ワシントン・ポスト(The Washington Post)は2017年、報道と記事を強化するためにAR(拡張現実)を活用する計画だ。計画では、最初のAR記事を2017年春に公開。その後、四半期ごとに1本の公開を予定している。最初の記事コンテンツは、革新的な建築を紹介するシリーズものになるという。
ワシントン・ポスト(The Washington Post)は2017年、報道と記事を強化するためにAR(拡張現実)を活用する計画だ。
ワシントン・ポストが最初にARを使ったのは2016年のこと。2015年にメリーランド州ボルティモアでフレディ・グレイ氏が逮捕された際に死亡するという出来事を解説するコンテンツを制作した。ただし、読者はこのコンテンツにアクセスするためには、アプリをダウンロードする必要があった。それ以降、そうした面倒なプロセスをなくすため、同紙はARフレームワークを2つの既存アプリに組み込むべく準備を続けてきた。いずれも自社で開発した、雑誌スタイルの「レインボー(Rainbow)」アプリと、昔ながらの新聞スタイルのアプリだ。
計画では、最初のAR記事を2017年春に公開。その後、四半期ごとに1本の公開を予定している。最初の記事コンテンツは、同紙で芸術と建築を担当する批評家フィリップ・ケニコット氏のシリーズもので、革新的な建築を紹介。ARを駆使し、スマートフォンでインテリアを見て回りながらナレーションを聞けるようになっている。
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ARが秘めた可能性
2016年には、VR(仮想現実)とそのローテク版にあたる360度動画が、パブリッシャーから大いに注目された。だがVRは、制作費が高額になり、視聴用デバイスもさほど普及しておらず、記事向けの活用法が必ずしも明確ではない。さらに難しいのが、広告予算で制作を助けてくれる広告主を説得することだ。
それよりは、ARの活用を増やす方がより簡単だと考えられるのだろう。ARは、現実世界の映像のうえに、デジタルの要素を追加するもの。もっとも有名な例は、モバイルゲームの「ポケモンGO」だ。
ところが、「我々はまだ、ARについても大いに懐疑的だ」と、このプロジェクトを率いるワシントン・ポストの製品ディレクター、ジョーイ・マーバーガー氏は語る。「しかし、ARの環境は徐々に良くなっている。具体的には、複数のフレームワークが入手可能になっていること、手軽に楽しめるようになっていることだ。VRの場合はヘッドセットが必要になる。だが、ARなら対応デバイスをみんなが持ち歩いている。拡大する可能性を秘めているのだ」。
広告主の関心も高まる
だがARもまた、安価に制作できるとは限らない。ワシントン・ポスト以外だと、メディア企業はまだARの実験をはじめたばかりだ。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は長年ARに関心をもっていたが、実際に試すにはスポンサーが必要だった。結局、同紙のブランドコンテンツ部門であるTブランドスタジオ(T Brand Studio)がIBMと組んで、映画『ヒドゥン・フィギュアズ(Hidden Figures)』に着想を得た「アウトシンク・ヒデン(Outthink Hidden)」というプロジェクトを1月に立ち上げた。また、VRを重点的に導入してきたUSAトゥデイ(USA Today)は、ARコンテンツを実験していると述べたものの、詳細はまだ明かせないとのことだった。
ワシントン・ポストには、資金が潤沢なオーナーのジェフ・ベゾス氏が充実した実験の場を提供してきた。同紙はまた、初のAR記事に協力するスポンサーを確保している(マーバーガー氏は、広告主を明かさなかったが、AR要素は記事のあいだや記事内に広告と明確にわかる形で配信されると予告した)。
ワシントン・ポストのグローバルマーケティングソリューション担当ディレクター、ケイティ・エメリー氏は、ポケモンGOが軌道に乗って以降、広告主のあいだでARへの関心が大いに高まってきたと指摘。その多くがすでに、AR資産やAR活用のアイデアを蓄積していると話す。エメリー氏がこれまでに話し合いの場をもったある企業は、ARを使って自社製品をあらゆる側面から提供することに関心をもっていた。また別の企業は、ARを使って小売店の内部を見せたがっていたという。「広告主にとって、ARはVRよりもやるべきことを具体的に把握しやすいようだ」と、エメリー氏は語る。
ARに残された課題
ただし、ワシントン・ポストはARコンテンツを安価に制作できるため、スポンサーに依存はしていないと、マーバーガー氏は話す。同紙はすでに、編集プロジェクト用にたくさんの準備作業を行ってきた。したがって、もはやゼロからのスタートではない。人材面では、ニュース畑から2人がARなど新形式の記事制作に専念している。加えて、エンジニア2名と製品マネージャー1名が、勤務時間の大半をAR記事コンテンツへの取り組みにあてている。
しかし、課題がないわけではない。大半の読者にとっては新しい体験なので、使い方に慣れてもらう必要がある。ワシントン・ポストは、記事のARを説明するためのセリフ作りにかなりの労力を使ってきた(ちなみに、選択によりテキスト版にスキップできるという)。
加えて、ARはどんな記事にも適しているわけではない。マーバーガー氏が理想とする記事は、視覚要素が重要で、それゆえにARでうまく説明できるもの。コンテンツの賞味期限が長いもの。そして、読者が体験できる選択肢の幅を提供できるものだ。それでも、ワシントン・ポストはこのプロジェクトの実施で、ARがさらに普及したときに備えて経験を積むこと、そしてARで得る教訓を未来のVRプロジェクトに活かすことを望んでいる。
「我々はまだ確信を得ていないが、ここから学んでいきたい」と、マーバーガー氏は語る。「最悪の場合でも、記事の伝え方の改善に役立てたい」。
LUCIA MOSES (原文 / 訳:ガリレオ)