匿名性を保証する代わりに本音を語ってもらうDIGIDAYの告白シリーズ。今回は、あるパブリッシャーでプロダクト開発&インサイト部門を率いる人物に話を伺った。同幹部のパブリッシャーが有するデータには、サードパーティCookieの代わりになるとして、メディアバイヤーから引き合いが相次いでいるという。
業界最大手のブラウザ勢からサードパーティCookieが消えつつあるいま、パブリッシャーは自らのサイト上で広告主に人々をプロファイルおよびターゲッティングさせる主要手段を失いつつある。だが、そんなサードパーティCookieの死も、見方を変えれば、チャンスになりうる――それが少なくとも、あるパブリッシャーでプロダクト開発&インサイト部門を率いる人物の見解だ。
匿名性を保証する代わりに本音を語ってもらうDIGIDAYの告白シリーズ。今回は、この幹部に話を伺った。同幹部のパブリッシャーが有するデータには、サードパーティCookieの代わりになるとして、メディアバイヤーから引き合いが相次いでいるという。
なお、読みやすさを考慮し、発言には多少編集を加えてある。
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──2022年までにサードパーティCookieを自社ブラウザから追放するとGoogleが発表して以来、御社のビジネスに暗雲が低く垂れ込めている?
その反対だ。多くのエージェンシーから「御社のデータを使いたいのだが」との問い合わせが相次いでいる。うちが持っているデータはインサーションオーダー(広告掲載申込)ディールにも、プラベートマーケットプレイス(PMP)にも利用できる。エージェンシートレーディングデスクの幹部ならば、我々のデータを利用し、うちの広告プラットフォーム内にセグメントを設け、自らが仕掛けるキャンペーンのパフォーマンスに関するレポートを受け取ることもできる。70のファーストパーティデータディールを求めてきたメディアエージェンシーもいる。基本的にはどれも、プログラマティックギャランティードおよびPMPディールであり、彼らがうちのサイトでターゲット広告を打てるようにするものだ。専門家らが予測した、サードパーティCookie追放後の最悪のシナリオは、いまのところ起きていない。広告主というのは、自身のメッセージを伝えるために、何らかの術を必ず見つけるものなんだ。
──御社のデータのマネタイズ計画はほかにある?
現在、エージェンシー勢と確率的(probabilistic)なアイデンティティグラフについて協議している。うちのデータがほかのデータセットと融合される恐れをなくすもので、これが実現すれば、広告主は特定のオーディエンスがうちのサイトにいるか否かを、アイデンティティ照合をせずとも、予測できるようになる。こうしたタイプのディールを可能にするには、広告主には通常、大量の自社データへのアクセスが必要となる。
──エージェンシーとより緊密な関係を築いているわけだが、何か問題は?
エージェンシーのなかには、うちのファーストパーティデータと彼らのデータを融合したがるところもある。そうすれば、うちのサイトから広告を購入できるからだ。ただし、そうしたディールをまとめるにはサードパーティデータが不可欠であり、それだと結局、振り出しに戻ってしまう。
──つまり、御社がエージェンシーに販売するデータは御社のサイトでしか使用できないと?
我々はCookie IDもユーザーIDもエージェンシーと共有していない。信頼を裏切られたと、うちのユーザーに思われたくないからだ。その代わり、自社データの使用法を厳しく管理している。これはつまり、エージェンシーは我々との取引で手にしたデータを我々のサイト上でターゲティング広告を打つためだけに、そしてその後、それらのパフォーマンスを測定するためだけにしか使えないことを意味する。エージェンシーは早晩、すべてがよりサイトセントリックかつパブリッシャーフォーカスになりつつある、という事実を認めざるをえなくなるだろう。メディアバイヤーがひとつのキャンペーンにおいて、同じサードパーティデータセットを利用し、30もの異なるサイト上でいかなるユーザーにもリーチできる、という考えはもはや過去の遺物だ。クロスサイトトラッキングに未来はない。
──広告主とより緊密な関係を構築しているわけだが、最終的には、自社のエンドツーエンドシステムを確立し、アドテクベンダーやGoogleといったプラットフォームの介在を排除することが目的?
その理屈は理解できるが、アドテクスタックの構築は、現時点では優先事項ではない。それには、テクノロジーへの莫大な投資が必要となる。それに、たとえテクノロジーを手に入れたとしても、それを機能させる人材が社内にない。我々は何よりもまず、メディア企業だ。うちの広告のセルとバイをいずれもカバーするアドテクスタックを持つというのはつまり、中間業者に至るまでのプロセスの管理ができていないことを意味する。たとえば、サプライサイドプラットフォームはどうだった? 彼らはパブリッシャーと友人関係にあるアドテクベンダーだったが、いまや多くのメディアエージェンシーがそれぞれ独自のSSPを活用し、我々のヘッダービディングソリューションと直接統合しており、それはつまり、彼らのトレーディングデスクがうちの広告販売に関する莫大な知見を手にできることを意味する。SSPは広告のバイサイドにより近い存在だ。このエコシステム内において、我々はいわば友人を欠いている。
──SSPはパブリッシャーがデータをマネタイズする一助となることで、パブリッシャーとの関係復旧を目指しているのでは?
SSPが我々とパートナーシップの交渉を試みているのは、サードパーティCookieが消えた途端、彼らはこのエコスステムにおけるユーザーデータの取引手段を失うからだ。SSPはまず、データは自らが扱うべき、という概念を手放す必要がある。パブリッシャーである我々にとって、ファーストパーティデータとはあくまでも、我々が自身のユーザーから、ユーザーの同意の有無にかかわらず、正当な利益のために収集するデータであり、その目的は広告主に我々のサイトで広告を買わせることにある。にもかかわらず、そのデータをアドテクベンダーといった他企業と融合あるいは共有すると、それは新種のサードパーティデータセットと化してしまい、当然、ブラウザ勢にブロックされることになる。SSPにはこれまでどおり、我々のインベントリの表示という得意分野に特化していて欲しい――彼らは広告業界の誰にとっても、ファーストパーティ企業ではない。
──2020年2月前半、Googleはパブリッシャーに対し、Chrome上の他サイトで使用できるサードパーティCookieについて、その旨を明確に記すよう要請を始めたわけですが、この方針変更による問題は?
すでに全テックパートナーに連絡をしており、どこも現在、適切な調整を行なっている。つまり、彼らにとって特段の問題はないように思える。また、言うまでもなく、我々は自身のCookieも調べているが、特に顕著な影響が出るとは考えていない。
Seb Joseph(原文 / 訳:SI Japan)