異なるパブリッシャー間で複数のメディアをセットにしてサブスクリプションサービスを提供する、いわゆる「バンドル」は目新しい手法ではない。しかし、コロナ以降安定した登録者増を求めてパブリッシャーたちは再びバンドルに注目し、大手からローカルパブリッシャーまでさまざまな形でバンドル化の
ための提携を模索し始めている。
デジタルメディアにとってのバンドルの重要性が指摘されるようになって何年も経つが、経済が冷え込むなか、ここ数週間でバンドル化のニュースが多く飛び込んできた。
ブルームバーグ・メディア(Bloomberg Media)は8月4日、アスレチック(The Athletic)と提携して同誌を6カ月間追加料金なしでバンドルに組み込むことを発表した。
その前週、ダラス・モーニングニュース(The Dallas Morning News)やフィラデルフィア・インクワイアラー(The Philadelphia Inquirer)などの米国の地方紙を統括する業界団体、ローカル・メディア・コンソーシアム(Local Media Consortium)は、地方紙の購読者が同団体のほかのパブリッシャーによるスポーツコンテンツへ無制限にアクセスできるプログラム、「マッチアップ(The Matchup)」の提供を開始すると発表した。
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さらにコロンビア・ジャーナリズム・レビュー(Columbia Journalism Review:CJR)とニーマン・ジャーナリズム・ラボ(Nieman Journalism Lab)は、7月の最終週に掲載されたオピニオンコラムで、地方紙をサポートするためにはバンドル化が重要だと訴えている。
ハードルは高いが流用可能
サブスク技術プロバイダーのピアノ(Piano)で戦略担当シニアバイスプレジデントを務めるマイケル・シルバーマン氏によると、同社が抱えるクライアント300社のうち、過去1年間でバンドル化やバンドルの発売を検討したのはわずか3社にすぎないという。だが相次ぐバンドル化のニュースを見れば、パブリッシャーのあいだでバンドル化へ積もりに積もった期待があるのは明らかだ。
複数のメディアを広告非表示で閲覧できるサブスクリプションプラットフォームであるスクロール(Scroll)のCEOトニー・ヘイル氏は、CJRの記事の中でバンドル化によって地方紙はニューヨーク・タイムズ(The New York Times)とも競合できるようになると主張している。
だが小規模パブリッシャーにとって、バンドル化はクリアするのが困難なハードルが多い。まずバンドルを構築するには、社内の開発、オーディエンス、マーケティング、収益を担当する各チームのあいだで認識を共有する必要がある。ブルームバーグ・メディアでサブスク及び消費者マーケティング部門のグローバルリーダーを務めるリンジー・ホリガン氏は、特にバンドル化の経験がほとんどない場合、社内のどの人間のあいだで調整すべきかを把握するだけでも数ヶ月かかると指摘する。
さらに収益分配やマーケティング上の約束事、技術的な必要事項を確認する必要があり、決めるべきことは複雑多岐にわたる。
とはいえ、この大変なプロセスも一度こなしてしまえば2回目以降のバンドル化である程度流用できる。たとえばブルームバーグでは、過去8カ月間で3種類のバンドル商品を発売した。ホリガン氏によれば、最初のバンドル化のときと比べ現在同社は迅速に提携関係を構築できるインフラを獲得しており、同氏は新規カスタマーの獲得と既存カスタマーのリテンションのための方法を模索していきたいと意気込む。
「バンドルは素晴らしいポテンシャルを秘めている」とホリガン氏は語る。「ブルームバーグのメンバーに提供できるコンテンツを考えるだけでワクワクする。だが選択は慎重におこなわねばならない」。
実現可能なパブリッシャーはわずか
とはいえ、現在パブリッシャーはこれまで以上に限られたリソースでの運営を余儀なくされており、バンドルが一気に普及する可能性は低い。
ヘイル氏はここ数ヶ月でパブリッシャーのサブスクが増えていることに言及しつつ、「バンドル化は興味深いチャレンジで注目度は高い。だが各社のキャパシティは決して大きくなく、頼むから失敗しないでくれと強く願っているはずだ」と語る。「バンドル化の限界についてはパブリッシャーも認識しているだろう」。
パブリッシャーは長年、さまざまなタイプのバンドルを試してきた。テクスチャー(Texture:現在のApple News+)、リードリー(Readly)、インクル(Inkl)など、何十ものメディアをひとつのアプリに統合したニュース版Spotifyとでも言える大規模なバンドルもあれば、パブリッシャー同士がお互いを補完するメディアでの提携もおこなってきた。
2年ほど前、デジタルコンテンツ購読プラットフォームのスクリブド(Scribd)とニューヨーク・タイムズは月額12.99ドル(約1400円)で両社の商品にアクセスできるバンドルの提供を開始した。両社は契約を更新しているが、バンドルのパフォーマンスについて詳細は共有していない(なお、米DIGIDAYも昨年末に米ビジネスインサイダー[Business Insider]と提携し、BIプライム[BI Prime]とDigiday+のバンドル商品を提供している)。実験的なバンドルのなかには長く継続しなかったもの、失敗したものもある。たとえば2月に発表されたブルームバーグ・メディアとインフォメーション(The Information)のバンドルはすでに終了している。
また、バンドルや提携のなかには、マーケティングだけを目的としておこなわれるものもある。たとえばブルームバーグとアメリカン・エキスプレス(American Express)の提携では、2020年7月から同年末までにブルームバーグの購読料をアメックスのカードで支払うと一部が払い戻される仕組みとなっている。
だがマーケティングを目的としてバンドル化のためにリソースを投入できるだけの余裕のあるパブリッシャーはごくわずかだ。
バンドル化の波は広がるか
ダラス・モーニングニュースのCPO(Chief Product Officer)であり、バンドルのマッチアップを推進したマイク・オーレン氏は、「社内でバンドル化の成功基準を尋ねたところ、年間5万のサブスク契約という答えだった」と振り返る。
計画通りにいけば、マッチアップはこの目標を大きく上回る。コムスコア(Comscore)のデータによると、マッチアップの月間ユニーク訪問者数は7800万人にもなる。これはスポーツ分野でESPNとヤフースポーツ(Yahoo! Sports)に次ぐ米国で第3位の数字だ。
もしマッチアップのオーディエンスの3%がサブスク登録をおこなえば、参加しているパブリッシャー間で合計で230万人以上の新規会員を獲得できることになる。これは昨年のアスレチックの購読者数の4倍近い。
オーレン氏は「マッチアップはトロイの木馬のようなものだ」と語る。とはいえ、これほどのビジネスチャンスはほとんどない。そしてサブスクについても、マッチアップのなかでオーディエンスが好きなチームを報じているパブリッシャーに偏っている。だが収益増に加え、バンドル化のメディア企業に与えるメリットがはっきりしていくことで、今後さらなるバンドル化の波が訪れる可能性は低くない。
そのなかでコンテンツに限定されない提携関係も模索されている。たとえばテッククランチ(TechCrunch)では、サブスク会員の獲得やリテンションに特典や割引が効果的だと考えている。
「今後こういったコンテンツやメディア戦略を目にするようになるだろう」とホリガン氏は語り、次のように述べた。「オーディエンスを大切にし、育くむようなパブリッシャーが成功を収めるはずだ」。
MAX WILLENS(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)