとってどのような意味を持つのか? すべてが普通に戻るのか、それとも、私たちはオーディエンスを失ってしまったのか?」
充実した番組ラインアップ
第4四半期は歴史的に1年でもっとも好調な時期であり、2021年第4四半期はテレビネットワークやストリーミングサービスがこぞって、オーディエンスの獲得に再び本腰を入れると予想される。1年前はパンデミックの影響で、テレビやストリーミングの番組制作が中断し、主要スポーツのスケジュールが混乱したため、2020年第4四半期は低調に終わったが、2021年はネットワークやストリーマーが充実した番組ラインアップを用意しているようだ。
ブルー・アント・スタジオズ(Blue Ant Studios)で最高クリエイティブ責任者とコンテンツ担当共同プレジデントを兼任するローラ・ミカルチーシン氏は「この夏、我々は制作と開発の両方で例年の忙しさに戻った」と振り返る。ブルー・アント・スタジオズはNBCユニバーサル(NBCUniversal)のピーコック(Peacock)、ストリーミングサービスのキュリオシティー・ストリーム(Curiosity Stream)などの番組や映画を制作している。ブルー・アント・スタジオズはいくつもの制作会社に分かれているが、それぞれ12~15本の番組を制作中だとミカルチーシン氏は述べている。
従来型のテレビネットワークもパンデミック以前のようなプライムタイムのスケジュールを組むことになるだろう(つまり、脚本家のディック・ウルフ氏プロデュースの番組やリブート作品が満載ということだ)。NFLや大学フットボールも観客を動員して試合を行う予定で、中止は最小限に抑えることができればと期待している。あるエージェンシー幹部は秋のスポーツ生中継について、「すべてフル稼働だ」と断言している。一方、AMCネットワークスのようなケーブルネットワークでは、看板番組の放映が予定されている。AMCネットワークスは『ウォーキング・デッド(The Walking Dead)』と2つのスピンオフシリーズを用意している。「私たちは秋に向けて、本格的に大きな計画を立てている」とケレハー氏は話す。
ストリーミング各社も同様に充実化を推し進めている。たとえば、Netflixは下半期に番組供給を強化することで、契約者の増加が再び加速すると見込んでおり、2021年第3四半期の新規契約数は前年同期から130万人増えると予測している。NetflixのCFO、スペンサー・ニューマン氏は直近の決算発表で、「第4四半期に入れば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の荒波を乗り越え、かつての力強さが戻ってくると予想している。私たちにとっては一種の繁忙期だ」と述べている。
キュリオシティー・ストリームの最高製品責任者兼コンテンツ戦略担当エグゼクティブバイスプレジデント、デビン・エメリー氏も「季節的な話をすれば、第4四半期はストリーミングが非常に好調な時期だ」と述べる。キュリオシティー・ストリームはドキュメンタリーなどの事実に基づく番組を専門とする。2021年第1四半期~第2四半期に契約数が25%増の2000万人に達し、第4四半期は業績アップを見込んでいる。「下半期の季節性が後押しとなり、パンデミック中のエンゲージメントの高まりが結果につながると予想している」。
注目を巡る戦い
しかし、たとえテレビとストリーミングの視聴率が第4四半期に増えたとしても、ストリーマーの過剰が原因で、各社の取り分は減る可能性がある。秋のテレビシーズンがもはや従来型のテレビ局だけのものではないように、Netflixのような企業は従来型のテレビネットワークとディズニープラス(Disney+)、HBO Max(HBOマックス)、Hulu(フール―)、ピーコックなどのストリーミングサービスだけでなく、YouTubeのようなデジタル動画プラットフォームとも競合関係にある。
Googleのデジタル動画プラットフォームであるYouTubeは、パンデミック中、テレビの定義と市場がどのように拡大したかを象徴する存在にみえる。個人の動画制作者の多くが自宅スタジオや日常生活のなかで撮影を行っているため、パンデミックの影響に適応しやすい立場にあった。さらに、YouTubeユーザーもYouTubeの動画をNetflixや従来型のテレビと同じ画面で見ることに慣れてしまった。
