経済の見通しが立たない状態が続くなか、広告主は支出が売上に結びつく結果を求め、パブリッシャーにプレッシャーを加えている。既存ブランドの関係を維持しながらパブリッシャーが新しいクライアントを獲得するには厳しい状況だ。米DIGIDAYはメディア企業の幹部たちに取材をおこない、各社が置かれている状況を紹介する。
メディア企業が新しいクライアントを獲得するには厳しい状況が続いている。
アメリカ経済の見通しが立たない状態が続くなかでも、広告主のCEOたちは支出が売り上げに結びつく結果を求めプレッシャーを加えている。そんな状況下で、米DIGIDAYの取材に答えてくれた5つの異なるメディア企業の幹部たちによると、新しい広告主と関係性を構築することがこれまで以上に難しくなっているようだ。
「早くて安い」を求めるブランド
広告支出はいくつかの主要なカテゴリーでここ5カ月の間に回復を見せたものの、多くのブランド、特にリテール分野のブランドたちは秋が始まり冬が近づくにつれて暗い見通しがさらに長引くのではないかと心配している。こうした懸念から、多くの広告主たちはすでに関係性のあるパブリッシャーたちとより緊密に協働することに満足しているように観察される。特に小規模で安価、素早く実行されるキャンペーンが好まれている。
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スポーツにフォーカスするスタートアップであり、プレイヤーズ・トリビューン(The Players Tribune)や90ミニッツ(90min)といったサイトを所有するミニット・メディア(Minute Media)のプレジデントであるリッチ・ラウトマン氏は「広告主は馴染みがあるものを選ぶ」と言う。
この構図を作り上げている要素のなかで特に大きなものは、時間のなさだろう。ブランドたちは消費者の気分や経済の健全性が突然変わるかもしれないと心配している。そうした不安定な状況に見合わないような広告にお金を出すことを避けるため、普段よりももっと短いスパンで広告支出のプランニングをおこなっているのだ。ヴォックスメディア(Vox Media)の幹部のひとりは、ここ5カ月で多くの広告クライアントのキャンペーンのライフサイクル(つまりRFP(提案依頼)から掲載発注まで)が半分、さらには3分の1にまで短くなっていると語った。
もう1社のパブリッシャーのCRO(Chief Revenue Officer)は取材に対して匿名を希望したが、大手クライアントの多くは30日のプランニングサイクルで稼働していると言う。そのため大規模なブランデッドコンテンツ契約や野心的なクリエイティブキャンペーンがほぼ不可能になっているようだ。「業務取引的なもの、すぐに使えるような内容のものが圧倒的に多くなった」とこのCROは言う。
新規案件は遠のく
多くのブランドと直接的な関係を持っているパブリッシャーにとっては、このタイムスパンの縮小はそれほどの悪影響になっていない。現時点で広告主たちが懸念を抱かずに投資できる案件の多くは、パブリッシャーたちが普段売り込んでいるキャンペーンに比べると安価だが、頻度は増えているためだ。3つの異なるパブリッシャーで勤務する情報源によると、最近の傾向としてブランドたちはより小規模で素早く展開できるブランデッドコンテンツに取り組みたがっているという。
しかし、このような条件下では、これまで仕事をしたことのない新規の広告主から案件を勝ち取るのがより難しくなっている。RFPの件数は今年初頭で急激に低下したあと回復傾向にあるものの、この上昇が続く保障はない。メディアレイダー(MediaRadar)のRFP予測ツールは、今年の第4四半期でブランドが出すRFPの数を予測できていない。
ラウトマン氏によるとミニット・メディアはここ数カ月で新規のクライアントを獲得した。BBQなどのための炭を販売するブランド、キングスフォード(Kingsford)と芝生手入れのスコッツ(Scotts)などだ。春にはほぼすべてのプロスポーツがシーズンを停止したことで、ミニット・メディアの所有する多くメディアでコンテンツ戦略をなかば強制的に移行した。自宅で待機しているプロアスリートたちによるライフスタイル関連の、より個人的な「アスリート発信のコンテンツ」にフォーカスしたことで、それまで接点のなかったクライアントとのつながりができたという。
加えてミニット・メディアはプロアスリートたちと人種、そして社会正義といったトピックに関連して展開したコンテンツからも恩恵を受けた。「ブランドは大義を持った人々と足並みを揃えたいと思っている。我々はマーケットで起きていることを(その時々に)都合よく利用するような存在ではない。これらの(スポーツ分野における人種問題に関する)記事はプレイヤーズ・トリビューンが長いあいだ取り組んできたものだ」とラウトマン氏は言う。
プランドとのつながりを模索する
これまで人種に関する不正義や公衆衛生といったトピックを深掘りしてこなかったメディア企業たちは、広告主たちへの売り込みを始めるにあたってほかの方法に頼る必要があった。こういったメディア企業たちの多くはカスタムオーディエンスや消費者リサーチにより投資をおこなっている。
たとえば、リーフグループ(Leaf Group)では消費者リサーチの頻度を大きく増やしている。毎週グループ全体で共有するインサイトや予測がブランドとの対話をもたらし、それがビジネスへとつながることを期待しているのだ。
「『何が起きたのか、なぜ起きたのか』と説明することと、それに加えて『この調査に基づいて我々はあなたの業界に今後30日から60日のあいだに次のような変化が起きると(もしくは変化が起きないと)予測する』と追加できることのあいだには大きな違いがある」とリーフグループの広告・ブランドパートナーシップ部門シニアバイスプレジデントであるジェイ・クー氏は言う。
いま人気のある(いわゆるAリストの)有名人とパートナーシップを結び、スポンサードコンテンツに起用できる体制を整えることで広告主たちの興味を引こうとしているパブリッシャーもいる。ヴォックスメディアは大手タレントエージェンシーのCAA(Creative Artists Agency)と共に、こうしたプロジェクトに取り組んでいると同社の幹部は語った。8月初頭、ヴォックスクリエイティブ(Vox Creative)はZoom(ズーム)でのパネルディスカッションを主催し、女優で監督でもあるオリビア・ワイルドを目玉登壇者として、アーティストにより民主的にチャンスを与えることをテーマに語った。
しかし取材に応じた情報源たちによると、これらの手段で獲得した新しい案件はどれも小規模である可能性が高いという。「(新規クライアントからは)大規模なプロジェクトは発生しない」とあるCROは語った。
[原文:‘They’re gonna go with what they know’: Publishers struggle to win new business amid pandemic]
MAX WILLENS(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)