Googleの親会社アルファベット(Alphabet)の最新の決算報告によれば、2021年6月、1億2000万人がYouTube動画をテレビ画面でストリーミング視聴した。2020年は月平均1億人だった。つまり、ストリーミング戦争の新たな領域が開かれたということだ。
コンサルティング企業プロフェット(Prophet)のパートナーとしてディズニー(Disney)、ワーナー・ブラザース(Warner Bros)、NBCユニバーサルなどのコンサルティングを担当するユーニス・シン氏は「YouTubeのテレビ画面での視聴が(Netflixの視聴時間に匹敵するほど)伸びていることで、Netflixはポールポジションを失った。さらに、ほかのストリーミングサービスもNetflixの成長を妨げている」と話す。「ストリーミングの競争環境とテレビ広告支出の背景にある需要の増加を総合すると、多くの人がテレビの重要な時期としてこれからの数カ月に注力することが予想される」。
広告配信の圧力
広告に関して言えば、2021年秋と第4四半期は、テレビネットワークが広告主に約束したオーディエンスを確保できるかどうかの試金石になるだろう。このテストはリニアネットワークとストリーミングサービスにまたがるもので、結果として、ストリーミングのみのセラーに資金が流れる可能性もある。
2021年のアップフロント契約交渉では、リニア視聴の減少が続いているにもかかわらず、テレビネットワークが再び、広告価格の値上げを勝ち取ったことが話題になった。このような値上げが実現した理由は、広告主が集中的に大規模となっているオーディエンスにリーチする費用対効果の高い媒体をまだ見つけていないこと、ネットワークのリニア、ストリーミング視聴が回復する可能性があると考えられていることだ。
別のエージェンシー幹部は「あのような決断を下したのは、第4四半期のカレンダーが正常に戻ると理解し、期待していたためだ。2020~2021年に定着したトレンドが一気に逆転すると思ったわけではないが、リニアテレビの急激な下降を食い止め、ストリーミング全体の競争力を高めることができると考えた」と説明する。
しかし、期待がある一方で、慎重な見方もある。「私は配信に注目している。私はメディアパートナーに、(視聴率)保証に対するより大きな責任を求めている。おそらく過去に負ったことがないほどの大きな責任だ」とカラブリーズ氏は話す。
誤解のないように言っておくと、ネットワークはオーディエンスへの配信の欠点を補うための対策を講じている。
従来型のテレビでは、エーアンドイーネットワークス(A+E Networks)のようなネットワークオーナーが広告主に、オーディエンスグループを拡大し、視聴の可能性がもっとも高い高齢者を含めるよう提案している。同社の広告販売担当プレジデント、ピーター・オルセン氏は「我々のビジネスは今や3分の2近くが、何らかの形で視聴層が拡大されたものになろうとしている」と話す。
テレビネットワークはさらに、リニアテレビネットワークだけでなくストリーミングプロパティにも広告を配信できる柔軟なアップフロント契約を広告主と結んでいる。こうしたいわゆる「流動的な」契約に同意した広告主は、視聴率保証が果たされる可能性が高い。ただし、それが保証されているわけではない。
2人目のエージェンシー幹部は「ネットワークグループは2つのものに賭け、消費者がコンテンツを入手する2つの方法どちらにも対応しようとしている。しかし、両方に対応できるだけのコンテンツがあるのだろうか? それが最大の未知数だ」と語る。
拡大したテレビ業界を取り巻くすべての未知数、不確実性を考えると、おそらく唯一たしかなものは、テレビの未来はどのように変化し、何が変化していないかについて、2021年最後の数カ月が何らかの示唆を与えてくれると期待できることだ。
あるテレビネットワーク幹部は次のように述べている。「現時点では、これが人々の日常生活、カレンダーのリズムにもっとも近いものだ。決して長期的な正常に近づいているとは思わない」。
[原文:This fall, TV networks, streamers and ad buyers will tune into the return of TV]
TIM PETERSON(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:小玉明依)